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紙の本
聖海のサンドリオン 陽に咲く姫と鏡の女王 (コバルト文庫)
著者 さくま ゆうこ (著)
海賊退治船『緑の宝玉』号の下働きの少年サン。その正体は南西海の島の王女ソラーナである—。『緑の宝玉』号は、サンの生まれ故郷の島へ向かう。継母から島を取り戻すためだった。し...
聖海のサンドリオン 陽に咲く姫と鏡の女王 (コバルト文庫)
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商品説明
海賊退治船『緑の宝玉』号の下働きの少年サン。その正体は南西海の島の王女ソラーナである—。『緑の宝玉』号は、サンの生まれ故郷の島へ向かう。継母から島を取り戻すためだった。しかし島のあまりの荒廃ぶりにサンは驚いてしまい…!?同じ頃「氷の王子」の異名を持つ大陸のフィルドゥフェール王子がサンの正体をつきとめて…!?エスメラルダ号最後の戦いが、始まろうとしていた。【「BOOK」データベースの商品解説】
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紙の本
幸せを運ぶのは「ガラスの靴」ではありません
2007/02/27 21:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オカメインコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「無償の善意」という言葉を聞くと、一般的にはどんな印象を受けるものなのだろう?どこか綺麗事のようにしか聞こえなかった私は、この作品によって意識を変えられた。
サンドリオンとはシンデレラのこと。
「世界一不幸な姫」とあだなされる王女サンは、継母の策略により島を追われ、船は嵐で転覆し……と、のっけから主人公の不幸度満点で始まったこのシリーズ作品も本書で5作目、そして、完結である。
作品舞台は、陸地のほとんどが水没し多くの人が海上で生活をしている未来の地球。ここでは海神たちが世界を治め、サンドリオンに限らず、白雪姫、青い鳥などなど、様々な童話を部分的に散りばめたユニークな冒険ファンタジーに仕上がっている。
紆余曲折を経て、本書ではいよいよ島を乗っ取った継母であり現女王との決着の時を迎える。冷酷非道な継母から島を取り戻すことはもちろん容易ではない。味方にも、甘い考えだと言われても「誰にも死んでほしくない」の一点張りで主張を曲げようとしない主人公の”誰も死なない革命”の結末……なるほど、そうきたか!と、実にこの作品らしい決着のつけ方が、とても気持ちよかった。
シリーズを通してずっと主人公の成長物語だと思い読み続けてきたが、実際幕を閉じてみれば、主人公の影響によって周りの人たちの心が変化していく物語だったように思う。
そして、この作品にはもう一人主人公がいた気がする。主人公の護衛のエスピオンだ。彼のための作品であったといっても過言ではないと感じるほどに、彼の背負った使命や、心の動きがツボで乙女心を刺激されドキドキさせられた。ね?女性読者の皆さん(笑)
ただ、主人公があまりに純真無垢すぎるところや、童話要素が強いせいか、全体的にぬるさのようなものを感じてしまうことは否めない。でも、ぬるいけれど、クセになる心地良さのある作品だ。これからますます面白くなっていくだろう作品なのに、なぜここでシリーズ完結なのか。実にもったいないと思う。
「無償の善意と真っ白な心」がテーマだったというこのシリーズ作品。
元々のサンドリオン(シンデレラ)の作者であるペローの『完訳ペロー童話集』の「サンドリヨン」の最後に、こういう教訓が書かれてある。
『美しさは女性にとってまれな財産、
みな見とれて飽きることはない、
しかし善意と呼ばれるものは
値のつけようもなく、はるかに尊い。
これこそ名付け親がサンドリヨンにさずけた賜物、
(中略)
美しいかたがたよ、この贈物は、美しく髪を結うことよりはるかに大事、
男の心を惹きつけ、目的をとげるには、
善意こそ仙女の真の贈物、
それなくしてはなにも出来ず、それあればすべてが可能。』
サンドリオン(シンデレラ)は、ガラスの靴によって幸せになったのではない。どんな辛い目に遭っても他人のことを思う心を忘れなかったからこそ幸せを招き寄せることができたのである。
善意が善意を呼び、人と人の間に懸け橋を築いていく。本書では主人公・サンがその役割だったが、きっと誰もが懸け橋を築くことはできるのだと思う。
この作品でいうところの、私たちが生きる”オールドアース(西暦の時代)”に、「無償の善意」はちゃんと存在しているだろうか。考えずにはいられない。