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愛犬家として、スタンダードプードルのイラストにやられてしまい、購入。老境に差し掛かった「怒りの葡萄」のスタインベック(未読ですが…)が同じく老紳士の愛犬とともに、重装備のキャンピングカーでアメリカ全土を旅する話です。1960年代の話ですから、もう半世紀あまり前の話なのに、今現在問題となっているさまざまな事柄(差別、大量消費、疎外感…etc)の根っこがつまってます。
そして、それから半世紀たっても、確かにテクノロジーは進歩したかもしれないけれど、内面の問題に対しては誰もが手を拱いて見ているしかなかったのですね。それでもスタインベックのような大作家が警鐘を鳴らしてくれていたので、この程度で済んでいる、というべきなのか。
2007.11.22-2008.04.08
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完全に英文だけで本を読んだのはこの本と金融関係の数冊です。 学生の時、英語の授業でこれを毎週読まされたのです。 無差別に生徒に解釈とか、日本語の訳を質問する先生だったので、予習をしていかないといけなくて、 たいへんでした。
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「エデンの東」「怒りの葡萄」の原作者として有名なスタインベックの旅行記である。彼は1968年に没しており、本書が書かれたのは今から40年以上前の1960年代だ。にもかかわらず本書には、現在の日本に生きる私にも深く共感できる部分が随所に登場する。キャンピングカーで全米を旅したスタインベックは、テレビやラジオなどのメディアの影響で、アメリカ各地の方言や訛りが薄れてきたのを肌で感じ、憂いている。今私が暮らす日本のこの地方も、私が高校生だったころよりはるかに、この辺りの高校生は標準語というか東京に近い話し方をするようになったし、東京の女子高生の大人びた風貌に面食らった昔の私に比べたら、髪型やおしゃれもはるかに東京の女子高生に近い。60年代のアメリカが均質化していったように今の日本も確実に均質化に向かっている。国は違っても同じ傾向をたどるというのは非常に興味深く感じた。
途中車のタイヤがパンクしたり、飼い犬チャーリーが体調を壊したりといったトラブルに見舞われながらも、彼の旅はおおむね順調に進み、各地で様々な人間味あふれる人々とあたたかい交流が生まれ、アメリカの広大な大自然が登場する。読み進めながら、自分もこんな旅ができたらどんなに楽しいことだろうと思った。そしてこの旅はこうして心地よいムードを漂わせながら終わるものだとばかり予想していた。
ところがテキサスに入ったあたりから文章がガラリと変わる。故郷の太平洋岸の都市を除けば、それまでずっと「よその土地」の旅だったが、テキサスはスタインベックの妻の出身地であり、当然親戚や友人、知人もいる。彼らとの再会は折りしも感謝祭の季節とあいまって享楽的なばか騒ぎとなり、彼はそのばか騒ぎを詳細に述べることも避けるほどに辟易してしまう。やがて彼は、踏み絵でも踏むかのような気持ちでアメリカ深南部ニューオリンズへとたどりつく。そこでは凶暴かつ残酷な黒人排斥運動が行われており、スタインベックはその現場を、ある使命感を持って見物に行く。この場面は非常に臨場感をもってスピーディかつ詳細に描かれており、それまでのゆるやかで穏やかな文体はすっかりなりを潜めている。当然のように黒人を差別する地元の人間にたいして怒りをあらわにする場面もいくつか描かれ、一冊の本としては非常にアンバランスな展開となる。とはいえ本書はあらかじめ起承転結を設定したうえで書いたものではなく、あくまで旅行記なのだから、本としてのバランスを気にする必要はないのだろう。しかし単に旅行記ではくくれない重いものを感じる。彼の旅物語は、素朴で実直であたたかい人情を持ったアメリカとなんの疑いもなく人種差別を行うアメリカを表裏一体で示している。
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旅は犬と一緒に。
スタインベック、読んだことないけど
素晴らしい紀行文を書く人だということはわかった。
荒涼としたアメリカの大地の旅なのに
…なんかかわいらしいv
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特別大きな事件が起こるわけではないが、不思議と頁が進む。
アメリカというものへの考察。
現代にも通ずるものがある。
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お風呂でのんびり読んだ。
チャーリーがgentlemanならぬgentledog。
「アメリカ」を眺めるスタインベックとチャーリーの冷ややかな視線。
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飼い犬にとっていちばん幸せな生活とは、飼い主と狩りをしながら暮らすこと、とあったのはスタンレー・コレンの本だったろうか。犬と旅する。これは愛犬家にとって憧れの旅のひとつだろう。
スタインベックは愛犬チャーリーを連れ、アメリカを巡る旅に出る。トラックを改造したロシナンテ号は、寝食もこなせる移動住居だ。
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「二十日鼠と人間」「怒りの葡萄」「エデンの東」と、アメリカの深部を描いた作家が、すっかり有名になってからトラックでアメリカを知る旅に出る。いまと違い出会った人たちは彼が大作家だなんて知りません。だからこんな旅を思いついたのでしょう。しかもコミュニケーションツールとして愛犬まで用意して。
旅に出たのは1960年の9月23日。アメリカ一周を終えニューヨークに戻ってきたのが12月5、6日。2ヶ月半にも満たない早足の旅ながら、その密度の濃さがアメリカの豊かさと複雑さを教えてくれます。
そんな彼が唯一長逗留したのがカリフォルニア州モントレー。スタインベックはこの土地の出身で、幼なじみだったジョニー・ガルシアと、彼が経営する酒場で再開します。ガルシアはスタインベックが東部へ行ったことが気に入らない。もどってこいと盛んに勧めますが、約一週間の滞在の後、彼はまた旅に。
このガルシアとのやりとりは、当時の西部と東部の意識の違いを浮き彫りにしていて興味深いものです。同じ自由でもアメリカの西と東ではずいぶん違うものなのだなあと。そんなガルシアの酒場があったのは市内のアルバラード通り(Alvarado Street)。残念ながらスタインベックとの再会の少しあとで、区画整理のために閉店。でもアルバラド通りの今の写真を見ると、いまも60年代の空気を感じることができます。陽光に満ちた花いっぱいの小径。いろんなエピソード満載の一冊だけれど、この一節がとてもリラックスして感じられて、私の憧れの場所となっています。
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愛犬とともにピックアップトラックの改造車でアメリカを旅した作者の旅行記。
作者の目で見た当時のアメリカが豊かな文章で著されている。
徹頭徹尾一人と1匹の旅ではないし、ときどきは宿にも泊まるし、お金に困るわけでもないし、そういう意味では不思議な旅だと思う。
古いアメリカに郷愁を持っているわけではないので、旅の過程を描いた本編は今更特に評価する必要はないだろう。
それよりも旅好きの読書家には序文と最後の章を是非読んで欲しい。
旅に惹かれて止まない気持ちや、そのための言い訳、旅の終わりを知る際の感覚などをあまりにも的確に表現していて、それだけで胸が一杯になってしまうだろう。
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1960年代のアメリカ。スタインベックが愛犬のチャーリーを連れて、自動車でアメリカ中を旅をする。さすがに観察眼の鋭い人だな、と思わせる記述があちこちに出てくる。かなり面白く、お勧め。
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スタインベックにしては、ありきたりの旅行記と思った。もう少し、貧困層の白人の生活を深く取り上げても良かった。でも、限られた旅行では難しいかもしれないが、
また、本人は、人種差別を嫌っているが、本人自身が人種差別をしていることに気が付いていない。彼が言うアメリカ人の中にイタリア人、イギリス人、アイルランド人が入っているが、黒人は入っていない。また、黒人が自分が知っている黒人のように優秀ならば、認められると書かれているが、優秀でない白人もいるし、また、それほど、優秀でない黒人も同じように人権、権利が認められると思う。普通の人であっても、彼は、オールディーズのように人種差別が認識されない時代を多く過ごしてきた人で、そのような問題を認識しないで、アメリカとアメリカ人を考えようとしても、それは、難しいと思う。このときは、公民権運動がまさに興隆する時期で、まさにアメリカが自分の人種差別、黒人、ヒスパニック、東洋人、同性愛問題への扉が開かれ始めて、新しい時代に踏み出すまさにその前のアメリカであった。
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『怒りの葡萄』などで知られるスタインベックによる旅行記。58歳にしてなお、「旅に出たい!!」という欲求を持ち続けた筆者が広大なアメリカを、ロシナンテ号(車)、チャーリー(犬)と共に旅する。
メイン州はアメリカ北東でカナダとの国境にあるが、スケールの大きい厳しい自然。アメリカに行ったらメイン州に行きたい。この本で知ったのだが、メイン州はジャガイモの産地だとか。スタインベックは、カナダから収穫作業にやってくる季節労働者と触れ合い、素晴らしい時間を過ごし、別れる。『怒りの葡萄』も農場労働者の物語だ。スタインベックには、季節労働者に対する親近感があるのだろう。
ちょくちょく、チャーリー(プードル)との触れ合いがあり、犬の生態に関するスタインベックの興味深い意見が書かれている。
「チャーリーは人間ではない。彼は犬であり、犬であることが好きなのだ。彼は自分を一流の犬だと思っていて、二流の人間になりたいなどとは思っていない」など。
他にもあるが、うまく本文が見つからない。
アメリカとは何だろう、変わりゆく国、街。58歳の作家が旅をしながら考察する。アメリカとは、何だろう。1960年から50年以上過ぎたが、今のアメリカをスタインベックが見たらどう感じるだろうか?
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スタインベックが58歳にしてアメリカを知るため旅に出る。一匹の犬、チャーリーを連れて。
うーん、オレも58歳になったら旅に出よう。
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「チャーリーとの旅」ジョン・スタインベック著・竹内真訳、ポブラ社、2007.03.05
446p ¥1,890 C0098 (2018.03.05読了)(2018.02.22借入)
以下は読書メモです。
『チャーリーとの旅』を読んでいます。
出版されたころからいつか読んでみたいと思っていました。丁度図書館にあったので、この機会に読んでしまうことにしました。(翻訳が出版されたのは、1964年、弘文堂、大前正臣 訳、です。)
スタインベックの、アメリカ国内旅行記です。1960年に、トラックの荷台にキャビンをつけてもらって、寝泊りと生活が可能なものにしてもらいました。車の名前は、ロシナンテ号。(本が出版されたのは、1962年です。)
チャーリーという老犬を連れて出発しました。チャーリーは話し相手であり、人とコミュニケーションをとるときの媒介役です。58歳の男が、一人でいても話しかけにくいけど、犬が一緒だと話しかけやすくなります。僕が散歩していても、犬連れの人とは、挨拶しやすいと感じています。
カナダ国境では、ジャガイモの収穫時期で、多くのカナダ人が家族連れで出稼ぎに来ていました。(フランス系カナダ人をカルナック人と呼ぶ。)(102頁)
五大湖周辺では、いったんカナダに入国して、アメリカに戻ろうと計画したら、カナダの税関で犬の予防注射の証明書の提示を求められました。証明書がないと、カナダに入ることができてもアメリカに戻れないと言われました。スタインベックは、証明書を持っていなかったので、入国をあきらめざるを得ませんでした。
ユーモアのあるエピソードが結構あるので楽しめます。150頁ほど読み終わりました。
洗濯は、ゴミバケツに水と洗剤と洗濯物を入れて、車の荷台にぶら下げておくと、車の移動でよく攪拌されて、きれいに汚れが落ちることがわかったので、旅行の間中そのようにしていた。
読み終わりました。
いろいろトラブルもあったようです。雨でぬかるんだ道路で、後輪がパンクしました。スペアタイヤに付け替えたのですが、もう一方の後輪を見ると、タイヤがすり減りチューブがむき出しになり危うい状態です、たどり着いたガソリンスタンドで、交換するタイヤがないか尋ねたら、トラックのタイヤはありませんでした。取り寄せるには、三日ぐらいかかるということです。困っていると、…。
ガソリンスタンドのおじさんは、電話をかけまくってタイヤを探してくれました。本人は、給油の仕事があり動けないので、弟に頼んで取ってきてもらい替えてくれました。見かけは怖い(凶悪顔)オジサンだったけど、見かけによらず親切だった。
老犬のチャーリーが前立腺炎になり排尿できず、おなかが膨れて熱も上がった状態になりました。手持ちの睡眠薬を飲ませれば、筋肉が緩み排尿できるかと考えて試してみました。何とか排尿できて熱も下がりました。その後、獣医に見てもらいましたが、やぶで…。
テキサス人気質についてあれこれ書いています。お金持ちになると牧場を買うのだそうです。牧場をもってそこで暮らすというのが、夢なのでしょう。
南部の小学校で、白人のみが通っていたところに、黒人の生徒が二人通い始めたことに抗議する白人の母親たちの話が話題になっていた時期で��スタインベックは、現場へ見に行っています。母親たちのひどい言動にあきれています。スタインベックに人種偏見はないようです。
日本の県の名前が出てくれば、日本列島のなかでの位置が大体わかりますが、アメリカの州の名前が出てきても皆目見当が付きません。この本には、アメリカの地図が載っていないので位置関係がわからないまま読んでしまいました。最後のほうは、少しネットで調べながら読んだのですが、もっと最初のほうから調べながら読めばよかったな、と反省しています。
期待以上に面白く読めました。
<旅の順路>
ロングアイランド東端(サグ・ハーバー)、シェルター島、グリーンポート、コネチカット州、マサチューセッツ州、ヴァーモント州、ニューハンプシャー州、メイン州、ニューハンプシャー州、ヴァーモント州、ニューヨーク州、ペンシルヴァニア州、オハイオ州、ミシガン州、イリノイ州、ウィスコンシン州、ミネソタ州、ノースダコタ州、モンタナ州、イエローストーン国立公園、アイダホ州、オレゴン州、カリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州、ヴァージニア州、ウェストヴァージニア州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州、
【目次】
旅立ちの前に
東部から中西部へ
1 旅立ちの決意といくつかの出会い
2 ニューイングランド地方を北へ
3 メインの団欒、ヴァーモントの業火、ニューヨークの道案内
4 ナイアガラ・国境での押し問答
5 中西部の新時代
大分水嶺と西部
1 シカゴの再会
2 イリノイ、ウィスコンシン、ミネソタ・秩序と混乱
3 ミネソタからノースダコタ・思索と芝居
4 バッドランドとグッドランド
5 モンタナへの恋
6 イエローストーン国立公園の伏魔殿
7 ロッキー山脈と太平洋
8 アメリカ杉とチャーリー
9 巨木と人類
10 カリフォルニア州サリーナス・故郷の変貌
11 モントレーからサリーナスを見渡して
12 モハーヴィー砂漠での思索
13 南西部での再出発
テキサス州と南部、そして家路
1 テキサスの姿
2 恐れていた南部へ
3 ニューオーリンズのチアリーダー
4 ミシシッピ河を越えて
5 旅の終わり
●旅(12頁)
人が旅に出るのではなく、旅が人を連れ出すのだ。
旅は結婚に似ている。コントロールしようというのが間違いのもとなのだ。
●ハンター(89頁)
我々の祖先は天使と闘ったヤコブのようにこの大陸と闘い、勝利した。この遠からぬ先祖たちから、我々は多くの精神的傾向を受け継いでいる。その一つに、アメリカ人はみんな生まれながらのハンターだという信念がある。
●新世代のアメリカ人(114頁)
小さな町が衰えて消えていく中、新世代のアメリカ人が人生をかけて愛しているものと言えば、交通渋滞の道路、スモッグまみれの空、工場からの酸性ガスによる息苦しさ、タイヤの軋む騒音、ひしめき合って建つ家々といったものである。
●方言の消失(169頁)
方言は消えつつあるらしい、なくなったのではない。なくなりつつあるのだ。40年にわたるラジオ放送と20年にわたるテレビ放送の影響��間違いなかろう。マスコミがゆっくりと確実に地方色というものを破壊しているに決まっている。
●木こり(174頁)
「木こりは売春宿で木を切り、森で女を抱く」
●旅行の目的(257頁)
アメリカ人は何かを見るためではなく、後になって話題にするために旅行に出るのだ。
●アメリカ人(334頁)
先祖がイギリス系であれアイルランド系であれイタリア系であれユダヤ系であれドイツ系であれポーランド系であれ、本質的にアメリカ人なのだ。
中国系のカリフォルニア人、アイリッシュ系のボストン人、ドイツ系のウィンスコンシン人、そしてアラバマ州の黒人の間には、相違点よりも共通点が目立つのである。
●牧場を買う(367頁)
もしもテキサス男が石油や政府相手の商売、化学製品や食品の卸売りなどで財を築いたとなると、彼が最初にするのは牧場を買うことである。できるだけ大きな牧場を買い、牛を放牧するのだ。
☆関連図書(既読)
「二十日鼠と人間」スタインベック著・大門一男訳、新潮文庫、1953.10.10(1937年)
「赤い小馬」ジョン・スタインベック著・西川正身訳、新潮文庫、1955.08.26
「怒りの葡萄(上)」スタインベック著・石一郎訳、角川文庫、1956.09.10(1939年)
「怒りの葡萄(中)」スタインベック著・石一郎訳、角川文庫、1956.09.20
「怒りの葡萄(下)」スタインベック著・石一郎訳、角川文庫、1956.11.05
「真珠」スタインベック著・大門一男訳、角川文庫、1957.08.15(1947年)
「エデンの東(1)」ジョン・スタインベック著・野崎孝訳、ハヤカワ文庫、1972.01.31
「エデンの東(2)」ジョン・スタインベック著・大橋健三郎訳、ハヤカワ文庫、1972.01.31
「エデンの東(3)」ジョン・スタインベック著・大橋健三郎訳、ハヤカワ文庫、1972.01.31
「エデンの東(4)」ジョン・スタインベック著・野崎孝訳、ハヤカワ文庫、1972.01.31
「愛と死と反逆と」草鹿宏著、集英社文庫、1977.09.20
(2018年3月7日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
自分はどれだけ祖国の実情を知っているだろう―そんな疑問にとりつかれた作家スタインベックは、特注キャンピングカーに愛犬チャーリーを乗せ、アメリカ一周の旅に出た。人生の哀歓と自然の美しさに彩られた旅は、まるで人生そのもののように浮沈を繰り返しながら進んでいく。孤独とともに16000キロを走り抜けた4ヶ月。いまなお世界中の読者に愛される、旅文学の傑作。
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「怒りの葡萄」のスタインベックのロードノベルをあの竹内真が翻訳してるのか!と、そんなことすら知らずに手に取った本書。そして本書は小説ではなく紀行文だった、全く無知未知は汗顔の至りだが、そんだけ自薦知識のないまま読めるのも読書の醍醐味。
ノーベル賞受賞の小説家が、4か月をかけて一番勢いのあった時代のアメリカを、犬を相棒としてキャンピングカーで旅する。面白くないわけない!で、実際これはもう相当に面白い。俺もリタイヤしたらオンボロ中古車でも買って旅に出ようと真剣に思ったくらいに面白い。
アメリカを車で旅する文学と言えば「オン・ザ・ストリート」だがあんなクレージーな旅に疲れを覚える歳になったら、絶対こっちをお勧めする。
スタインベックと愛犬チャーリーの自然体がいい。長時間の運転で目が疲れるし、荷物を積みすぎて走行中にバラバラ散らかるし、挙句の果てに重量オーバーでパンク…。
孤独の旅と言いながら、道中面白そうな人とは社内のキャビンや地域のバーやカフェで呑んだり食ったり親交を温め、時には奥さんを呼び出し、時には旧友を訪ね…。
チャーリーの期限が悪いと旅を中断して散歩をしたり、一緒に寝たり、体調を崩すとオロオロしたり…。
のんびりとほんわかとにぎやかにずっこけムードもありつつ旅は続くのだが、テキサス篇あたりから少し空気が変わってくる。それでもテキサス篇はリスペクトを感じさせる文章なんだが。
南部篇で、スタインベックの文体が変わる。黒人差別の現状を目の当たりにするのだ、折しも1960年代のアメリカ、キング牧師の台頭のほぼ同時期である。スタインベックは差別の現状、ヘイトスピーチの現場を見て怒りを爆発させる…これもアメリカの現実なのか!
そのスタインベックが恥じたアメリカはいまだに残っている、そう彼らはトランプを選んだし、BIM運動を批判する連中はたくさんいる。
いやいや人のことなどいえやしない、この国にも在特会だのネトウヨだの週刊誌だの人権をないがしろにする連中がうようよいるじゃないか。
人生半分以上リタイヤ決め込むような歳になったら、旅に出るのもいいなぁと思えた1冊。だが人生経験を積んでいても情けなく恥ずかしくなるような光景をいくらかは見る旅になることを覚悟しておかねばならないんだろうな。