紙の本
遺伝とは、家族とは何かという問題に精子バンクを通して一つの回答を与えるノンフィクション
2006/11/03 00:44
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
性格や能力について、遺伝の大きさはもうずいぶん解明されている。おおよそ50〜80%が遺伝の影響というが、一卵性双生児の性格の一致は50%よりも高いところでの遺伝率を示しているように思われる。そうした事実からも、性格が良い、あるいは能力が高い(ついでに見た目が良い)配偶者を選ぶことが大切であることが知れる。
しかしながら、誰もがカタログじゃなくて実際の人間でやる品定めが、スペック表と一緒に宣伝されるとなぜこれほどにも不思議な感じがするのか。
本書はノーベル賞受賞者のみを対象として発足した精子バンクの辿った不思議な道筋と、精子バンクに関わりを持ったスタッフ、ドナー、レシピエントたちの姿を描いたノンフィクションだ。同一人物の精子から誕生した子供たち(当然ながら卵子はそれぞれ別だ)が能力も性格もバラバラであることが面白い。能力や性格に及ぼす遺伝子の複雑な振る舞いの結果だろう。一卵性双生児ならほとんど性格は同じだが、二卵性双生児であれば一卵性双生児よりも性格の一致度は半分程度に下がる。それを考えれば、単純に精子だけノーベル賞受賞者のものを持ってきたからといって、そこから期待されるような能力がただちに導かれるというものではなかろう。
少なからず存在する環境の影響はどうか。それも本書で触れられているが、やはりそのような遺伝子を欲しがる女性は教育に熱心だろう。であるからには、環境の点では平均的な家庭よりも高い教育を受ける土壌は整っていると想定されるので、この精子バンク経由で遺伝子を引き継いだ子供は平均よりも能力が高いことが推測される。遺伝の影響を除くとしてもそう。
こういった点を総合的に考えれば、母親の期待は少なからずはかなえられるだろうが、それは遺伝子の影響ではないかもしれない、という面白い結論にたどり着く。願ったとおり、優秀な父親からの遺伝子の影響かもしれないが。
優秀な人々を集めた精子バンクから生まれた子供の実際の姿は、本書に余すところなく書かれている。そして、どのような人々が、どのような動機で精子バンクに参加したのかも。
だが、私の心に残ったのは、“優秀な遺伝子”をもらった家庭が辿った道のりである。夫婦の間も、親子の間も、普通の家庭よりも緊張が強いようだ。片親だけの場合にはそれほどでもないかもしれないが、それでもやはり精子バンクを考える際にはこれが無視し得ないこととなる、ということを、私は本書を読むまで思いもかけなかった。子供ができない夫婦にとっては合理的な選択肢ではないか、としか考えていなかった自分の考えの浅薄さが身にしみる。
天才を増やしたい、それが急務だと考えた創設者の意志は現実の人間の持つ複雑さの前にむなしく敗れ去った、というべきか。精子バンクに関与した人々の姿は面白くもあり、哀しくもあり、頼もしくもある。世の中が複雑であるのと同じように、この世界も複雑なのだ。
ただ、著者が(アメリカ人らしいといえばアメリカ人らしいのだが)能力や性格の遺伝性をあまり考慮しておらず、環境の影響を強く見積もっているように思えるのは残念。アメリカこそ養子が多いことから双子の性格調査などが多いので、考慮に入れて欲しかった。政治性が絡んでくるのは避けられないのが残念な話題なのではあるが。
ノンフィクション的な手法で次々と明かされる精子バンクの実情はなかなかに興味深く、面白い。想像よりもずっと複雑な姿に、生殖という分野はどうしても合理的判断だけではやっていけないものだと感じさせられた。性格の遺伝性などに興味を持つ方も楽しんで読めると思う。そして、生殖産業について冷静に考えるには、日本よりもはるか先を行くアメリカの現状を知っておくのに損はないだろう。
投稿元:
レビューを見る
テーマ自体はかなり興味があったのに、思ったより深堀がされていなかったのは残念。
でも精子バンクの実体験レビューはなかなか。
投稿元:
レビューを見る
レビューにあるように訳が素晴らしい。 (語彙力というのは大きな表現力になるのだと思わされた)
父性とは、家族とは何なのか?お互いを大事に思い合える人々と、人生の時間を伴にする大切さを思わずにはいられない。僕の父はどんな人だったのだろうか。僕の心に残っている父と人生を伴にした時間はどんな意味をもっているのだろう。読みながらそんな父への思いが込み上げてきた。
投稿元:
レビューを見る
天才の子供は天才なのか?
頭のよしあしに遺伝は大きなウェイトを占めるのか?
ノーベル賞受賞者の精子で生まれた子供のその後を追いかけるノンフィクション
誰もが考えることではありますが
トビがタカということもありますしね
投稿元:
レビューを見る
ノーベル賞受賞者の精子バンクにまつわるノンフィクション。遺伝子神話にとりつかれる人たちと、精子バンクベイビー&家族&ドナーたちの「その後」の話。この本は思いがけず人生を考えるよ。
投稿元:
レビューを見る
ノーベル賞受賞者の精子バンク
本当に奇妙な物語だった。
そして、物語としても面白かったけど、これが実話なのだということが 悲しいやら、嬉しいやら・・・。
男は種をまく性とはいえ、従来の方法ではなかなか100人の子供をもつことは難しいだろうが、
人工授精という方法を使えば 不可能ではないのが
恐ろしい。
出生の秘密を知りたいという 子供の願いが切なかった。
投稿元:
レビューを見る
SF小説やマンガをよんでいる感覚をおぼえる。
ノーベル賞受賞者の精子バンクの話。
実際に著者がその精子バンクで生まれた子どもたちと話した内容が書かれている。
すごく、恐るべきことであるし、ホントの話なのかということに疑問を感じるくらいだ。
読んでいて、ふと、僕の大好きな作品、ガタカを思い出した。
投稿元:
レビューを見る
ロバート・グラハム(このことで第一回イグ・ノーベル生物学賞を受賞している)という富豪が1980年に設立したノーベル賞受賞者精子バンクを描いたもの。事実は小説よりも、という印象。スタート時にはショックリーやソークなどの精子が使われたらしいが、なにぶん高齢で「収穫」があまりできなかったこともあり、すぐにノーベル賞受賞者は諦めて知的に高い男性という条件に下げたものの、19年で200人ほどの子供を生んだ後、閉鎖になっている。そもそもはグラハムの優生学的な思想によって始まったプロジェクトだが、消極的な優生学が断種などによって「劣った」人々を絶とうとするのに対し、この積極的な優生学では「優れた」人々の子孫を増やそうとすることが主眼であったという。著者はプロジェクトの歴史、ドナーと子供の面会のセッティングなどを通じ、子供たちのその後を調査してゆく。中にはドロン・ブレイクのように高IQで有名な子供も出たが、総じて中の上程度だという。母親たちは「育ちより氏」と期待をかけているが、教育熱心な環境を考慮にいれると結局は平均的な結果なのだしやはり「氏より育ち」ということのようだ。家族の絆という点でもドナーの父親よりは一緒に育った育ての父に対して愛着を感じているケースが多い。
投稿元:
レビューを見る
あらゆる意味で中途半端。天才についての一応の定義もないままにタブロイド紙レベルの批判をしているだけ。薄っぺらい
投稿元:
レビューを見る
ノーベル賞受賞者精子バンクを構想したのはロバート・グラハム。眼鏡のプラスチックレンズ(CR−39!)を実用化した人物でもある。1980年のこの構想は華々しく取り上げられた。しかし、結論から言うとノーベル賞学者の精子を使った子供は生まれなかったのだ。
精子を提供したノーベル賞学者は3人、その内の一人がウィリアム・ショックリー。トランジスタを発明してノーベル物理学賞をとった学者で有りシリコンバレーに最初の半導体メーカーを興した。ショックリーが採用した中にはインテル創始者のロバート・ノイスやムーアの法則のゴードン・ムーアなどもいた。しかし、ショックリーは経営者としては破滅的で一つの製品も生み出すことも無くここから飛び出した「八人の裏切り者」は後にインテルを作り、またここから生まれたベンチャー・キャピタルはその後サン・マイクロシステムズ、コンパック、アマゾンそしてグーグルの生みの親になった。
グラハムは優生学的なアイデアに取り憑かれ優秀な遺伝子を持った人々を増やすべきだと考えた。ナチスのホロコーストとは裏表の関係にある。ショックリーもまたアメリカ人の遺伝子が劣化していると信じ、特に黒人を劣った人種と断定した。当時はすでに公民権運動が盛んになっておりショックリーは当然のように差別主義者としてのレッテルを貼られ、グラハムの精子バンクの評判もちに落ちることになった。しかし、マスコミがいかに騒ごうとグラハムの顧客(不妊症に悩む女性たち)はひるまず、顧客はひっきりなしだったためグラハムはノーベル賞学者と言う方針を撤回し、新たなドナーを捜した。セールスマンとして優秀だったグラハムは顧客の女性が求めているのはノーベル賞学者の子供などではなく、若く、背が高く、ハンサムでスポーツ万能な遺伝子だと気づいた。
実はこの話も破綻している。ドナーには善意の者もいれば、金のためにやっているもの、そして自分の遺伝子を持つ子供を親としての責任なしに増やすことだけを目的にしたものもおり、優秀かどうかは検査もされていない。しかし、優秀な子供を求める母親は教育熱心で子供に情熱を注いでおり、遺伝子の優秀さに関係なく多くの子供が成績優秀に育ったと言うのも皮肉なものだ。
それでは精子バンクから生まれた子供は幸せに育ったのか?ジーニアスファクトリーから生まれた217人のうち著者に接触して来たのは30人ほどでその多くは母子家庭になっていた。離婚がきっかけで子供に対して遺伝子上の父親の話をしやすくなったのだろう。
育ての父親とそりの合わないトムは父親が天才だったと夢見ていたが、遺伝子上の父親ジェレミーは口がうまく魅力的では有るが一介の医学生にすぎなかった。ドナーとしてだけでなく多くの子を作ったが子供を育てる意志はなくジェレミーと会ったトムはジェレミーとの関係は築けずまた、母親との関係も悪くなる一方で、うまく自分に折り合いを付けたらしく育ての父親との絆を深めていった。
50過ぎにドナーになったロジャーは20人の子供を持つことになり会うことはなくとも子供たちのことを気にかけていた。一時期は事務局が規則を曲げて正体を現さないことを前提に���との接触を許してくれていたのだ。著者のレポートがきっかけでロジャーは娘のジョイと会うことになる。ジョイの母親は再婚したため育ての父親、継父がいるのだがロジャーの話を聞いたジョイの第一声は、「会ってみたい!」であり他に兄弟がいることを聞いて「わあっ、私だけじゃないのね」だった。訪問の日ジョイはロジャーを見るやいなや抱きついた。ロジャーはジョイに首ったけだがジョイがロジャーのことを同じように大事に思っているわけではないことは理解している。ロジャーは新しい娘を得た。そしてジョイは愛する人(おじいちゃんのようなものか)をもう一人得た。
優秀な遺伝子というのは幻想の様に思えるが、不妊症治療で精子バンクに頼るとすると、全く情報のないものより例えば青い目だったり、背が高いだったり個人の好みを繁栄させてしまうことは理解できる。それこそ遺伝上の疾患があり得るとすれば避けるのもわかる。倫理上の問題は絶対の正解など無いだろうから個人の判断だろう。アメリカには既に100万人のドナー・ベイビーがいるらしい。彼らに幸有らんことを、ハッピーエンドも有るのだから。
2003年の父の日にジョイがロジャーに送った刺繍細工には詩が縫い込まれている。
「太陽は許しの口づけをし 鳥たちは浮かれて歌う
せかいのどこよりも 人は庭で神の御心に近づく」
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
知られざる「ノーベル賞受賞者精子バンク」の興亡を、創設者である大富豪、それに加担した大物科学者、利用者たちの生涯と重ねて紹介。
取材のためには自分で精子バンク・ドナーを体験することも辞さない著者が、バンクで人生が変わった人々の生活に踏み込み、共感豊かに現代社会の家族像を考察するノンフィクション。
[ 目次 ]
2001年2月
ロバート・グラハムの遺伝子への情熱
天才づくり
精子探偵
ドナー・コーラル
ドナー・ホワイト
ノーベル賞受賞者精子バンク有名人の誕生
のら犬一家
ドナー・ホワイトの秘密
やってみた精子ドナー
ドナー・コーラルの正体
喜びを見出したドナー・ホワイト
それでもやっぱり父は父
天才精子バンクの最期
2004年9月
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
投稿元:
レビューを見る
母として、天才を作るにはどうしたらよいのか?という軽い興味を持って読み始めたものの、読み取れるテーマが幅広くおもしろかった。
・優れた人間=優れた人種の種を残そうとするアメリカ人の価値観
・遺伝に関して、知性は父親(精子)よりも母親(卵子)から引き継ぐ、という説
・精子しか提供していない「子」に対する、「父親」の態度のいろいろ(愛情を感じる人もいれば、何ら感じない人もいる)
・家族とは何か?(時間、人生を分かち合う人々)
投稿元:
レビューを見る
成毛眞氏の『面白い本』で紹介されていた本。
ノーベル賞受賞者の精子を集めた精子バンクとその周辺を追ったノンフィクションで、確かに本当に面白い本だった。
ゴシップ的な話かと思い読み進めていくうちに、もっと深い問題、親子とは何か、子どもを育むのは遺伝子か環境か、というテーマに辿り着く。
救いはないようにも思えたが、「人間の強さ」が救いになった。
[more]
(目次)
2001年2月
ロバート・グラハムの遺伝子への情熱
天才づくり
精子探偵
ドナー・コーラル
ドナー・ホワイト
ノーベル賞受賞者精子バンク有名人の誕生
のら犬一家
ドナー・ホワイトの秘密
やってみた精子ドナー
ドナー・コーラルの正体
喜びを見出したドナー・ホワイト
それでもやっぱり父は父
天才精子バンクの最期
2004年9月
投稿元:
レビューを見る
☆信州大学医学部図書館の所蔵はこちらです☆http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA73116542
投稿元:
レビューを見る
精子バンクにかかわる人々のドキュメンタリー
その成果については、定量的な記載は無い。(データは無い)
→それほど成功してはいない。そもそも、精子の質も結局悪かった。イデオロギーとしての興味(優生学)に焦点がある?
とりあえず、筆者は否定的なもよう。