「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
- カテゴリ:一般
- 発行年月:2006.11
- 出版社:
- サイズ:21cm/183p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-89469-105-6
マンガ蟹工船 30分で読める…大学生のための
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
小林多喜二の名作『蟹工船』がマンガになった
2006/11/19 09:47
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
21世紀に蘇るべきして蘇った小林多喜二。映画になり、歌になり、今度は『蟹工船』がマンガになった。
人間の生と尊厳を熱く語り続けた多喜二。『マンガ蟹工船』には、人間の生と尊厳を踏みにじり、金儲けのためには人間を物以下にしか扱わない、資本主義社会の本質が生々しく描かれている。そして、命さえ脅かされても抵抗すらできない労働者。その両者の極端な姿が生々しい。
もっとも優れていると思われるのは、雑多の集団だった労働者が、ひとつのまとまった集団へと変化していく様を巧みに描いているところだろう。命さえ脅かされるもとでも、様々な「ごまかし」に惑わされ、なかなか団結できない労働者。その労働者が目覚めていく過程を、一本道として描くのではなく、雑多な労働者がいくつものジグザグな進展・後退を繰り返しながらも、やがてまとまっていくところが巧みである。
多喜二が描こうとした資本主義の本質、その本質は現代にも当てはまる。ますます巧妙になった現代の「ごまかし」の本質を、この『マンガ蟹工船』を読むだけでも、考えることができる。浅川監督のような直接的な暴力は無くなってはいても(現実には少数ながら存在することを見逃してはならないが)、過労死や精神疾患の増加などに見られるように労働者の命さえ削り取っていく搾取はいまなお続けられている。
この『マンガ蟹工船』を、現代の問題として読み取って欲しいと願わずにはいられない。『マンガ蟹工船』を現在の問題として読めば、多喜二文学がいまもなお読み継がれる理由がおのずと明らかになるだろう。
この『マンガ蟹工船』には、マンガでは異例とも言える長文の「解説」が島村輝氏によって書かれている。この「解説」が、小説『蟹工船』への良き導きとして優れている。「ことばの仕掛け」の読み解き、小説『蟹工船』を読むことが楽しくなるような内容に満ちている。
今回、『マンガ蟹工船』を読むにあたって小説『蟹工船』を事前に読んだ。多喜二を読んだ初めての作品が『蟹工船』であった。もう30年ほど前になる。その後も繰り返し読んだが、今回『マンガ蟹工船』を読んで気づいたことがある。
島村輝氏の『臨界の近代日本文学』の中の『一九二八年三月十五日』に関する論に、「語り、駆り立てる」と「示し、知らせる」ということに触れている。
多喜二は、「『示し知らせる』ことを目的としたのではなく、『自分の眼で見せつけられた』事件の相について『語り、駆り立てる』ことを主な目的とした」という評価である。
多喜二の作品の魅力はなんと言っても、生とその尊厳への慈しみ、それを踏みにじるものに対する怒りを全身で語ったことではないだろうか。
多喜二が多喜二自身の心からの叫びとして「語られた」作品は強く読者の心に響いてくる。「示し、知らせる」ことを急いだ作品には何か不足を感じる。
『一九二八年三月十五日』が読むものの心を強く揺さぶるのは、多喜二の「語り」にあるのだと思う。『蟹工船』の中にも「語り」が満ちている。
ぜひ『マンガ蟹工船』を読んで欲しい。現代にも通用する多喜二の魅力が溢れている。