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商品説明
天才ラガーにして名監督。巨大銀行専務取締役…。サラリーマンとして、男として、頂点をきわめる寸前で急逝した宿澤広朗の、知られざる苦闘の生涯を描く。月刊『現代』連載に大幅に加筆。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
加藤 仁
- 略歴
- 〈加藤仁〉1947年愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務を経て、ノンフィクション作家として独立。著書に「社長の椅子が泣いている」「定年後の居場所を創る」「定年後」など。
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紙の本
「勝つことのみが善である」を信条に、人生を駆け抜けた男の物語(私にはマネできんなあ)
2007/09/06 15:31
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひさびさに爽やかな読後感の本に巡りあった感じである。まず表紙がいい。照れ屋で寂しがり屋ながらラグビー界で大成功しつつ勤務先の住友銀行でも同期トップを独走し頭取の椅子まで射程にいれた「勝つことのみが善である」と確信する男、宿澤広朗の内面までが見事に映し出されたポートレートである。見ると立木義浩撮影とある。さすがである。埼玉県立熊谷高校時代からラグビーに明け暮れつつ、あの東大入試が中止になった昭和45年に宿澤は早稲田大学政治経済学部に入学し、直ちに早稲田ラグビー部のレギュラーになり3年連続して早稲田を日本一の座に押し上げる立役者になる。タイトルは「努力は運を支配する」という宿澤のモットーから来ている。
私は、ラグビーが嫌いである。本来芝生の上でやるべきスポーツでありながら、日本では芝生無しの土の上でやるのが普通だ。だから雨天で競技なぞしようものなら、農閑期に百姓が田んぼで泥だらけになって戯れる「泥んこ祭」をやっているようで見苦しい。それになんぞや、あの弱さは。よせばいいのにニュージーランドだ、イングランドだと海外の強豪チームと試合するたびに100対0とかで連戦連敗である。負けると分かっているなら初めから戦うなというのが私の流儀である。ラグビーは私の性に会わないのである。ところが本書を読んで宿澤率いる日本選抜メンバーが一度だけスコットランド代表に勝ったと知って驚いた。宿澤は何と秩父宮ラグビー場で秘密練習に励むスコットランドチームを密かにラグビー場を見下ろす伊藤忠商事の本社ビルから双眼鏡で観察しつくし、相手の手の内を読みきって、作戦を立てたのだという。私はスポーツ選手を「頭脳まで筋肉で出来た連中」と一段低く見る癖があるのだが、この宿澤の流儀を見て、自分の固定観念が大いに間違っていることを思い知らされた。
「勝つことのみが善である」「努力は運を支配する」という宿澤の信念は住友銀行に入っても遺憾なく業務に生かされる。住友銀行とは競争の厳しい金融業界の中でもとりわけ厳しいヤクザな社風で知られた会社である。その社内で、宿澤は誰もが目を見張るような業績を上げ続け出世の階段を駆け上がっていく。その一方、会社に入ってもラグビー業界との縁は切れず、NHKの解説はもちろん、日本代表監督、ラグビー協会理事と要職を歴任し、旧態依然たるラグビー協会の体質改善を歯に衣着せず主張してやまないのである。
順風満帆に見えた宿澤の人生だが、しかし、40歳を過ぎた辺りから、疲れが見え始める。その模様は口絵の写真にはっきりと現れている。30代までは黒々としていた髪の毛に白髪が目立つようになり、体重も目に見えて増えていく。大阪勤務時代は身長162センチのチビのくせに体重は80キロを越えていたというから異常な太り方である。ストレスと孤独のせいなのかタバコも日にセブンスター三箱も吸っていたという。それでも松下電器のお荷物だった松下興産の処理を完了し、9.11事件当時にも寝ずにオフィスに張り付いて陣頭指揮をとり為替でも大儲け。最後はM&A専任の本部を立ち上げて全社の利益の3分の1をはじき出していたのだという(凄い!)。二人の息子は今では名門進学校の一角に食い込んだ駒場東邦中学に入学し、一人は慈恵医科大学、一人は早稲田大学法学部を経て東京大学大学院と、誠にうらやましい道を歩んでいる。そんな矢先、55歳の宿澤は三井住友銀行頭取の椅子を目前にして群馬県の山の頂上で心筋梗塞の発作を起こし、逝ってしまうのである。「神に愛された男」とは彼のような人物をいうのかも知れない。
宿澤の口癖は「立ち止まっているとダメになってしまう」というものだったという。まさに彼は不眠不休で人生を駆け抜けた、そんな感じである。最後に、読後、「私にはとても彼の真似は出来ないし、真似したくもないなあ」と負け惜しみがてら一人ゴチている自分を発見した。
紙の本
努力は運を支配する
2007/06/18 21:58
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
私には、人となりはよく知らないが、一方的に尊敬している人が二人いる。一人は若島正で、もう一人が宿澤広朗である。どちらも天がニ物を与えた人物だ。
私はラグビーファンだが、宿澤が現役の頃はもちろん知らない。しかも残念なことに宿澤が日本代表の監督を務めてスコットランドから大金星を奪った試合も観ていない。ただ、スコットランド戦は勝ちに行くと宣言し、その宣言通り勝利した宿澤が試合後のインタビューで「お約束通り勝ちました」という名言を吐いたのはあまりにも有名だ。
日本代表の監督をしたり、NHKでラグビーの解説をしたりしている宿澤が住友銀行でも要職に就いていると知った時は大層驚いた記憶がある。なぜそんなことが可能なのか不思議でならなかった。
私はラガーマンとしての宿澤はある程度知っていたが、銀行マンとしての宿澤のこはまるで知らなかった。著者の加藤仁はラガーマンとしての宿澤よりもむしろ銀行マンとしての宿澤のことを丹念に取材している。日本代表としてプレーし、日本代表の監督まで務めた宿澤は銀行内の出世街道においてもある程度のアドバンテージはあった。但し、名声や運だけでは巨大銀行での出世は覚束ない。「努力は運を支配する」という言葉が宿澤の信条だった。傍目からは運良く出世して行ったように見える宿澤だが、負けず嫌いの性格ゆえ、裏では人一倍の努力をしていたのだ。ラグビーなんかやっているから、銀行での仕事がおろそかになるなどと思われるのはもってのほかだったようだ。
私は単に宿澤広朗という人間の人となりが知りたくて本書を手に取ったのだが、銀行での宿澤の言動はビジネスマンの手本というにふさわしい。頭取の一歩手前まで昇り詰めた宿澤のビジネス手法には見習うべき点が沢山ある。本書は優れたビジネス書でもあるのだ。
享年55歳。ノーサイドの笛はあまりにも早すぎた。彼が生きていれば、ラグビー界や金融界は今とは違っていたような気がする。本当に残念でならない。
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