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商品説明
オーデン、アンダスン、スタイン、エイキン、ハックスリー、ヴァイル、ラニアン…。20世紀の作家・詩人の人生を鮮烈に切り取りながら、人間と書物の深さと豊かさを語る。「犬とリンゴと本と少年」など10の短編を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
詩人の幼年時代 | 5-15 | |
---|---|---|
犬とリンゴと本と少年 | 17-28 | |
アンダスンと猫 | 29-40 |
著者紹介
長田 弘
- 略歴
- 〈長田弘〉1939年福島市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。詩人。講談社出版文化賞、桑原武夫学芸賞などを受賞。詩集に「人はかつて樹だった」、エッセイに「人生の特別な一瞬」など。
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紙の本
なぜ「本を愛しなさい」かと考えると・・・
2007/12/03 17:00
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一冊の本とその著者を紹介する「肖像画」のような文章が10篇。取りあげられた作品を既に読んでいるなら、その作品がこんな風にでも書かれたのであろうか、作者はこんな思いで書いていたのだろうか、とその本の背景が膨らんでくる。バージニア・ウルフが、ブレヒトが、どんな情景の中で作品を練っていたのか。まだ読んでない本も、こんな風に生み出された本がある、と誘ってくれる本です。
オルダス・ハックスリーの亡くなったのがJ.F.ケネディの暗殺された日だと示されてみると、それは時のつながり、広がりを教えてくれます。あの日、海を飛び越えてきたあのニュース映像の記憶は、当時の自分の姿まで思い出させ、「すばらしい新世界」を書いた著者とそれを読んだ自分の、ただ「読んだ」と云う事だけではないつながりを感じさせます。
雑誌「図書」に連載され、単行本「散歩する精神」にも収められている作品だそうですが、このように独立して「本を愛しなさい」と差し出されてみると、「あなたにとって本とはなにか」を改めて問われている気持ちになります。著者の文章は静かなのですが、いつも読み進むにつれ、このような大事な問いかけをゆっくりと洗い出してくれます。
さて、ではなぜ「本を愛しなさい」なのでしょう。「本を愛しなさい」は本書の冒頭に掲げられた短い詩の最初のことばでもあります。
本を愛しなさい、と
人生のある日、ことばが言った。
そうすれば百年の知己になる。
見知らぬ人たちとも。
風を運ぶ人とも。
死者たちとも。
谺とも。
アイルランドの詩人、ビーハンをとりあげた「吟遊詩人よ、起て!」からも引用しておきます。「歌は単に歌であるだけでは足りないのだ。歌一つで、人は、たぶんこころのどこかしらで、他の人びとと生きる場所を分けあっている(p131)」。この文の「歌」を「言葉」に、または「本」に置きかえてみてください。長田弘さんの伝えたいものがよりはっきりと見えてくる気がします。いろいろな「本」があるけれども、本というものは時間を超え、場所を越え、深いところや浅いところで他の人びととつながりあう手段のひとつであるということ。
「本を愛しなさい」は、「本を通して人を感じなさい」と、さらには「人を愛しなさい」ということにでもなるでしょうか。あるいは、「人を感じさせてくれる本を大事にしなさい」であるかもしれません。私にはそんな風に思えました。
自分にとって、本とはなんでしょう?この書評を読んでくださっている方は、少なからず本が好きな方だと想像します。あなたはどう思われますか?あなたはどんな風に本を「愛して」いますか?この本を読んで一寸考えて下さったら嬉しいです。
紙の本
20世紀文学の歴史を築いた人たちの小伝。彼らの日常の小さなエピソードに湧出する、かけがえのない仕事に対する愛。
2007/07/30 23:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「愛する」という言葉は、メディアのなかでもインターネットの上でも、マンガやポピュラー音楽のようなサブカルチャーの世界でも日々多用され、消費されているようです。しかし、本来的な意味は、対象に「大切だ」という強い気持ちを抱き、それゆえに手間をかけて何かをしてあげるということでしょう。
『本を愛しなさい』という題名は、最初に目にしたとき、押しつけがましい感じがあまり好ましくありませんでした。しかし、素敵な詩を作る詩人であり、良い本をエッセイの形で多く紹介する長田弘氏が敢えてそのような表現を取るには、何か意図があるのだろうと捉えました。
たとえば、その題に触れた人の感情を少し逆撫でしてみて、引っ掛かりを持たせる。それにより「本を愛するとはどういうことか」を考えさせるというような意図です。また、「本を愛しなさい」は必ずしも外の人たちへ向けられて発したメッセージではなく、ともすれば本を消費するように読み下してしまう著者自身の読書生活への内省なのかもしれないとも受け止められました。
読む前にそのように考えながらも、実はカフェで一杯のコーヒーを飲む間に、とはいえさすがにコーヒーの残り一口はすっかり冷め切ってはいましたが、そのような一時間にも満たないわずかな時間に、この本を読み終えてしまいました。上述した「愛する」にはおよそふさわしくない読み方ですが、愛には性急な欲望というものも付きものでしょう。
それとは別に「読みやすかったから」という言い訳をするとして、言い訳に正当性を持たせるためにも一言添えておくとするならば、ここに収められた10章は、岩波書店のPR誌である『図書』に連載された文章だということです。
「本を愛しなさい、と/人生のある日、ことばが言った。/そうすれば百年の知己になる。/見知らぬ人たちとも。/風を運ぶ人とも。/死者たちとも。/谺とも。」という序詩が添えられ、また各章扉にはさりげない絵が添えられ、この小さな本が愛されながら作られたものだということが伝わります。「愛しなさい」の意味は、すでにここに明らかにされていました。
かんじんの内容ですが、海外文学の愛読者にとって通り過ぎがたいものです。作家や戯曲家や詩人といった作品を生み出した人たち、あるいはそういう立場でありながらも出版というプロデュース側にも加わった人たちもなかにはいて、10章がそれぞれ小伝となっています。詩人のオーデン、レナードとヴァージニアのウルフ夫妻、『ワインズバーグ・オハイオ』で知られるシャーウッド・アンダーソン、ロスト・ジェネレーションという呼称を与えたガートルード・スタイン、世紀を代表する劇作家ブレヒトなど。
大きめの文字がゆったりと組まれた本の、それぞれ20ページにも満たない文章のなかに、20世紀の出版界を支えた人びとの輝きを切り出したようなエピソードがまとめられています。あまり書いてしまうと、本のなかで出逢う喜びをそぎますが、ひとつふたつ書くならば……。
ウルフ夫妻が経営するホガース・プレスに勤めた少年がウルフ氏に言われた言葉――人生で一番大切なことの1つは、人生を派手にやるのではなく、わずかな元手でやるということだ。(P27)
猫のいる小さな新聞社で小さな町の人びとのためにコラムをせっせと書きつづけたシャーウッド・アンダーソンのこと、砂漠の暮らしを愛したハックスリーの命日に誰が暗殺されたか……。
読んでいる間ずっと、どこをどう探せば、このような印象深いピソードが拾えるのかと疑問に思ったのですが、巻末の「出典と資料」をまとめた部分でそれが氷解しました。それぞれに少なくない数の出典が記されています。その読み込まれた資料の数、そこからエッセンスのように抽出され小気味よくまとめられた人物たちのポートレートに、本を「愛する」ことの意味そのものが見出せます。