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商品説明
一瞬が永遠なら、永遠もまた一瞬。過ぎて返らぬ思い出も、私のうちに生きている。秘めた想いは、今も胸を熱くする。大切に抱えていた想いが、解き放たれるとき—男と女、友と友、親と子を、人と人を繋ぐ人生の一瞬。「万華鏡」「百物語」「包丁」「昔町」「洒落小町」「林檎の香」など、謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る短篇集。【「BOOK」データベースの商品解説】
秘めた心が解き放たれる一瞬。人から人に手渡され、人と人をつなぐ想いに胸が熱くなる−。さまざまな想いの軌跡、謎に充ちた人の心の機微を丁寧に辿る短篇集。「万華鏡」「百物語」「洒落小町」「林檎の香」など23篇を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
百物語 | 7-16 | |
---|---|---|
万華鏡 | 17-27 | |
雁の便り | 28-40 |
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紙の本
一瞬と永遠
2007/08/28 04:25
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:リッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
北村さんの待望の新刊、「もったいない、もったいない」と思いつつも途中で止められず、一気に読んでしまいました。
1995年に『小説新潮』に掲載された『百物語』から、今年 『yomyom vol.3』 に載った『ほたてステーキと鰻』までの23篇が収められています。
不思議な話、笑える話、心が暖かくなる話などなど、いろいろなタイプの物が収録されていますが、
その底辺に流れるのは、北村さんの作品に共通するテーマ“時と人”。
本作はその中でも、“一瞬と永遠”に重きを置いているように感じられます。
特に私が好きだったのは、
p. 9、6行目の理由を考えるとまた深い 『百物語』
物語の進め方とタイトルが妙の『包丁』
心の動きの謎を描いた『恐怖映画』
ラストがにくい『洒落小町』
本格推理と小説が幸福な結婚をした“日常の謎”作品『凱旋』
素直にいいなぁと感じされられる『雪が降ってきました』
夫婦の刻んできた時・刻んでいく時を描いた『石段・大きな木の下で』
表題作『1950年のバックトス』
林檎ジュース色の道『林檎の香』
そして『ひとがた流し』の続編『ほたてステーキと鰻』
・・・って、ついつい、いっぱいあげてしまいましたが(笑)、どれもこれも絶品なんです。
『ほたてステーキと鰻』がラストに来ているのがまた絶妙ですよねぇ。
p. 239 の最後の1行に、各篇の一瞬・永遠と表紙が繋がったように感じられました。
紙の本
人の世の不可思議さ、生きていくということへの思いに浸らせてくれる短編集。
2007/11/26 22:28
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うっちー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本を読んでいて、あらためて、心にすとんと落ちることがある。人生の不可思議さとか、人と人との縁の結ばれ方とか、出会いと別れ・再会、遥かな時を超えて、やっとその意味がわかることがあるとか‥。あぁ、そうだった、そうなんだと思わせてくれる小説のどんなにありがたいことか。
この本には、ちょっと怖い話、どきっとする話、ほろっとくる話など、23の短編が入っている。それぞれ何気ないようでいて、趣向がある。ごく身近な話のようでいて、この世とあの世のあわいの話だったりする。つくづく、北村薫はうまい、と感じさせてくれる。
表題作の「1950年のバックトス」は、孫同士が、ひょんなことでつなぐ縁の物語である。そこには、人生の中の輝ける青春が封じ込められ、それが長い年月を経て、孫の姿を借りて躍り出てきた~それはまぎれもなく、人生は続いている、続くのだと確信させる喜びにもあふれている。
「ほたてステーキと鰻」は、あの「ひとがた流し」の後日談である。その中に、こんな一文がある。
「夜と昼があり、曇りと晴れがある。そうやって、一日一日を過ごしていくのだ。」
「しかし、何かを失えば、また何かをえることもあるのだろう。」
本当に、そうだそうだと思いながら、読んだ。
北村薫の書く物語の底にあるのは、人生へのいとおしさと、せつなくても、なんとか明るい方を向いて生きようとする姿勢であり、そこに共感する。私にとって、とても大切な作家であり、今回の作品にも満足した。
紙の本
やっぱり表題作の爽やかさが一番かな、やっぱり女性のことを分かるのは女性が一番・・・
2007/11/22 19:03
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本が出たら読む、と決めている作家がいます。勿論、現存作家のことですが、全部、と決めているのが筒井康隆大明神で、これは実行できています。北村薫については「詩集」「エッセイ」「アンソロジー」を除く、という断りが付きますが達成。山田正紀については、全部読む積りなのに、なぜか見落としが多い。
で、北村のこの本、「エッセイ」に分類して読むのをやめようか、と思ったものです。私の場合、あまり調べずにタイトルやカバーの印象でジャンルを判断してしまいます。で、あまり興味が湧かないのが団塊の世代が過去を振り返った本。基本的に、懐古趣味、っていうの私の中にはなくて、まだまだ前を向いているのに、NHKの朝ドラじゃあるまいし、昭和20年代ばかり懐かしんでバカみたい、なんて思う。
で、この本にはそういう過去振り返り型エッセイだろうな、と思わせる部分がいくつかある。勿論、「1950年」はそれに当たりますが、「バックトス」だってそうじゃない?だってこれってラグビー用語でしょ、北村が卒業した早稲田が強いっていう。で、早稲田が最も強かった時って、やっぱり昔だよね、なんて勝手に思い込む。
それと目次を見たときの印象。なんていうかエッセイ風のタイトルが溢れている。掌編小説、なんていうものがあることをすっかり忘れて、ああ、これは北村が旧き良き時代を振り返った小文集なんだな、って。ちょっと見に美しいイラスト風の謡口早苗の装画だって、新潮社装幀室のどちらかというと余白の多い装幀は、エッセイ集でもおかしくない。そんなこんなで出遅れてしまった次第。
出版社の謳い文句は
忘れがたい面影とともに、あのときの私がよみがえる――。
一瞬が永遠なら、永遠もまた一瞬。過ぎて返らぬ思い出も、私の内に生きている。秘めた想いは、今も胸を熱くする。大切に抱えていた想いが、解き放たれるとき――男と女、友と友、親と子、人と人を繋ぐ人生の一瞬。「万華鏡」「百物語」「包丁」「昔町」「洒落小町」「林檎の香」など、謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る二十三篇。
です。二十三篇すべてを( )内に初出を示しながら、 簡単に紹介しましょう。
・百物語(「小説新潮」1995年10月号):酔っ払った後輩を送り届けるように言われた男が彼女から聞かされたのは・・・
・万華鏡(「小説新潮」1996年7月号):作家のところに押しかけたファンが言い出したのは・・・
・雁の便り(「小説新潮」1997年10月号):季節外れに舞い込んだ年賀状は・・・
・包丁(「小説新潮」1998年3月号):母が亡くなるまで気にしていたのは古い包丁・・・
・真夜中のダッフルコート(「小説新潮」1999年1月号):誰もいないところにあったダッフルコートから思い浮かぶのは・・・
・昔町(「小説新潮」2000年1月号):大金持ちの趣味が嵩じて・・・
・恐怖映画(「小説新潮」2001年2月号):恐怖を知らないと豪語する男が娘と見た映画は・・・
・洒落小町(「小説新潮」2001年6月号):小さいときから駄洒落が大好きだった私は、子供ができてもその癖が抜けなくて・・・
・凱旋(「小説新潮」2002年1月号):伯父が回想録の中で触れていた歌の意味は・・・
・眼(「小説新潮」1996年12月号):恋をする相手は、身体の不自由なほうがいい・・・
・秋(「小説すばる」1996年9月号):M夫人を殺す為に尾行を開始した私は・・・
・手を冷やす(「小説すばる」1996年9月号):万年筆のインクが垂れないように手を冷やした私は・・・
・かるかや(「オール讀物」2000年1月号):私が子供のころ何故か胸をときめかしたのは・・・
・雪が降って来ました(『君へ。』所収(メディアファクトリー)2004年):子供のころファックスの物まねが上手だった俊太郎が大学生になって・・・
・百合子姫・怪奇毒吐き女(『秘境。』所収(メディアファクトリー)2005年):道夫が恋したのは友だちの姉。日本的な風情を漂わせる美女は・・・
・ふっくらと(『空を飛ぶ恋』所収(新潮文庫)2006年):メールなど大嫌いな祖父が待ち望むのは・・・
・大きなチョコレート(「読売新聞」てのひら小説館2006年10月14日):古くなったチョコレートから連想するのは・・・
・石段・大きな木の下で(「ダ・ヴィンチ」2006年11月号):しばらくぶりの旅行で夫妻が思い出すのは・・・
・アモンチラードの指輪(「ゼクシィ」2006年6月号):祖母が二人に譲りたいといってきた結婚指輪、それに秘められた思い出は・・・
・小正月(「小説新潮」2005年1月号):イバラギとイバラキ、関東と関西の両地域の人の思い込みは・・・
・1950年のバックトス(「小説新潮」2006年1月号):野球のことなんか知らないと思っていた祖母が見せた意外な素顔・・・
・林檎の香(「小説新潮」2007年1月号):カーナビの為の声優に選ばれた私が嗅いだのは・・・
・ほたてステーキと鰻(「小説新潮」2007年3月号):デパートで買った鰻弁当は・・・
たしかに、どの話にも過去の香りがしますが、振り返って懐かしむだけの話はありません。おまけにどれも持ち味が違って、だれでも自分が好きな物語を見つけることができるはずです。なかでも私が好きだったのは「百合子姫・怪奇毒吐き女」と「1950年のバックトス」です。特に、中学生や高校生の話、兄弟姉妹を扱ったものが好きな私には、前者の落差が面白い。
で、泣きながら自分の勘違いを反省したのが表題作。確かに、過去ものではあります。でも、大半は現代。それにミステリ・テイストが少し。その部分が実にいい。理に落ちる部分で泣かせる、っていうのは北村薫だけの必殺技じゃないか、って思います。そして「バックトス」。ラグビー用語じゃなかったんですね。ま、こじつければ早稲田に結びつくんですが・・・
そう、野球なんです。私は、野球、嫌いです。ま、野茂、伊良部がいたし、今はイチローがいるのでMLBだけは見ます。でも高校野球や、その精神を引き摺った(逆かもしれませんが)プロ野球はだめ。だから、最初から分っていたら手にしなかったかもしれません。そうしていたら、爽やかな涙で心が洗われることもなかった。
いやはや、先入観でものを見ちゃ損するぞ、って反省した次第。ちなみに、私が現在最も注目している桜庭一樹は「眼」が最も恐かったそうです。北村薫の凄さとを彼女がどう見ているかを知りたい方、新潮社のwebで検索してみてください。桜庭の北村体験を辿ることができますから・・・
紙の本
北村薫らしい短編に満ちた一冊
2007/11/21 22:22
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
古くは1995年から今年にかけて各誌で発表された23編を集めた短編集です。
底冷えさせるホラーの佳品(「百物語」「雁の便り」「包丁」)もあれば、幻想の世界に遊ぶ小品(「万華鏡」)もあり、また女性らしい心の機微を飾らず描いた絶品(「雪が降って来ました」「林檎の香」)もあるといった具合に、ここに収められた作品の顔ぶれは実に多種多様です。
分けても北村薫の面目躍如といえるのは、先達の著した書籍との特異な出会いによって生まれる作品の数々です。
「凱旋」は伯父が遺した手記にあったある詩編をめぐる物語です。
「我死なば鯉幟をば立てよかし 凱旋したることのあかしに」という歌の「凱旋」という言葉に込められた言葉の解釈一つで物語の印象ががらりと変わるというこの短編は、日常にささやかなミステリーが潜む様を描くのに巧みな北村薫らしい一編です。
そして私が最も気にいったのは「アモンチラードの指輪」です。
俊平の祖父はワイン業を営んでいました。ある日彼は知人から、ある小説に出てきた「アモンチラード」という酒のことを聞かれます。このことがきっかけとなってやがて祖父と祖母の間にささやかな、しかしぬくもり溢れる絆の物語が生まれるのです。
俊平の祖父に尋ねごとをしたその知人が読んだ小説の名は明確には触れられません。しかし、「アモンチラード」という言葉で真っ先に思い浮かぶのはあの「アモンチラードの樽」ではないでしょうか。古今東西のミステリー小説に通暁している北村薫のことですから、エドガー・アラン・ポーの残酷な復讐譚「アモンチラードの樽」を念頭に置いてこの「アモンチラードの指輪」を書いたとする私の想像は突飛ではないと思います。
ポーの怪奇譚が遠因となってこんな小粋な夫婦愛の物語が誕生したのだとしたら、それこそ北村マジック。
そんな素敵な想像のひとときを与えてくれたこの一冊を、私は大いに楽しみました。
紙の本
しっとりとしたたたずまいが息づいている短篇集。緑茶の香ばしい薫りが漂う雰囲気が好ましく、しみじみと胸に沁みます。
2010/01/26 23:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふっと背筋が寒くなる話、なつかしい香りのするノスタルジックな話、家族の心の絆を描いた話など、全部で23の掌篇、短篇が収められています。
いまいち話の面白味が分からない掌篇もいくつかありましたけれど、全体の雰囲気は、緑茶の香ばしい薫りを漂わせた奥床しく、品のあるもの。怖い話にしても、しみじみと胸に沁みる話にしても、北村薫印ともいうべきしっとりとしたたたずまいが息づいているように思いました。
なかでも、とびっきり気に入った短篇が、表題作「1950年のバックトス」。冒頭、母親が見守る少年野球の話が、ある人物の登場からこっち、ぐんぐんと素敵な話に変わっていくんですね。それはまるで、さっきまで真っ白だったスケッチブックの紙の上に、青い空が広がり、生き生きとした絵が描かれていくのを眺めているかのよう。エンディングの光景に目頭が熱くなりました。
「包丁」の、ひやりとするホラーの味。
「昔町」の、なつかしいノスタルジア。
「雪が降って来ました」の、ほっこりしたあたたかみ。
この三つの短篇、掌篇も、素敵な味わいだったな。
見開き二頁に、都筑道夫、宮部みゆき、秋月りすの名前が出てくるところにおおっ!となった「真夜中のダッフルコート」も、北村薫のくつろいだ筆致が楽しかった。
作品の初出は、「小説新潮」をはじめとする月刊誌ほかに、1995年~2007年にわたって掲載されたもの。
玉石混淆の小品集でしたが、私にとっては表題作と出会えただけで、「ああ、読んだ甲斐があったなあ」と嬉しくなった一冊です。