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商品説明
昭和八年。時代を見つめ謎に挑む令嬢と女性運転手。【「BOOK」データベースの商品解説】
ステンドグラスの天窓から墜落死した思想家。事故か、殺人か。英子の推理が辿りついた切ない真相とは−。昭和初期を舞台にした北村ワールド。表題作のほか「幻の橋」「想夫恋」を収録。ベッキーさんシリーズ第2弾。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
幻の橋 | 5-79 | |
---|---|---|
想夫恋 | 81-139 | |
破璃の天 | 141-222 |
著者紹介
北村 薫
- 略歴
- 〈北村薫〉1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。89年「空飛ぶ馬」でデビュー。「夜の蟬」で日本推理作家協会賞を受賞。著書に「冬のオペラ」など。
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紙の本
直木賞の本命は、やっぱりこの本なんでしょうねえ。豊崎、大森両氏ならそういう。でも面白さでは桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』に一歩譲るかな
2007/07/13 19:27
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ディテールがしっかり書けているから、面白い、という小説の好例ではないでしょうか。特に時代風俗のつぼを抑えた表現など、こういう書き方をされたら敵わないなあ、って思わず被ってもいない帽子を脱ぎたくなります。逆にミステリとしてだけ読めば、トリックの細かいところはともかく、犯人はすぐわかるし、驚きを評価軸に置けば、平均以下。
でも、それが少しも小説の足を引っ張りません。そう、ここで北村が描こうとしたのは戦争の足音が遠くに響き始めた、ちょうど今の日本の状態に似た昭和初期の東京の風景なのですから。無論、人間だって描けてはいますよ。当時でなければ存在しないであろう人たちの心の動きも、ちゃんと。でも主人公は昭和初期の東京、いや東京の昭和初期かな・・・
装丁は大久保明子、味わいのある小品風の装画は謡口早苗。収録作品を簡単にご紹介。ちなみに( )内は初出。
・幻の橋 (オール讀物二〇〇五年一一月号):犬猿の仲である兄弟の孫同士が惹かれあってしまった。内堀銀行の内堀晃継のお嬢様・百合江と、ウチボリ・ランプの息子との恋。二人の間に立ちはだかる祖父の時代の確執。ちなみに百合江の祖父・晃二郎とウチボリ・ランプの先代、洋一郎とは兄弟で、不仲となった原因というのは・・・
・想夫恋 (オール讀物二〇〇六年七月号):清浦綾乃は公家から華族になった家柄の、琴もピアノも上手なお嬢様。そんな彼女が読んでいた岩波文庫、ジーン・ウエブスター『あしながおぢさん』を見て、英子のほうから近づいて仲良くなった。ある日、綾乃が暗号を残して失踪した・・・
・破璃の天 (オール讀物二〇〇六年一一月号):ステンドグラスの天窓から墜落死した思想家は、実は殺されたのではないか。資生堂パーラーで兄と食事中に見かけたのは、財閥の大番頭の息子で切れ者という噂の末黒野貴明と、もう一人の男。三越で見かけた彼の行動は不思議で柱を撫でたり、人形展で涙を流したり・・・
・主な参考文献
第1作『街の灯』では「舞台となる時代は昭和初期、主人公は女子学習院に通うお嬢様 花村英子である。ただし、年齢がはっきり書かれている訳ではない。花村家は士族の出だが、爵位は無い。祖父は軍人で師団長を歴任し、父は財閥系列の商社の社長である。住居を構えるのは麹町、屋敷には父、兄の雅吉、運転手 園田などが暮らしている。母親の姿が見えないのは、北村のことだから、重要な意味があるのだろう。他に、新しく運転手となった別宮、検事で探偵小説作家の、多分浜尾四郎あたりがモデルだろうか弓原の叔父などが登場する。」と昭和七年となっていましたが、今回は一年後の昭和八年が舞台です。
前の話に登場した父親、叔父に替わって、今回、いろいろな場面に出てくるのは、今春、めでたく大学を卒業し、大学院に進んだ兄・雅吉です。そして事件に巻き込まれ、真相に至らずに助けを求める役をするのが花村英子で、運転手となって一年が経った別宮が鍵となる動きをするのも変わりありません。
ちなみに、第二話のタイトル「想夫恋」は、『平家物語』の「小督」に絡む琴の曲名で《楽はなんぞとききければ、夫を想ふて恋ふとよむ、想夫恋という楽なり》という意味だそうですが、本当は《大臣の家の蓮》のことで、《れん》は《ラブ》ではなく《ロータス》で《相府蓮》で、《晋の王倹、大臣として、家に蓮を植ゑて愛せし時の楽なり》と言っているのが吉田兼好、とはいかにも古典に強い北村らしいコメント。
で、私が気に入ったのは107頁、日比谷公会堂におけるシュメー告別演奏会での、シュメーと宮城道雄との『春の海』共演の描写。
「でも、曲が始ると、二人の生身の体を離れた調べになって、宙に浮かんで、それは楽しそうに遊んでいた。――とても不思議な気持ちがしたわ。日本の音楽家とフランスの音楽家よ。どれだけの山や波が、間を隔てていることかしら。間には、海もあれば砂漠もある。それはもう気が遠くなるくらいに遠い。時代が少し前だったら、お互いの国のあることさえ分らなかった。――合う筈のない二人なのよ」
この浮遊感と共演する二人の間にある距離の描き方が、思わず「いいなあ」と言いたくなるもの。それにしても、虎の威を借りる右翼や、国のためなど全く考えていないくせに口だけは偉そうに天下国家を叫ぶ右翼・政治家のなんと薄汚いことでしょう。今でも大手を振って街頭をどぶ鼠色の車で、周囲を威嚇しながら流している連中を見ると、結局、またあの時代に戻るのか、と憲法改悪の動きと共に絶望したくなります。
紙の本
遠い日の風(kaze)も北村薫のこの新作をやはり読んだのでしょうか
2007/05/19 10:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
北村薫の「街の灯」の続編となるミステリー短編集です。舞台は昭和8年の東京。経済界の一翼を担う良家に生まれた少女・花村英子とその家のおかかえ運転手・ベッキーさんこと別宮。この二人が謎に挑む3編が納められています。
前作「街の灯」に比して本書は謎解きの興趣の程度が一段とあがっています。しかしそのこともさることながら、北村薫のメッセージ性が全面に出た作品集となっていて、そのことを私は大きな驚きとともに受け止めました。
昭和初期、日本社会を巨大で暗鬱な時代精神が包み込み、ひとつの方向へ押し流そうとしている。多くの日本人はその先にあるものを見据えることもなく、無邪気に熱狂している。そんな社会にあって、主人公である女性二人は凛とした態度で時代と対峙しようとするのです。
北村薫が主人公たちを使ってこの物語群の中で時代に打ち込む楔(くさび)は、時として飾り気もなく剥き出しともいえるほど直截的です。その言葉の一槌一槌に私は幾度もたじろいでしまったほどです。
「公は常に、私の愛に嫉妬するものだ。そういう時の、公の牙は実に醜く鋭く、容赦ない」(131頁)。
振り返ってみると、私は「街の灯」(ISBN-10 :4163215700)の書評で「『私と円紫師匠』のシリーズのほうがまさっている」と記したことがあります。しかしそのことを実はこの「玻璃の天」読了後に少し悔いています。
前作以来、北村薫はこのベッキーさんシリーズでひとつの覚悟をもって筆をとり続ける決意を固めていたのではないかと私は思います。それはもちろん昭和初期という時代をみつめるという懐古趣味ではなく、今私たちが生きている時代を警告を込めて描くという明確な目的をもっての企てであるはず、そう私は今想像しています。
私はこの北村薫の決意を高く評価し、そして私自身も覚悟を決めて彼のこのシリーズを読み続けていこうと考えています。
紙の本
謎は明かされる、けれど著者の問いが胸を離れない
2007/05/14 23:35
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つきこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベッキーさんが帰ってきた!博覧強記の物知りにして銃の腕は現役将校のお墨付き。ベッキーさんの人となりこそがこのシリーズ最大のミステリー。花村家のご令嬢・英子さんと専属のお抱え運転手ベッキーさんのシリーズ第2弾、本書では英子さんの活躍が目立ちます。英子さん、少し大人になられました。主人公の成長が実感できる物語っていい。周囲の人に温かく見守られ、時には痛みを知りながら、着実に英子さんは成長していきます。しかし、その背後に忍び寄る時代の影。
読了後、えっ、こんなに暗い時代になっちゃったの!?と驚きました。本書ではそんな時代を象徴するとある人物が様々な波紋を呼びます。
なぜこの時代が舞台なのか?
ラジオ放送の始まりに胸を躍らせる人々、銀座資生堂パーラーでクロケットに舌鼓をうつ人々。いつの時代も目新しいものに目を輝かせ、こんなすごいものができたね、便利になったねと興奮に胸を躍らせる人の姿・気持ちは今の私達と少しも変わりはしないのだと教えてくれる。
他方、女性運転手ベッキーさんが珍獣扱いだった昔に比べ、タクシーどころか長距離トラックの運転手にさえ女性が進出した昨今、ルールや常識は変わるのだという事を教えてくれます。
そんな中、北村薫が放つ真直ぐな問い。言っちゃったよ。真っ向ストレート、直球勝負だよ。読んでる方が青くなりました。大丈夫か?こんな事言って。
舞台を過去に移す事で、見えてくるのは現代に潜む危うさ。
“前に進むしかない、時間を巻き戻す事はできないのだから、前に進むしかない。”
その時人はどう変わるのか、世代が変わり時が移りお前達はどう思うのか?生活は変わり、ルールも変わり、人のありようも変わったのか?人の進歩はいかほどのものか。カタストロフィを迎えた時代を知り、迷走する世界を横目にしながらも、選ぶ道はいつも同じなのか?そんな静かな問いをぶつけられたような気がしました。
ああ北村薫はやっぱり先生なんだな、と高校時代の恩師を思い出します。数学や古典や世界史を語りながら、もしかしてこれが世の中の真理というものかと思うような事をぽろっと言っちゃって、後年しみじみとその言葉をかみ締める、そんな経験ありませんか?幾つもの言葉が頭の中をぐるぐると駆け回り、胸をざわつかせます。
謎は明かされる、けれど著者の問いかけがいつまでも胸を離れない。解のない問い、立場の違いによって無数の解がある問いを考え続けるのは苦しい。世の中の平穏より今夜の夕飯どうしよう、その方がずっと切実な問題だったりするのだから。けれどそんな時、本の向こうに端然と佇む静かな決意を秘めた著者の眼差しを感じ、少し慰められます。そうしてその著者の眼差しに叶う読者でありたいと心から願う。そう思うのです。
ま、そんな辛気臭い事考えなくても、本格推理らしく謎解きを楽しむも良し。本の達人らしく本好きの心をくすぐる薀蓄を楽しむも良し。どんな読み方をしても楽しめる、けれど脱線大歓迎だった私は王道(=ミステリ)とは関係のない所に心を動かされるのです。
君死にたまふことなかれ。世界には安価な命と高価な命があるらしい。生まれた場所が違うだけなのにどうして?そんな疑問に納得のいく答えなど返せない。それでもなお、死を是とするは否、が当たり前である世界であって欲しい。
紙の本
読了しても離れがたい物語。もっと読みたい。
2020/07/03 21:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
深層の令嬢・花村英子とその運転手・別宮みつ子による物語が三篇。彼女たちの清々しい活躍ぶりをたっぷり堪能できる。
物語は、もちろんフィクションだが、短編を書くにしては膨大な巻末の資料一覧。それを見れば、昭和初期の時代背景や風俗・文化に関しては、徹底してリアリティにこだわったことは一目瞭然で、それらをひとつひとつ拾って楽しむのもこの本のもうひとつの楽しみ方だと思う。