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失われた時を求めて 完訳版 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)
語り手の家族は、パリのゲルマント家の館の一角に引越し、「ゲルマントの方」の扉が徐々に開かれる。ラ・ベルマの演ずる『フェードル』観劇のさいに、ゲルマント公爵夫人を見かけた語...
失われた時を求めて 完訳版 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)
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商品説明
語り手の家族は、パリのゲルマント家の館の一角に引越し、「ゲルマントの方」の扉が徐々に開かれる。ラ・ベルマの演ずる『フェードル』観劇のさいに、ゲルマント公爵夫人を見かけた語り手は、プラトニックな愛情を抱くようになり、夫人に近づくため、同じ一族のサン=ルーを訪ねる。やがてヴィルパリジ夫人のサロンでゲルマント公爵夫人を見かけるが、現実の夫人には、彼女の名前を通して思い描いていた神秘的なものを見出すことができない。【「BOOK」データベースの商品解説】
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サロンのなかでのドレフュス事件
2010/07/05 22:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
ゲルマントの方、ということで、この巻から主人公一家はなんとゲルマント家に間借りすることになる。ゲルマント家といえばこの作の中ではきわめて高貴な一族ということで、それまでは雲の上の存在だった人たちが隣人となり、話は新たな展開を迎える。
とはいっても、語り手はまたしても、今度はゲルマント公爵夫人に心を奪われて、ストーカーまがいの真似に走ったり、親戚であるサン=ルーに便宜を図ってもらおうと兵役で駐屯している場所に赴いたりと、お近づきになろうと涙ぐましい作戦を立てる。
そこで次第に重要な意味合いを持ち始めるのが、ドレフュス事件だ。サロンから使いのものまであらゆる人物たちがこの事件を口にし、世論をまっぷたつにしている。
ドレフュス事件は対独スパイの証拠となるメモが発見されたことから始まり、このメモの筆跡からユダヤ人のアルフレッド・ドレフュスが逮捕、有罪とされた。事態に疑念を抱いたドレフュスの兄らが調査をはじめるなか、情報部長のピカール中佐は、メモの筆跡はドレフュスのものではなく、元参謀本部のエステラジー少佐のものであることを突き止めた。しかし、この訴えは参謀総長らに握りつぶされ、ピカールには圧力が加えられ、捏造の証拠で有罪にされるなどして左遷された。しかし、メモは新聞に掲載され、ドレフュスの兄は真犯人エステラジー少佐を告発するに至る。ここでも軍法会議はエステラジーを無罪にするなど嘘と工作を続けていく。
反ユダヤ主義の象徴とも言える事件で、ただの冤罪事件ではなく、反ユダヤ主義、愛国主義、その他さまざまな議論を含んで、非常に紛糾したものとなっていく。エミール・ゾラが当局を糾弾する文章を書いたことが有名だ。ユダヤ人として出てくるブロック(この名は、ユダヤ系の歴史家マルク・ブロックの姓と同じものだろうか)は後半でサロンに現れ、ドレフュス事件を話題にして煙たがられる描写などもある。ドレフュス事件に対してどのような姿勢を現すかがきわめて重要な意味合いを帯びてくる。
この巻ではそんなに話が進むわけではないのにやたらと長い(全巻最長)ので挫折する人も多いらしいけれど、ドレフュス事件にまつわる人間模様はそれまでの関係に新たな光を当てていて非常に面白い。ドレフュス事件そのものも興味深く、註も面白い。
ちなみに、事件の真犯人エステラジーは、Esterhazyと書き、ハンガリーの一大貴族エステルハージ家の人間だということをさっきドレフュス事件をWikipediaで調べていて気がついた。「エステラジー」では気がつかなかった。同じ一族のエステルハージ・ペーテルというハンガリーの小説家がいて、ユーゴスラヴィアの作家ダニロ・キシュの友人であり、その死のニュースに触れたときのことが記されている「ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし」が松籟社から出ている。キシュにもエステルハージ家の人間を題材にした短篇がある。