紙の本
絶望が教えてくれたもの
2006/12/15 09:58
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆう - この投稿者のレビュー一覧を見る
70年代の学生運度に関係し、内ゲバによって殺されてしまった姉・希枝子。
姉が求めていたものは何だったのか?なぜこんな事になってしまったのか?
妹・洋子は、その真意と真相を追うため、姉が残した唯一の手がかりをもとに、一人の男性を求めて危うい闇の世界へと足を踏み入れた・・・。
学園闘争を背景に、その当時の混沌とした若者達の思想や現実に触れられ、知らなかった世界を覗けたようで新鮮に感じた作品だった。
上滑りなセリフや出来すぎた展開に、少し興ざめしてしまった部分もあったが、一貫して文章は美しく滑らかで、生命力に溢れた力強さが感じられた。
大切なものを二度も失い絶望の果てにあっても、一筋の光をたどるが如く再生していった洋子の姿には、素直に感動できた。
爽やかな読後感と、気持ちのよい余韻がいつまでも続いた作品だった。
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本日、京成線で読了しました。
札幌と東京。
喪失と癒し。
虚無とセックス。
この対比は作者の原風景なのかしらん。
静かな筆致は相変わらずで、好き。
高橋和巳『憂鬱なる党派』と合わせて読むと60年、70年の学生運動の表裏を感じる。
優しくなりたいから学ぶ、という言葉は凄く共感できる。
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学園闘争に巻き込まれ、頭を割られた愛する姉・希枝子。妹・洋子は、姉の恋文の相手を探し、混沌へ足を踏み入れる。
学園闘争をテーマにした、洋子の物語。学園闘争を続ける学生たちの残虐、そして洋子が自分を取り戻していくという希望が混じり合っていてなんともいえない雰囲気のある作品だった。
ただ、僕が大崎善生に求めているのは恋愛小説。そういった意味で、今作は読み返すことはないような気がする…;
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この人の文章は、男性なのにとても女性的で柔らかくて描写が綺麗です。でもちゃんと男性が書いているって分かるところが凄い。キャロル・キングの「タペストリー」というCDをモチーフにした話。「自分は何のために生きているのか」を亡くなった姉の死因を探りながら、主人公が模索していく話。言葉がとても優しくて読み心地が良いな、と思った。
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学園闘争が残したのは、ひび割れて飛び飛びになった床のタイル-。愛する姉・希枝子を内ゲバで失った洋子は、姉の恋文の相手を求めて混沌へと足を踏み入れた…。脆く、澄み切った時間を描いた青春小説。
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大崎善生の本は必ずと言っていいほどBGMがある。今回はキャロル・キングのタペストリー。私がこのアルバムを聴いたのは高校生の時でしたが、あまりよく分からなかった。でも、この本を読んでもう一度聴いてみたくなりました。今ならきっと受け取れるものが多いと思うので・・・。
相変わらず、大きな余韻を残しますが、今回はそれプラスずっしりと重いものが残りました。70年代後半の全学闘がモチーフということもあり、生々しく、恐ろしく、想像を膨らませるのが辛くなることも多かったです。
ニュースでしか見たことがない時代のことが、少しだけ見えました。
そういえば、テリー伊藤の目に石が当たって斜視になったというのは、この時代ですよね。
娯楽に飢えていた若者たちが「革命」や「闘争」という言葉にのめり込み、過激化し次々と破壊していく。それは頭蓋骨までも。
内ゲバによる死者は100名以上、負傷者は数千人・・・。それをイナゴの襲来と例えたのがうまい。稲を食いつくし、食いつけるももがなくなったら共食いをする、と。
喪失と再生。闇の中でもがき苦しむ姿。美しい筆致。余韻の深さ。相変わらず すばらしいです。
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筆者の著書は、アジアンタムブルー とパイロットフィッシュ に続く三作目だ。
主人公の洋子は私より一つ下、姉は洋子より4つ上、つまり私より3つ上なのだけど・・・そんな時代背景の物語を、私は『これはいつの時代の話?どこの国の話なの??』とおもって読んでいた。
舞台は札幌、父は北大医学部の教授、姉は優秀な成績で道内一の県立高校に入学するも、大学生のリーダーを中心に、学生運動は高校にまで飛び火、校長を人質に取ると言う革命を起こす。
そして大学生のリーダーに思いを寄せる姉・・
Will you love me tomorrow ?
真面目一方、勉学以外に興味を示さず、ただただ勉学に励む姉の部屋からある晩に初めて聞こえてきた洋楽に耳を傾ける中1の洋子・・
それが全ての始まりになるとも知らずに・・
全編に渡り、キャロル・キングのタペストリーと言うアルバムの曲が表題につけられている。
前述したように、私はこの本の主人公たちと同じ時代を生きている。
しかし、私の通っていた都立高校では退学者の1人も出ない平和な学生生活だった。
そして大学に進んでも、私の身の回り、例えば名前だけ知ってる、なんて人の中にさえ、学生運動に関わりがあったと言う人は、1人もいない。
そんな気配さえもない世界の中で送った学生時代・・・
私の知らないサイドでは、まだ学生運動は行なわれ、内ゲバで死傷・負傷した人がいたとは・・・
しかも舞台は善福寺川が流れる、私の暮らしていた実家と至近距離で・・・
考えたら、私の学生時代は、楽しいことしか考えていなかった。
ファッション、ボーイフレンド、新しく出来たディスコ、海外旅行、今で言うブランド品もこの時代からなのではないだろうか・・
学生が企業を起こしたり、外車に乗って会員制のディスコやスポーツクラブに通っていた・・
私の周りでも、車を持たない人は居なかったくらい・・
飲めば、どこからでもタクシーで帰る。
今じゃとても行けないようなレストランで食事していた。
ニューヨークへの往復チケットが44万だった時代・・
夏木マリがCMしていた『ヨーロッパまで100万かかった』って言っていた時代、学校の友達は何人もヨーロッパに行っていた。
違うサイドでは、血で血を洗うような殺戮が学生同士の間で起こっていたとは・・・・・・・
浅間山荘事件、成田闘争・・・交番爆破・・・・・そういうのはみんな新聞紙上やテレビの中だけの話だと思っていた。
そういう事件の犠牲者に同年代の人たちがなっていたとは・・・・・
世の中の”普通”ってなんだろう・・・
同じような”普通”を共有する仲間内で『普通、そんなことありえないよね・・』とか『普通はこうだよね』って言っている普通ってどれだけ世の中で通用する普通なのだろう・・・
その普通とはモラル・常識と言えるのだろうか・・・
普通を共有できない同士のルールってどうやって作られるのだろう・・・・・
文中にも書��てあったが、そういう活動をしていた人たちも、学生時代が終われば、敵対視していた企業に就職し、バリケードを作って立て篭もっていた成田空港からスーツを着て海外出張に出ていると・・・
その陰で、帰らぬ魂となった犠牲者はなんだったんだ・・・・と。
そして、渦中に居ないまでも、余波を浴びて活動の呪縛から逃れられない主人公:洋子の時代を歩む人たち・・・
同じ時代を生きても、同じ川が流れる地域に住んでいても、全く何事も知らずに暮らしていた私・・そして私の周りに居た人たち・・・
とても同じ”普通”を共有していると思えない・・・
そういや一時期、テレビやメディアで盛んに取り上げられていた山姥ギャル、上の娘はまさに同じ時代を送っていたけど、娘の周りに1人として、そういう気配を見せるお嬢さんは居なかったもの・・・・・
文中に流れるキャロル・キングのアルバム:タペストリーの曲
Carole King
Tapestry (試聴できます)
私が知ったのは21歳の秋、無造作に壁に立てかけられていたレコードジャケットの物憂い女性が窓辺に座り、こちらに向けられた視線。
文中の彼らと同じように『これ、いいよな』って言ったのを思い出す。
あの人がいいって薦めてくれたアルバムは殆ど同じものを買ったけど、何故か、これは買わなかった・・
なんでだったのか今ならわかる。
他のアーティストには一回も感じたことのなかった感情・・
このアルバムに私はジェラシー感じたんだよな・・アハハ
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1970年代の学生運動まっさかりの時代から、その終焉にかけての時代でいいだろうか。
その時代に少女から大人になって、主人公に色々な影響を与えた姉を学生運動の中で亡くし、その理由を探すために後を追うように上京する。
そこで唯一出会った大切な友。
それでもなお、学生運動の残りの火が彼女を追い詰める…。
学生運動というものに興味も関心も湧かない今の私。興味を持っている人のほうが少ないのかもしれない。
その辺りの人間の心理を理解することは難しいかもしれないが、理不尽な暴力によって大切なものを奪われることは想像を絶するほどの悲しみや苦しみがあることは理解できる。
大崎善生は孤独な人を描くことが多いと思う。
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いきなり余談ですが、表紙のデザインがとても美しい本。
さすが、鈴木成一。
で、本題。
時代背景が、学生運動直後の時代ということで、自分にはリアルではなくなかなか理解しづらい内容でした。
でも、それがもたらした虚無感はなんとなくわかる気がします。
そして、そういった雰囲気と大崎善生の文章はとても相性が良い気がします。
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もし自分で生まれる時期を選んでいいって言われたら、絶対選ばない時代ナンバーワンになるのが、まさしくこの時代。そう、1960年代の学生運動時代。このころって勉強したくても出来なくて、しかもそれを邪魔してるのは自分と同じ学生にある立場の人間。勉強したいがために大学に入ったのに、それなのに結末はおぞましい。血をたくさん流し合ってるのがこの時代。あたしはこの時代のことを扱ったいろんな本を何度も読んでいながらも、彼らが何を求めてたのかはいまだに理解できない。ただ一つ思うのは、どうすれば良いか分からなかった結末がそれだったんじゃないかな、ということだけ。“解放”とは何なのか。キャロルキングが聴きたくなる1冊。
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重厚で官能的。
私には重すぎたかも。ちょっと怖かったです。そして、涙が出ました。
キャロル・キングのバラードに重ねて。
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今の時期に読めてよかった。
「タペストリー」ということばを聞くたびに
またこの気持ちを思い出せますように。
「Will you love me tomorrow?」
「You’re got a friend」
「It’s too late」
「Tapestry」
キャロル・キングの曲を聴きながら再読してみたいです。
装丁は鈴木成一デザイン室。
(2008.5.6)
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70年代の学園紛争の分析。姉を紛争の内ゲバ騒動で亡くした妹の再生物語。
小説の展開以上に時代分析のほうが強く、姉に続いて恋人、そして自分自身も殲滅の対象になるという設定には違和感が残った。
作成日時 2006年12月09日 11:24
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学生闘争とか全く興味なかったけど読んでみるとどの時代にも起こり得ることだと思う。人の感情は流されやすく恐ろしい。
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大崎善生の「再生」をテーマとした作品は、立ち直りつつあるときに凄く勇気をくれますが、そろそろ飽きてきたっていうのが本音です・・・。特にタペストリーホワイトは68年運動とその周辺の時代を身をもって知らない私にはちょっと共感氏がたい内容でした。小説でしかなしえない世界だと思います。川が氾濫していくシーンはうまい書き方するなぁと思いましたし、高校時代の希枝子さんの話は好きでした。自由になるために勉強をするけれど、知識はかえって自分を不自由にする。