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食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む (光文社新書)
著者 宮下 規久朗 (著)
古来から食べることに貪欲であった西洋。中世、キリスト教により食事に神聖な意味が与えられると、食事の情景が美術の中心を占めるにいたった。それらの美術表現を振り返り、意味を考...
食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む (光文社新書)
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商品説明
古来から食べることに貪欲であった西洋。中世、キリスト教により食事に神聖な意味が与えられると、食事の情景が美術の中心を占めるにいたった。それらの美術表現を振り返り、意味を考え、西洋美術史を別の角度から照らし出す。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
宮下 規久朗
- 略歴
- 〈宮下規久朗〉1963年愛知県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修了。神戸大学文学部助教授。「カラヴァッジョ」で第27回サントリー学芸賞受賞。その他の著書に「バロック美術の成立」など。
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紙の本
食事・食物の美術表現から探るユニークな西洋絵画史
2007/04/21 12:26
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
西洋美術を解説した書物は、星の数ほど出版されているが、本書のように食事や食物の美術表現から西洋の美術や文化を論じたものは、あまり例がなく興味を惹く。
西洋では、「食べる」ということからまず思い浮かべる情景は、聖書に記されたイエス・キリストの「最後の晩餐」ということだが、本書もそこから記述が始められている。聖書を読むと、イエスは捕縛される前に、弟子たちと最後の晩餐を共にして、「パンをわが肉、葡萄酒をわが血」として彼らに分ち与えたという記述がある。それは、後にキリスト教の重要な教義となり、多くの画家たちが教会の委嘱を受けて最後の晩餐を主題にした無数の絵画を描いている。本書では、わが国でも広く知られているレオナルド・ダ・ビンチの絵画からティントレット、プッサン、最近注目を集めているカラヴァッジョの作品を取り上げ、画家によってこの主題がどのように描き分けられているのかということを図版に基にして具体的に論じている。
著者は、さらに最後の晩餐の教義から派生して、西洋では「よい食事」と「悪い食事」という区別があったことを指摘している。著者によれば、よい食事とは、イエスの最後の晩餐のように、パンと葡萄酒という質素なものを指し、悪い食事とは聖書の中で大罪とされている大食、つまり飽食を指すという。
わが国を初めとする東アジアの国々では、食べることを巡って絵画が描かれること自体が珍しいので、食べることによい・悪いという区別があったことは文化史的に興味深い。
このような悪しき食事が描かれる際には、当初は教訓的なイメージが込められていたということだが、時代を経るにつれ宗教上の規制が弱まると、飽食や豪華な宴会を描いた絵画は、批判的な眼差しを交えずに描かれるようになっていったという。その背景には、社会全般が飢餓に常に晒されており、宴会などで腹一杯食べることが現世の望みの一つであり、絵画は人々のそのような願望を目に見えるかたちで表すものであったという。
著者は、この他にも、食べることを巡って描かれた西洋絵画を様々な視点から論じており興味が尽きないが、ここで忘れてはならないことは、著者は西洋絵画の名作を紹介するばかりではなく、今では忘れかけられているマージナルな画家たちの絵画も対象にしていることである。
例えば、十九世紀の印象派の画家たちの名声に隠れて忘れ去られてしまったイギリスの画家、トーマス・フェードを取り上げて、社会の底辺でその日暮らしの生活を余儀なくされている人達のシビアな食事の様子を描いた作品を論じている。一見すると忘れ難い印象を残し、小さな図版からも画家が絵画に込めた思いがありありと伝わって来る。このような社会史的な視点を取り入れて絵画を論じていることが本書に格段の奥行きを与えている。
最近は、折からの美術ブームに乗って、関連する新書も多く刊行されているが、本書はそのテーマの斬新さ、豊富な知識、多数の図版、論旨の明快さにおいて一頭地を抜いており、読者を西洋美術の沃野に導いてくれる
紙の本
勉強させていただきました
2009/07/25 16:24
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は神戸大学の助教授(本書執筆当時)で、イタリアを中心とする西洋美術史を研究する人物。
本書は、西洋絵画に描きこまれた食事や食物についてその時代背景や文化背景を解説した一冊です。
「中世初期のヨーロッパでは、パンとワインは地中海世界のローマ文化圏特有の食べ物であり、北方のゲルマン世界では、肉とエールこそが主食であった。古代ギリシアでもローマでも、パンには文明の象徴としての役割が与えられており、それを知らないゲルマン人を野蛮であるとみなしていた。」(21頁)
そしてこのローマの伝統がキリスト教世界に引き継がれたとあります。
これが聖餐という概念の基礎となり、そのさらに先に、食物をほどこす慈善行為が神聖な主題として絵画に描かれる場合もあったとか。
こうしたことから、日本画に比べて「食べる」ということが西洋では絵画の主たるテーマになりえたと著者は説きます。
食べ物ひとつとっても絵画の中における深い文化的意義があるというのは大変勉強になりました。
時代を下ると、常に飢餓や欠乏の恐怖と隣り合っていた時代には、豊かな食材があふれる静物画が不安をかき消して満足を与えてくれるものとなる場合もあれば、現代のように飽食の時代にはウォーホルなどのポップ・アートに描かれる缶詰製品が、豊かな時代の謳歌となったなど、言われてみればなるほどと思いつつも、絵画が時代を描くメディアとして大きな力をもつものであることを強く再認識させます。
なお、本書で紹介されている絵画のいくつかはそのカラー図版が掲載されていますが、数には限りがあります。ネット上のバーチャル美術館サイトを渉猟しながら本書を繰ることをお勧めします。
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サブタイトルは、「「最後の晩餐」から読む」
2008/11/29 22:00
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
サブタイトルは、「「最後の晩餐」から読む」となっています。
タイトルの通り、本書は絵画を中心とした中世から現代までの美術作品の中で「食」をテーマにしているものについて解説しています。
「食」をテーマにしている絵画を通して、「食べる」という行為を宗教的、文化的な観点から考えるという、ちょっと変わった歴史書です。
中世ヨーロッパというと、暗黒の時代からルネッサンスへとむかうなかで、その生活の中心にあるのがキリスト教でした。
現に「最後の晩餐」は、イエスとその弟子たちの食事の場面を描いたもの。
現代でも、食事を一緒にとるということは、コミュニケーションをとるため一番の手段だと言えます。
食事の場面をとらえた絵画は、そこに描かれた人たちの一瞬の感情を記録しているともいえるのです。
そのためダビンチコードではありませんが、その絵画のなかに強くメッセージを残すことができ、それが見る者を魅了するのかもしれません。
最期の晩餐の人間模様については、まさにミステリー。
ところで、最後の晩餐という作品は、ダビンチのものが最も有名ですが、ダビンチ前、ダビンチ後にも同じタイトルのすぐれた作品がたくさんあります。
作者によって、その場面の捉え方が違うのを味わう。
それが美術鑑賞のだいご味なのでしょう。
そこまでの境地に達するには、まだかなりの時間がかかりそうです。
龍.
http://ameblo.jp/12484/
紙の本
着想と構成はすばらしい
2008/07/22 21:48
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
最後の晩餐をはじめとして食べる行為を題材にした(あるいはタイトルが食事を思わせる)西洋絵画を、キリスト教の影響や当時の世相をふまえ、見る側にどう受けとめられた作品だったかなども含めて解説していく。
大まかな構成
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第1章 - 《最後の晩餐》と西洋美術
ダ・ヴィンチ、ダ・ヴィンチ以降、エマオの晩餐、日本の「最後の晩餐」
第2章 - よい食事と悪い食事
キリスト教と西洋美術、聖人の食事、慈善の食事、ほか
第3章 - 台所と市場の罠
厨房と二重空間、市場の情景、感謝祭と四旬節の戦い、カンピの市場画連作
第4章 - 静物画——食材への誘惑
静物画——意味を担う芸術へ、オランダの食卓画、スペインのボデゴン、ほか
第5章 - 近代美術と飲食
屋外へ出る食事、家庭とレストラン、貧しき食事、女性と食事
第6章 - 最後の晩餐
死者と食事、臨終の食事、死にいたる食事
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さまざまな階級、職業、食事の場面が出てくる。関心事はキリスト教よりも食べもの文化史のほうであるわたしだが、描かれた当時の時代背景を知る上で申し分なくよい絵だと感じさせるものもあったし、理屈ではなくひたすら惹きつけられた作品もあった。
この本では、あくまで主役は文章のほうであり、絵画の紹介は限定的(カラーは少なく、サイズも小さい)となっているため、ぱらぱらとページをめくって「見て楽しむ」といった使い方は、あまり期待できない。
着眼点と構成は申し分なく、逸話としてはおもしろいものもあるのだが、逆にいえば、ぐいぐい人を引きつける派手な題材ではないことも影響してか、読後感としては印象の薄さを否めない。
終盤に近づくと近代絵画も登場し、アンディ・ウォーフォールなどポップアートの話題もある。