「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
9・11以降、激化の一途をたどる“テロとの戦い”は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?—小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。【「BOOK」データベースの商品解説】
【PLAYBOYミステリー大賞(第1回)】9・11以降、後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。はたしてジョン・ポールの目的とは? そして大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
伊藤 計劃
- 略歴
- 〈伊藤計劃〉1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業。作家デビュー作「虐殺器官」で小松左京賞最終候補となる。webディレクターのかたわら執筆活動を続ける。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
暑い夜、席を立って、戻ってみると突然パソコンが立ち上がらなくなった。
2007/08/14 16:33
9人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
冷房を最大にして、ハードディスクのうなりと、バッテリーの熱を感じながら、うろ覚え、電源スイッチとF8を押す。セーフモードで立ち上がった。ウィルス感染もなく、何とか復旧したものの、心配なので、肌寒いほどの冷房の中、念のためシステムごと外付けハードディスクに吸い込ませる。結構時間がかかる。暗やみの中で、瞬くハードディスクを眺めながら。この小説のこととコルタンとゴリラのことを考えてみる。
ある時、気まぐれにゴリラについてぐぐっていた。ふと変わったページにたどり着いた。「コルタンがゴリラを絶滅させる」意味不明のフレーズだ。さらにぐぐる。
コルタンとはICチップのコンデンサー部分に使われる鉱物らしい。携帯・ノートパソコンの多くに使われているはず。原産地のトップはオーストラリア。しかし、コンゴなどアフリカの紛争地帯でも容易に採掘できる、そうだ。幼い子どもたちを含む現地の人々が人里離れたところでコルタンを採掘するようになった。そして彼らはゴリラの肉を狩りはじめた。そうだ。パソコンの過熱を防ぐため冷房を効かせた部屋で、おそらくはコルタンの使われているこのパソコンでぐぐり、うぃきった範囲では。
もう、この小説の扱っている世界は、ここにある。
9・11以後、サラエボでの最悪のテロを経た世界。米軍の特殊部隊(要人暗殺を公認されている)主人公は、ジョン・ポールという男を追って、ソマリア、インド、チェコ、タンザニアのヴィクトリア湖(昨年公開されたドキュメンタリー映画「ダーウィンの悪夢」の舞台である)と世界を経巡る。彼は父と母をそれぞれ失い、それにまつわる悪夢に苦しめながらも、子ども兵をも殺し続ける。しかし、彼が追いかけさせられているメインターゲット:MITで言語学(おそらくはチョムスキー系統の)を学んだ元広告代理店員ジョン・ポールは彼の手をすり抜け続ける。ポールが行くところ何故か紛争と混乱が「起こる」のだ。
主人公は古都プラハで、ある女性チェコ語教師とこんなやりとりをする。
「ではあなたは、ことばをどんなものとして見ているんですか。人間の現実を規定するものではないとしたら、ことばにはどんな意味があるんですか」
「もちろん、コミュニケーションのツール。いいえ、違うわね……」(本書p.88より)
ハードディスクに全ては吸い込まれた。もうこのシステムの階層でトラブルが起きても復旧できるはずだ。とはいえ、心配だから、早めに投稿させていただきます。そちらの階層ならばもっと安全でしょう。
紙の本
バラード以降のセキュリティ、暴力
2010/03/04 23:30
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
投稿しようと思ってたら文庫版がでてしまった伊藤計劃の第一長篇。アンソロジーで読んだ短篇がとても面白かったので読んでみたのだけれど、これが評判通り非常に面白い。十年ちょっと先の未来を舞台に、案外現実味のある設定を張り巡らせて展開されるストーリーは非常にアクチュアルかつリアリティがあり、そして現代に向けられる批判意識の鋭さは出色だと思う。
舞台は近未来で、アメリカの情報軍で暗殺をも行う部隊の隊員が主人公。未来社会ではテロ対策として、個々人のIDが常に走査されるという監視社会となっていて、どこで何をしたか、何を注文したかなどが逐一記録される。それはテロという危険を予防するための必要な制限ということになっている。
同時に、内戦や紛争が収まり掛けていたような後進諸国ではそれまでの落ち着きを巻き返すように戦争、虐殺等が激増していく。で、そのような突然の暴力がわき起こる場所には常にジョン・ポールという米国人の存在が見え隠れしていて、主人公はまさにその人物を追うことになる。
というのがおおまかな物語で、ここに書いただけでも監視社会、対テロ、民族紛争等々のきわめて現代的な問題が設定されていることがわかる。ここにさらに人間の意識や進化生物学、言語学などなどの知見が鏤められている。読んでいてまさに同時代の人だという感覚がものすごい。この小説の参考文献一覧があったら、見知った名前だらけな感じがする。
「The Indifference Engine」がそうだったように、この小説でも暴力は二重に問題化されている。暴力そのものの問題と、「われわれ」が暴力をどう見ているかという二つのレベルだ。この暴力の問題、セキュリティが浸透した社会における暴力の見方にかんして、伊藤計劃はJ・G・バラードの近作の「殺す」以降の「病理社会の心理学」シリーズと結構似たスタンスをとっている。
そういえば伊藤氏は「バラードの心でスターリングのように書きたい」と言っていたのだけれど、私はスターリングは読んだことがなくて、その発言の半分を理解できない。以前ニューロマンサーを読んだときに、何が書いてあるのか分からなかったという苦い読書体験を味わってから敬遠していたので、ギブスン、スターリングは全然手を出していなかった。
氏が上記発言をしたインタビューでは、以下のようにも言っている。
「ニューウェーブやサイバーパンクからSFに入り、スターリングのファンであるわたしにとっては、それこそSFというのは社会とテクノロジーのダイナミクスを扱う唯一の小説ジャンル」
著者インタビュー:伊藤計劃先生
その意味で、バラードの名前が出てくるのは当然だろう。テクノロジカルランドスケープ三部作も、病理社会の心理学の諸作も、テクノロジーによって人間はいかなる影響を受けるかという関心が設定の中心にある。
以下の記事では伊藤氏のサイバーパンク観が提示されていて、これに従うならバラードも、そして「虐殺器官」もサイバーパンクに属することになる。
スチームパンク/サイバーパンク 伊藤計劃:第弐位相
「バラードの心でスターリングのように書きたい」という発言はここら辺のことを踏まえてのことなのだろう。とても面白い。
話を戻すけれど、今作は2007年のベストSFに選ばれたというのもうなずける出来で、ほんとにこれからが期待されていた作家なのだろうな、と。残念すぎる。
紙の本
ちょっとびっくりする展開でした
2009/02/14 06:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kako - この投稿者のレビュー一覧を見る
言語学を学んでいる方や言葉そのものについて興味を覚えている方には楽しんでいただけるのではないでしょうか。
また、哲学的な内容も組み込まれていて、問いかけが文章に多く出てきます。
どちらかというと結構癖のある文章です。
もしかしたら好みがはっきりと分かれてしまうかもしれません。
肉親の死。
親友の死。
愛する人の死。
名前も知らぬ民間人の死。
敵の死。
それぞれの死から目を背けつつ、暗殺機関として人を殺害していくことを仕事としている主人公ですが、近未来では人は高額な暗殺道具として貴重な存在です。
兵士が使い捨ての時代は過去のお話となっていて、殺人道具としてなるべく長期間もたせるよう、人を殺すにあたって神経を麻痺させるための投薬、老若男女ためらいなくとどめを刺す精神を保つためのカウンセラー等、政府からの手厚い保護がうけられます。
そんな万全の体制の中高い成功率を収めてきた暗殺で、ひときわ目立つジョン・ポールの足跡。
幾度にわたる失敗。
大きな虐殺の陰に見え隠れするジョン・ポールの名。
そもそも何故9・11以降、後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していったのか。。。
テロ防止のための管理生活が幅広く行なわれ、人々がそれに対して何の不思議も抱かない生活は、ともすれば近未来で私たちにも起こりうる生活であります。
誰がどこで何をし、何を買ったのか。
全てが管理されることでテロの防止となる。
その抑止力の一つの結果が、この中に描かれています。