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商品説明
だめ妊婦、ばんざい!天才ロックギタリストの誕生日に母親になる予定の“私”をめぐる、切ないマタニティ日記。直木賞作家・角田光代、待望の書き下ろし。【「BOOK」データベースの商品解説】
出産にはいくつものストーリーがあり、悩みと笑い、迷いと決定が詰まっているのだろう。だめ妊婦、ばんざい! 天才ロックギタリストの誕生日に母親になる予定の「私」をめぐる、切ないマタニティ日記。書き下ろし小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
角田 光代
- 略歴
- 〈角田光代〉1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。「空中庭園」で婦人公論文芸賞、「対岸の彼女」で直木賞、「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。
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紙の本
嘘の本当
2008/04/16 23:41
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トマト館 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは、れっきとした小説です。
妊娠した主人公がでてきますが、
あたまに「私」がつく小説でもなければ、
随筆、エッセイ、体験記と呼ばれる類のものでもない、
まったくのフィクションです。
つまり、著者角田光代は妊娠も出産もしていないのです。
妊娠も出産も、
なかなかすぐに経験できることではありませんが、
疑似体験ができる素材が多々あるということは事実で、
育児書の数々も含めて、
上に挙げた随筆、エッセイ、体験記が、
そのような素材の大部分をしめているでしょう。
それに対してこの本は、
しっかり小説してます。
つまり、
読む人を意識していて、
おもしろいところ、よませどころが意図されているのです。
これって、今までなかなかありそうでなかったパターンではないですか?
妊娠する→うれしい、とまどう、まよう、などなど→出産→感動大爆発、
というものだと、
感動の中心、よみどころはおもに後半で、
そこにむかってクレッシェンドしていく感じになりますが、
「予定日はジミー・ペイジ」
の場合は、そういうありふれたクレッシェンドが見えず、
随所随所という感じで新鮮でした。
だからこそ、
「妊娠・出産は人それぞれなんだよなあ」
って感じがしました。
(別に出産に対して感動することがありふれていていけないって言ってるのではないです。
誤解なさらぬよう)
角田光代はプロの
小説家なんだなあと思いました。
紙の本
プロの手による、リアルなマタニティ「小説」。実用書よりお役に立つかも…
2009/01/24 17:57
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:月乃春水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
マタニティ「小説」です。エッセイではありません。
新聞広告でこの本の発売を知ったとき、てっきり角田光代さんがご懐妊、もしくはすでに出産されたものと思ってしまいました。が、ちがいます。書き下ろしの小説なのです。
もともとこの本の終わりの部分だけが短い小説として、四年ほど前に朝日新聞に掲載されたのだそうです。すると、きれいなカードや花がぞくぞくと届き…つまりわたし同様、てっきり角田さんが出産されたものと思いこんだ、久しく会っていない編集者がいたのだとか。
かくして(詳細はあとがきに書かれています)終わりの部分だけがあったものに、そこに至る経緯を遡って書かれた小説というのが、この本となっているわけです。
日記形式で書かれています。
『4月×日 性交した。』からはじまり『1月9日 いちばん生まれてほしくない日に兆候がきた。』まで。出産する直前に終わる、まさにマタニティ日記です。
天才ロックギタリストの誕生日に母親になる予定の「私」こと、マキちゃん。
「私、ひょっとしたら子どもができたの、うれしくないかもしれない」
とまどいながら、妊娠・出産に関する本を買い、一冊の妊娠本に書かれていた「日記をつけましょう」という項目のとおり、ノートに日記をつけはじめます。
本によると、日記に書く項目はたとえば
○ 今日(この一週間)どんな気持ちだったか
○ かなしかったこと
○ 赤ちゃんに対して思ったこと
○ うれしかったこと
○ 今日(この一週間)食べたもの
○ 食べてはいないけれど食べたかったもの
○ 悩んでいること
○ パートナーに対して思うこと
それから、検診について、
○ 検査の結果・体重・血圧など。
それを見た夫もノートを買ってきて
「このノートは、一週間ずつ交換しよう」
以下、夫婦の会話。妻の言葉からはじまります。
「交換日記?」
「うん、まあ、そういうことだね」
「なんのために?」
「なんのっていうか、まあ、相互理解」
「じゃあ今見せて」
「だめじゃん、交換するまで見ちゃだめなんだよ、絶対に見せない」
マキちゃんは、よく夢を見て、その内容がこと細かに描かれています。
わたしも妊娠中は妙な、そして現実かと混同してしまうような夢ばかり見ていたことを思い出しました。
妊娠、出産はともすると美化して語られてしまうこともありがちです。
が、しかし、その間のからだの変化に伴う不安や悩み、夫やまわりの人との行きちがい、ところどころで感じる違和感etc.さまざまな気持のうねりがあるのです。いいことばかりじゃありません。
その部分を角田光代さんは見事にすくい上げ、なんともリアルな「小説」に仕上げています。これぞプロの技。あっぱれ!です。
以下、この小説の中で拍手モノのフレーズを挙げてみます。
近所の病院で行われる母親学級に出かけてみたマキちゃん。
● プレママってなんだ、と思い、ああ、ママ以前ってことかと理解したとたん、なんだか猛烈に腹がたった。なんだプレママって。なんだこの飾りつけ。なんたこのわくわく感。馬鹿にしてんのか。妊婦授業とか、母親学級でいいじゃないか。
こういう突発的な、理不尽な怒りには慣れている。なんだか妊娠してから私は怒りっぽいのだ。放っておけばすうっと落ち着く。(P135)
この母親学級で出会った妊婦にお茶に誘われ、語るマキちゃん。
● 「世のなかでもっともすばらしいことなのです……なんて、すごいよねえ。私、なんか出産って美化されすぎていると思う。こういうクラスにくくれば、みんなこれからお産しようって人ばかりだから、なんていうの、もう少し原寸大というの、等身大というの、つまり美化されない出産を学べると思ったんだよね。でもプレママクラスだもんなあ」(P139)
● うるせえ、うるせえ、うるせえ、うるせえ。心のなかで何度も言いながら、よたよたと駅に向かった。知ってるよ、全部知ってる、母親が不安だったらよくないって、怒ると酸素が届かないって、産みたくないなんて思ったら赤ん坊にもろばれだって、何度も何度もどっかで読んだし聞かされた、そんなこたあ知ってんの、だけど私は機械じゃないんだもん。子どもができた瞬間にメンテナンス万端の子産みマシンじゃないんだもん。それにほかのだれでもないんだもん。(中略)赤ん坊できた瞬間に、おだやかでたおやかでゆったりした寛容な女になれるわけなんかないんだよ。なりたいけど、そんなの、仮面ライダーにしてくださいっていうくらい無理なんだもん。(P141)
昔の恋人、好きで好きでたまらなかった男、しげピーに会いに行って。
向かいに座ったしげピーをこそこそと盗み見て、だれかを本当に思うことを、本気で必要だと思うことを、私に教えたのはこの人だ、と思いつつ、はっと気づくマキちゃん。
● 私のおなかの子ども。この子どもは、きっとそういうものでできている。だれかを好きだと思うこと、必要だと思うこと、失うのがこわいと思うこと、必要だと思うこと、笑うこと、泣くこと、酔っぱらうこと、少し先を歩くてのひらにてのひらをからめたいと思うこと。神さまお願いだからこの人を守ってくださいと思うこと、この人が笑っていられますようにと思うこと。しげピーのことだけじゃない、今までわたしが、いや私だけでなく、夫もまた、幾度もくりかえしてきた、祈りみたいなそういう気分。私がこれから産み落とすのは、そういうものだ。(P177)
● 子どもを産むということは、時間を手に入れることかもしれない。
時間っていうのはいつもいつも流れているんだけど、子ども産んだとたん、それが目にみえるようになる。(P193-194)
妊婦の方々、元妊婦の方々、これから妊婦になるであろう方々にぜひ全文をお読みになっていただきたいと思います。
あとがきのことばに、深くうなづいてしまう方も多いでしょう。
『書きながら、母の、祖母の、友人の、ありとあらゆる母親たちの、それぞれの出産を思い浮かべた。言うまでもなく私たちがここにいるのは、だれかがどのようにしてか、私たちを産み落としたからである。そこにはきっと、いくつものストーリーがあり、いくつもの悩みと笑いが、いくつもの迷いと決定が、詰まっていたのだろう。』
妊娠に関する実用書よりも案外役立つのは、この小説かもしれません。
紙の本
作者が主人公にのり移る。
2009/09/13 11:00
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
予定日はジミー・ペイジ 角田光代 白水社
「ジミー・ペイジ」を人の名前とは思いませんでした。ミュージシャンらしい。わたしはその人を知りません。
作者らしいセクシャルで過激な出だしの文となっています。「性交をした」から始まっています。同作者の「空中庭園」は、「あたしはラブホテルで仕込まれたらしい」から始まります。
ジミー・ペイジの誕生日が自分のこどもの出産予定日という設定で、妊娠中の体や心の変化、そして状況が語られていきます。されど、作者には出産体験がありません。ところが、完璧ではないにしろ、作者の記述は出産体験者の内容となっていることがすごさのひとつです。我家にもこんな時期があったなと思い出させてくれました。
もうひとつのすごさは、主人公の女性と彼女の亡くなった父親の壮大なドラマであるところです。あっさりした文章、広い行間、全体で250ページほどですが、わたしの通勤時間往復3時間とすこしの電車の中で、1日で読み終えました。後半部分の固まりには唸(うな)りました。すばらしい。作者が主人公にのり移っています。