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商品説明
五年生に進級する春、森は父親の転勤で東京から北九州へ転校することになった。わんぱくで怪我は絶えないし、物は壊すし、友だちは泣かせるしで、いじめっ子の乱暴者というレッテルをはられていた森の転校を聞いても、先生どころかクラスメイトのほとんど誰も残念がってはくれなかった。そんな森だったが、引越し先の社宅の子どもたち—ココちゃん、あや、竹本兄弟、パックとは不思議に気があった。彼らは森をまるごと受け入れてくれた。しかし森は次第に感じていた。この社宅には何か秘密がある。もしくは謎が…。【「BOOK」データベースの商品解説】
5年生に進級する春、北九州の社宅へ引っ越した森(シン)。東京ではいじめっ子の乱暴者というレッテルをはられ嫌われ者だったが、引っ越し先の社宅の子どもたちは森を受け入れてくれた。でもこの社宅には何か秘密が…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
加納 朋子
- 略歴
- 〈加納朋子〉1966年福岡県生まれ。文教大学女子短期大学部文芸科卒業。「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞しデビュー。「ガラスの麒麟」で日本推理作家協会賞などを受賞。他の著書に「コッペリア」など。
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紙の本
子どもの頃はよかったな、大人はつらいよ、という人に贈りたい
2008/01/21 15:05
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けい - この投稿者のレビュー一覧を見る
望んで生まれてきたかと問われれば、たぶんそうじゃない(のかもしれない)。大人と違って強くはない。だから、子どもは知恵を絞り、ときには我慢をし、なんとかかんとか日々を送っていかなければなりません。
本書の主人公、森(しん)君、小学五年生。お父さんの仕事の都合で転校した森君と引越し先の九州の社宅の子供たちの冒険は読むものの胸をドキドキさせ、ちょっとビターです。幼いころに体験した幻の友達、謎のメッセージ、幽霊騒ぎ、転校前の学校に残してきた悔い。そんなさまざまな謎を解いてくれる素敵な名探偵も登場。素敵なミステリです。
生きるのは大変なので、とりあえずは保留にしてきた問題(きっと誰にでもあるはず)、そんな何年も抱えていた解けなかった問題までも探偵はするりと解いてしまいます。
堅牢な密室には実は隙間があるから出入りができるのであり、完璧な不在証明(アリバイ)には実は隙間があるから、犯行現場にいることができる。ミステリは隙間をめぐる物語です。
この物語で活躍する森君はじめとする子どもたちも周囲の大人たちが思っているよりずっと大人。彼らは立派にやりとげる気持ちと行動力と知恵と絆を持っています。彼らが「隙間」で生き生きと冒険を繰り広げるさまは痛快。大人たちが創りだした「平和で幸せなこの国」を見せかけるトリックの隙間に生まれた悲劇に彼らはどう向き合っていくのか。著者自身も大人として、物語の書き手として、「子どもを巡る世界」について真剣に向き合っている姿勢が伝わってくるようです。
世界には矛盾やごまかしが少なくありません。いや、そういうものはあふれかえっています、たぶん。矛盾やごまかしを見抜く、それは正しいのかと問いかけてみる。そういう力を身につけるためにも、今こそ、子どもたちにはミステリーという答えを求めようとする物語が、見えないものを想う物語が必要なのだと思います。
博多弁がかわいい、なんて書いてしまうと博多のかたには怒られてしまうかもしれませんが、方言がいい味を出しています。子どものために大切にとっておきたい一冊。
紙の本
主人公の、小さい時の悪戯はやりすぎかな、ここまでやると普通は戻れないんだけどな、っていう欠点はあります。でも、それを補って余りあるところが沢山あります。仕返しだって構わない、いいお話です。
2007/11/06 19:47
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
装丁も含めて私が好きなミステリ叢書は三つあります。新刊を見ないのでシリーズとしては完結したのか気になる文藝春秋の本格ミステリマスターズ、最近、出版ペースが落ちてどうなったのかなあと心配している講談社のミステリーランド、最も新しいシリーズでまだまだ刊行ペースが速い理論社のミステリーYA!、です。
で、加納のこの本は「かつて子供だったあなたと少年少女のための」を謳い文句としているミステリーランドの13回配本。ともかく、装丁が児童書らしくて久世早苗の装画、挿絵もいい。ま、児童書としてはもう一回りサイズが大きくてもいいかな、とか、紙質はともかく、本を綴じているところがもうちょっと丈夫なほうが、とは思いますが、個性的という点ではピカイチです。
内容については出版社のWebの文を利用させてもらいます。
社宅に隠された秘密とは?
5年生に進級する春、森(シン)は父親の転勤で東京から北九州へ転校することになった。わんぱくで怪我は絶えないし、物は壊すし、友だちは泣かせるしで、いじめっ子の乱暴者というレッテルをはられていた森の転校を聞いても、先生どころかクラスメイトのほとんど誰も残念がってはくれなかった。そんな森だったが、引っ越し先の社宅の子どもたち――ココちゃん、あや、竹本兄弟、パックとは不思議に気があった。彼らは森をまるごと受け入れてくれた。しかし森は次第に感じていた。この社宅には何か秘密がある。もしくは謎が……。
これだけで十分?そうではありません、もう一つの謎、主人公がもっと小さな時に東京の社宅で出会った事件があります。誘拐とも失踪事件とも、はたまた幼い子供の幻想とも受け取れる少女との出会いと別れがそれです。
時代は現代なんでしょうが、昭和30年代の趣があります。ま、これで私の年もばれてしまいますが、それはそれ。社宅、とか、北九州、っていうのが何かレトロ。実際、このお話にはケータイも塾も、自動車も飛行機も、まして電車も出てきません。なんだか時代から切り離された感じです。
それは加納がこの作品を、ある意味、時代や地域を越えて多くの子供たちに読み継いで欲しい、と願っているからでしょう。イジメも教師の無神経も、怪しい大人の動きもあるにはあるんですが、それは私が子供の頃にもあったこと。それでも、今のそれらとは距離があり、全体として穏やかな印象を与えます。
川上弘美の書評集を読んでいるところですが、殺人を扱うミステリを好きになれないこと、でも、友人に「殺人がないから」と薦められた北村薫の作品は、その通りで楽しめたこと、『盤上の敵』は北村にしては珍しく犯人が凶悪だけれど、決して恐くはない、などとあります。
そういう意味では、加納のこの作品も川上弘美向きというか、ミステリ=殺人ではなくて、あくまでも論理で謎を解決する物語、と捉える人、推理小説はなにより優れた小説でなければならないという人、小説には児童向けも大人向けも、男性向きとか女性向き、純文学、エンタメ、ライトノベルといった区分けもいらない、と考える人には最適の本です。
とはいえ、おれ、と、あやの会話が始ったあたりで、また児童書のパターンかよ、って思っいます。少年と同級生の強気の美少女なんてね。彼女の口から出てくるのがガチガチの方言、ていうのはちょっと違いますが。それと森の悪戯が常軌を逸していて、行き過ぎかな、って。
でも、それ以外の部分がとてもいいです。夜、子供たちが屋根に上る場面、闇が決して漆黒のものとならず、暖かみのある蒼さで支配する感じ、思わぬ人間がみせる推理力が、力の誇示に終らず常に謙虚であること、大人の社会の醜さを許さない厳しさ、そして意外性。欠点のない傑作、ではなくて疵はあるけれど、それに優るいい点がある秀作です。最後に、主人公が語る登場人物を補足しながら、主な人々を紹介しておきます。
高見 森:おれ。主人公。東京から転校してきたばかりの新五年生。高いところが好きで、家の屋根は愚か体育館の屋根にだって平気で上ってしまいます。標準語を同級生にからかわれています。
十時あや:主人公と同じ社宅のナナメ裏に住んでる同級生で、勿論、美少女。
気が強くて、主人公をからかう、っていうのも定石。宇宙一訛っている、とは森の弁。登校班の副班長です。
佐久間真:隣に住んでる同級生で、お母さんから「ココちゃん」なんて呼ばれて平気でいるヘナチョコですが、良い子です。
竹本篤樹:竹本五兄弟の長男、フツーならアッちゃんなんでしょうが、年上のせいか家を代表して竹ちゃん。社宅の裏に住んでる新六年生、ふけてみえる登校班の班長です。
竹本哲巳:竹本五兄弟の次男で新四年生。ギザ十(縁がギザギザの十円玉)集めが趣味で、あだ名は当然、ギザ十。脱線しますが、我が家の大学一年生長女がギザ十集めやってます。この本に書かれている一枚200円する、っていうのは本当で
しょうか。
竹本拓海:竹本五兄弟の三男、メガネの新三年生。呼び名はタク。印象は薄い。
竹本直己:竹本五兄弟の四男で、お地蔵さんみたいな感じの新二年生。ナオ、
さらに印象が薄い。
竹本陽樹:竹本五兄弟の末っ子で、女の子みたいな頭をしている、甘ったれでこわいもの知らず。新一年生。呼び名はハル。女の子みたいな頭っていうのがミソ。
土田冬馬:前の席のデ・・・・・・いや、横にでかい同級生。ま、一言でいえば悪役。
野田先生:担任の先生。子供たちが小学生なので、登場させないわけにはいかなかった大人の一人でしょう。
パック :幻の存在といってもよくて、法律の落し穴的存在とでもいいましょうか。
謎ですね、はっきり書いちゃえば。
紙の本
自立して生きるということ他者を思いやるということ
2007/11/20 16:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京から北九州に引っ越した小学5年の森(シン)。
社宅の子どもたちと学校の友だちが
かぶる閉ざされた地域性のなかで
ひとりの不思議な少年を
みんながかばっていることに気づく。
その少年パックは学校にも行かず
夜、屋根の上に現れたりする。
友だちとの関係をうまく結べない
わんぱく小僧のシンが
パックや友だち、屋根の落書き、
転校、いたずらを通じて
人間の奥深さを知っていく。
誰もが傷を持っていて、だからこそ
自立して生きるすべを子どものころに学ぶ。
この子たちが大人になった物語も
ぜひ読んでみたい。
未来には期待が持てるんだと思わせる。
紙の本
郷愁
2010/09/20 09:38
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
ぐるぐる猿と歌う鳥 加納朋子 講談社
書名は「ぐるぐるざるとうたうとり」ですが、書中では「ぐるぐるざるとハミングバード」と紹介されています。
児童虐待を素材にした小学生向けの物語です。主人公は、高見森(しん)くん小学校5年生で、東京から福岡県北九州市に引っ越してきました。お隣に住むのが、佐久間心(しん)くん同級生です。登校班の仲間が、十時あや(ととき)さん、竹本5兄弟などです。「登校班(当地では分団といいます)」そして、9人のこどもたちの紹介を読んでほろりときました。50過ぎのわたしにも登校班の経験があります。
高見森くんと女の子の出会いと別れのミステリーがあります。当時、ふたりとも5歳でした。これが伏線になっていって、最後に秘密が明らかにされます。
文章がとてもいい。なにげないセリフなのですが、なかなか文章で出てくる表現ではありません。作者はあとがきで、製作にとても長い時間がかかると、自分自身を責めながら申し訳なさそうにしているのですが、長考の末に出てきた登場人物の言葉であることが伝わってきます。30ページにあるおかあさんの「おとうさんは疲れているのよ」というセリフはなかなか出てきません。
さし絵がいい。シャープじゃないのがいい。ぼてぼてっとして、小学生ぽくて、場面を想像しやすい。
九州弁がなかなかいい。わたしも生まれが福岡県なので、異郷の地で暮らしていますが、いまでも自宅では九州弁でしゃべっています。あとがきにあるように、東京へ戻った北九州に居住体験のある作者は自信なげに完璧な北九州の言葉ではないと記しておられます。たしかに、語尾に使ってある「やけえ」は「やきに」とか「やき」ですし、語尾であれば「ばい」がポピュラーです。とはいえ、女子から「すいちょーとばい(好きです)」とか、疑問詞の語尾である「しょーと?」とか「と?」は、やさしさがただよっており、せつなくなります。
同作者の他の作品群も通してですが、作者は名前にこだわる人です。あまりにもこだわりが強すぎてついていけないときもあります。文学者である所以(ゆえん)なのでしょう。
前半から中盤にかけて、今時の「携帯電話」とか「チョー」がつく言葉遣いとかテレビとかネットとかゲームが出てこないことが好印象でした。しかし、残念ながら後半では登場します。せっかく九州弁がいい香りを放っているのにもったいなかった。
平屋(ひらや)の社宅が並んでいるから成立する物語です。マンションとか2階建て一戸建てでは無理です。その点で、この物語は、昭和時代の郷愁でもあります。
理屈よりも気持ち優先です。小説の中では許されます。小説は夢なのです。こうあったらいいと願う夢です。現実社会では、登場人物のひとりであるこどもは施設収容です。208ページから続くわずか4ページの記述には身が引き締まります。
紙の本
著者コメント
2007/09/23 00:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:加納朋子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
子どもの頃、世界は謎で満ちあふれていました。それは時に理不尽で、不可解で、どうしようもない苛立ちの元でもありました。
大人になった今では、謎の数はずいぶん減ってしまっています……それは残念なことでもあり、心の平安を保つ上では良いことでもあるのですが、それでもときどき日常の中に謎は現れ、「ああ、誰かが目の前にさっと答えを用意してくれたらなあ」と他力本願なことを思ったりします。
似たようなことを考えたことがある、全ての方に。もし気に入っていただけたら、それにまさる喜びはありません。