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紙の本
長靴をはいた黒猫 (二見シャレード文庫)
著者 佐藤 ラカン (著)
フレンチレストラン『黒猫亭』のシェフ・鷹嶋織部は、オーナーでギャルソンの黒猫(花崗朋雪)に想いを寄せるが、彼はパトロンの恋人・長澤と同居中。かつてフランス修行中、腕を見込...
長靴をはいた黒猫 (二見シャレード文庫)
長靴をはいた黒猫
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商品説明
フレンチレストラン『黒猫亭』のシェフ・鷹嶋織部は、オーナーでギャルソンの黒猫(花崗朋雪)に想いを寄せるが、彼はパトロンの恋人・長澤と同居中。かつてフランス修行中、腕を見込まれた鷹嶋は寝る暇もないほど黒猫に料理を作らされ、鬱状態に陥った過去から気弱になり、その切ない胸の内を今も伝えられずにいる。黒猫は長澤に絶対の信頼を置きながらも、そんな鷹嶋に罪悪感を抱き続けていた。折から、黒猫亭では新従業員の一人である泉宮が長澤の友人に強姦される事件が起こり、翌日黒猫が突然店を休む。一抹の不安を覚えた鷹嶋が、後日長澤に呼び出されホテルの部屋へ向かうと、なぜかそこには黒猫の姿が…。シェフ×ギャルソンのスタイリッシュな恋。【「BOOK」データベースの商品解説】
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紙の本
セレブな老害を超える、最強のヘタレ……
2007/06/02 23:33
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る
このジャンルには「ヘタレ攻め」という面白い人格区分があるのだということを、いろいろな本で学習しました。正確な定義は未確認ですが、性格的に気弱だったり頼りなかったり、振り回されやすかったりするタイプであるにも関わらず、恋愛関係では「攻め」の位置にあるひと、と理解しております。
この作品の主人公である鷹嶋は、これまで読んだ数百冊のこのジャンルの本に出てきた「攻め」のなかでも、おそらく一、二を争うキング・オブ・ヘタレではないかと思います。
鷹嶋は実は天才的シェフで(彼の指で触れたものはヒトでも食材でもメロメロになるという、ある意味ファンタジックな設定です)、恐ろしく容姿のいい男であるのですが、もともと繊細な神経の持ち主であったところに、修行中に受けたすさまじいトラウマのせいで、プライドはおろか、自立的に生きる能力そのものまで粉砕されてしまい、勤め先のレストラン「黒猫亭」のオーナーである花崗に保護され、リモコン操作されるようにして日々を送っている始末です。
鷹嶋は花崗を深く愛しているのですが、人として無価値な自分には分不相応な恋着であると思いこみ、また彼に見捨てられたら生きていけないと信じているので、花崗の一挙手一投足にビクつきながら暮らしています。花崗には同棲しているパトロンもいて、その存在も恒常的に鷹嶋を傷つけているのですが、花崗のほうは鷹嶋の心情を踏みにじるような言動をしてはばかりません。けれどもどんなに傷つけられても、怒ることも離れることもできず、花崗を崇拝しほほえみつづけている鷹嶋。そのあまりの情けなさ、痛ましさに、途中で読むのをやめようかと思ったのですが、やがて花崗ばかりが優位ではないことが分かってきます。
鷹嶋は、花岡が雇い入れた新しい従業員たちの面倒を見るうちに、次第に意志や感情を取り戻し、まっとうな人間関係を作る手だてを学んでいきます。ところがその様子を見る花崗の目には、なぜか微妙な嫉妬の色が。花崗の本心がどこにあるのかは誰の目にも明かなのですが、自己評価の低すぎる鷹嶋にだけはそれが分からないという構図が、花崗と鷹嶋の関係を意外と対等なものにしています。
黒猫亭」の周囲には、個性的な四人の老人(年齢不詳)がいます。とても裕福で権力もある彼らは、「黒猫亭」や花崗を守る存在であったり、弱みに付け込む心ない簒奪者であったりするのですが、鷹嶋を一人前の人とも思わぬ態度でいいようにあしらうところだけは、全員に共通しています。物語は一貫して鷹嶋視点で語られるので、このおジイさんたちの老害ぶりには、敬老精神など摩滅するほど腹がたつのですが、鷹嶋には面と向かって反発心を持つだけの矜持もなく、おどおどとほほえむか、ぶざまに慌てるばかりです。もう心底情けないという他はないのですが、お話を最後まで読んでみると、この鬱陶しいおジイさんたちは、結果的には誰一人として、「黒猫亭」において、また花崗との関係において、鷹嶋を超える存在になることはできないのです。そのことに気づいて非常に胸のすく思いをしたところで、改めて、それまで実は好きにはなれなかった「ヘタレ」という人格の奥深さを思いました。
吹けば飛ぶほど気弱であり、自分に微塵も自信を持てないような傷ついた人間でも、誠実にひとを思うことは出来るし、自分が大切に思う人々のことを注意深く見て正しく理解することも出来るのです。鷹嶋は打たれる前から思い切り奥に引っ込んだ釘のようなひとですが、その真っ直ぐさとヘタレなポジションゆえに、セレブで我の強い老人たちでは救うことも奪うこともできなかった、花崗という傷つき歪んだ青年を包み込むことができたのでしょう。などと思いながら「黒猫亭」という奇妙なレストランと、そこに集う人々の醸し出す、どこか奇妙で幻想的な雰囲気に取り込まれつつ、楽しく読了しました。