紙の本
私たちは、生に敬意を払っているだろうか。
2005/07/06 21:25
19人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Y.T.Niigata - この投稿者のレビュー一覧を見る
「君は、このクラスの全員を、同じ傘の中に入れようとしている」
中学1年のとき、学級委員をつとめる私に担任は言った。13歳で出合ったこのひと言は、30年を経た今、私の座右の銘となっている。傘に入ろうとする人もいれば、そうでない人もいる。この世には、誰も同じ(気持ちを持つ)人はいない。国語を教えるこの担任には、授業中にこうも言われた。「Tは今、ドイツ文学に夢中になっているそうだ。しかし10年後、本を読まない者との違いが必ず出てくる」。本を読めとは強要せず、人生の豊かさが違ってくると説いた恩師。彼の言葉で、私はドイツ文学を専攻した。
私たちは、恩師の言葉や生き様を、どれだけ思い出し、実人生に生かしているだろうか。そして、自ら夢を持ちながら、「生きること」の豊かさを説く教師が、今どれだけいるのだろうか。
『甲子園への遺言』。伝説の打撃コーチであり、高校教師でもあった高畠導宏氏の生涯。この本の全編を通して感じたのは、まず「私たちは、生に敬意を払っているだろうか」だった。好きな仕事が見つからないニート、夢を忘れた(振りをしている)中高年、年間3万人を超え続けている自殺者、他人に、自分自身に、そして「生きること」に敬意を払っていない、すべての者に対する檄、あるいは導きの書。300ページを超えるこの大作は、日本の「善」へのオマージュとも言えるのではないか。
文章の一行一行、いや行間を含めた全編に、筆者の、主人公・高畠導宏氏への敬意が汲み取られ、随所にちりばめられた高畠氏の名言とともに、心にしみわたってくる。またプロ野球選手、同窓生、生徒たちなどとのほほえましいエピソードに、高畠導宏氏の人となりが偲ばれ、鬼のようにこわく、厳しく、仏陀のように温かく、優しかった高畠氏の、命がけの人間との交流の様がありありと浮かんでくる。
政治家、教育者、ジャーナリスト、小説家、芸術家……、誰もが気づいている「このままでいいのか、日本」。この本の使命は、今失われつつある「正義」や「善」、「徳」「仁」「孝」「忠」など、古き日本の根底にあった儒教的(?)な良きものへのオマージュを、主人公・高畠導宏氏の生き様を借りて、問い質したところにある。「おい、もっとしっかり生きようよ」、筆者の声がすぐ耳許で聞こえてくるような気がする。筆者は言う。「野球を目指す人も、あるいは野球とはまったく関係がなくても、あと少しで夢を実現しようとしている人、暗中模索の人、もっと物事に立ち向かう勇気がほしい人、人生そのものに疑問を抱き、真っ正面から世の中を対峙できない人」に読んでほしい、と。日本は今、そんな輩だらけではないだろうか?
「もし、私が一人の心を傷心から救ってやることができるなら、私の生きることは無駄ではないだろう」から始まる一編のエミリー・ディッキンスンの詩がこの本の核を示唆している。
この本が、希薄な日本を変える一翼を担うことを念じてやまない。
紙の本
真のコーチの生涯
2006/06/18 20:45
14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:六等星 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自らはプロ選手として華やかな実績は残していないにもかかわらず、プロ野球7球団で30年間に渡って、イチローなど多くの選手を育ててきた、伝説の打撃コーチ・高畠導宏の生涯を描いた感動作。プロ野球の打撃コーチといっても、1年契約の専門職だ。チームの勝敗の全責任をとる監督と主役である選手の間に置かれ、バッティングという一部門をあずかる中間管理職ともいえる。そんな仕事を30年間続け、人を育てることに文字通り、命を懸けた職人の一生には、どんな理論よりも説得力がある。
前半はプレーヤー高畠の話が多いので、野球に疎い人には少し読み進めにくいかもしれないが、そこを過ぎれば、後半はコーチ高畠、そして高校教師・高畠のエピソードが満載だ。とくに第11章からが良い。あれこれ欠点を直そうとせず、「1試合に4打席つまり12球あるストライクの、たった1球を確実に打てる技術を磨けばいい」と言って選手をスランプから脱出させる指導力。さらに甲子園をめざして高校教師に転じ、最期のときまで生徒に慕われた人間性。
真に人を育てられるコーチングができるリーダーになるためには、本書から多くを学び取るべきなのである。
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活躍する選手には、必ず縁の下の力持ちは必ず存在するのだなと実感しました。愛情たっぷり頭脳派コーチの生涯を描いた本です。とにかく研究熱心!すごい!!
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人としての“生き方”、“生きること”を精一杯実行することを教えてくれる内容です。
野球界の裏方に住み一般人にはほぼ知られることの無い方だと思います。しかし、全ての人に通じる何かを感じさせてくれる方の話です。
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NHK放映のドラマ見た後に購入
ものすごい打撃コーチ
すんなり読めた
ドラマのイメージを期待して買うとちょっとがっかりするかも
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k_15)NHKのドラマ「フルスイング」のモデルとなった高畠さんの生涯。昨日が最終回でしたが、毎回、涙せずにはいられませんでした。
ドラマは高畠さんを元にしたフィクションなので内容はかなり違いますが、根底にある高畠さんの生き方や考え方、選手や生徒達への係わり方は同じ。とても素敵な生き方をされていると思う。素晴らしい方です。著書では高畠さんを軸にいろんな野球選手の話も多く語られているので、高畠さんにしか興味のない私には途中ちょっと読むのが辛かったりしましたが、野球好きの方にはお奨めの一冊。
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テレビを見てから読みましたが、テレビにまとめきれなかった高畠氏の生き様が書かれており、良かったです。野球好きでなくても抵抗なく読み切ってしまいました。
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こんな凄い人がいたなんて全然知らなかった。
たらればの話しになっちゃうけど
高校球児を指導していたら
今年の夏は甲子園にでていたかな
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『甲子園への遺言』は、平成16年7月1日、多くの野球人、生徒たちに惜しまれつつ世を去った、不世出の打撃コーチ・高畠導宏氏の生涯を描いたノンフィクション作品です。
高畠氏は古くは南海の藤原、ロッテの落合、高沢、西村、そして最近ではイチローや田口、小久保など、数多くの名選手を育てたプロ野球界伝説の打撃コーチです。多くのプロ野球選手たちが彼に教えを乞い、30年にわたって第一線の選手たちの技術面と精神面の支えになりつづけました。
ところが、その高畠氏は五十代半ばにして一念発起をします。通信教育で教職の勉強をはじめ、プロ野球球団のあまたの誘いを蹴って高校教師の道を選んだのです。そして、平成15年春、福岡県の私立筑紫台高校に新人教師として着任します。社会科教諭として教鞭をふるう一方、野球部を甲子園に連れて行きたいと考えたのでした。諦めや疲労感に支配される五十代に、なかなかできることではありません。ところが、長年の無理がたたったのでしょう。高畠氏の体はそのとき重大な病気に冒されはじめて……。
こんなに凄い高校教師がいた!──高畠氏はなぜ転身を決意し、そして、そうまでして高校生たちに何を伝えようとしたのでしょうか。
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伸びる人の共通点1素直であること2好奇心旺盛であること3忍耐力があり、あきらめないこと4準備をおこたならにこと5几帳面であること6気配りができること7夢をもち、目標を高く設定することができること 覚悟に勝る決断無し 平凡の繰り返しが非凡になる
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ソフトバンクの小久保やメジャーリーガー田口を育てたバッティングコーチ、
高畠導宏(たかばたけみちひろ)さんの生涯を描いたノンフィクション。
プロで天才バッティングコーチとして活躍しながら
通信制で勉強し教員免許を取得。
まだ、プロチームからコーチの要請があるにもかかわらず、
58歳で福岡・筑紫台高校の教師になり、
高校野球の監督になることを目指す。
プロで活躍したため2年の”待ち”期間があるのだけど、
あと半年というところで、膵臓ガンで死んでしまう。
それが4年前のこと。
少し前に、NHKが彼の半生を『フルスイング』というタイトルでドラマ化し、高視聴率だったらしい。
私が高畠さんの存在を知り興味を持ったのは、フジテレビの甲子園を盛り上げる番組だった。
駆け足で紹介されたので、あまりにも短かったけど、
生前、教壇に立つ高畠さんの写真を見ただけで、
嘘のない、熱い人だというのがすぐわかった。
野球人としても教育者としても、すばらしい人だと思った。
「どういう人だったか」と聞かれた奥さんが
「大好きでした。今でも大好きです」と答えていた。
質問に答えてないように思えるけれど、
その言葉が、高畠さんがどういう人だったかを一番表わしていた。
とても努力家で、バッターとしても才能があったのに、
けがで選手生命が短命に終わった。
その無念が、コーチとして「選手のことを考えて接する」という
彼のポリシーに繋がっている。
本書では、プロ野球の壮絶な諜報戦の時代のこと、
プロで生き残る厳しさなど一般にはわからない裏側や
詳しい指導方法まで描かれていて、それはそれで興味深いけれど、
そこがちょっと長過ぎてぐったりしてしまった。
描写が優れているわけではないので読むのに疲れたところもあったけど、
ただただ、高畠さんの生き方を知りたくて先を急いで読んだ。
彼の熱くて、温かい人柄に引きつけられたから。
「気力」の大切さ。
そして、「才能とは、最後まであきらめないこと」。
プロスポーツでも人生でも素直さが必要だと、高畠さんは話している。
○筑紫台高校に貼られていた言葉
1.素直である
2.好奇心旺盛である
3.忍耐力があり、あきらめない
4.準備を怠らない
5.几帳面である
6.気配りができる
7.夢を持ち、目標を高く持つことができる
これらが一流の選手に通じることだそう。
彼が色紙に好んで書いた言葉
「覚悟に勝る決断なし」
耳が痛い言葉です。
小久保選手が寄稿した最後の解説。
「私も遠い将来、高校野球の監督になりたい。」
その一文に涙がこぼれた。
生き方に、有名と無名の差はないだろう。
(読みづらさのため、★を減らしています。)
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NHKドラマ「フルスイング」の原作を読んでみる。小説ではないノンフィクションにここまでひきこまれるとは思わなかった。華やかな面ばかりに目がいってしまう世界で、こんなすごい人がいたとは・・・感動した。「氣力」
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本書は、岡山出身の野球選手であり、数々の打者を育て、タイトルホルダーも何人も育成した伝説のバッティングコーチである、高畠導宏氏の物語です。本年度の野球の話題の一つに、野村監督率いる楽天イーグルスの躍進がありました。南海、ヤクルトなどで采配を振るい、ID野球を築き上げた野村監督ですが、野村監督が南海でプレイングマネージャー(監督兼選手)をしていたときに、野村監督からコーチとしての素質を見出され、南海の若き打撃のブレインとして野村監督の片腕となった高畠氏。その後ロッテに移籍し、高沢、西村という通好みのバッターを育て、落合にも打撃のアドバイスをしたりと、高畠氏の理論と実践は着実に成果を上げていました。
そんな高畠氏が最後に選んだのがなんと高校教師。そして高校野球の監督になり、選手を育て、目指すは甲子園。遠征が多く、体力を使う打撃コーチという職に在りながら、合間合間に通信講座で高校教師の免許を取得。そしてはれて高校教師になり、九州の高校へ赴任し、いよいよ高畠氏の次なる夢が始まります。しかしその夢は、高校給仕を指導する直前に、癌という病気によって絶たれてしまい、その後急速に進行する癌によって、わずか60歳という若さで亡くなってしまいます。
私は野球の理論や技術について全くの素人です。しかし、野球というドラマを通して智慧や勇気、感動を得てきました。プロ野球といいますと、松井やイチロー、昔で言えば王・長島というスタープレイヤーがすぐに思い浮かびます。そういった一部のスタープレイヤーだけが目に入りますが、実際には多くの人が野球を支え、スタープレイヤーを支えています。他のナインだけではなく、球場スタッフ、球団関係者などその裾野の広さを考えますと、野球というスポーツは、日本においてはとても大きな産業であり、そこには多くのドラマが存在する要素が一杯あります。
高畠氏は、将来を託された有望な野球選手として南海ホークスに入団します。しかし練習中の怪我によって思うように結果を出すことができなくなります。高畠氏本人も講演の中で自ら言っていたようですが、怪我によってなかなか芽が出ないところを、野村監督に代打専門要員として使ってもらえるようになり、“野村再生工場の一号選手”としてしばらく活躍したそうです。しかし怪我の調子がいよいよ悪化して引退。そしてすぐに野村南海の打撃コーチへ就任。
高畠氏は、高校野球のとき、大学野球のとき、そしてその先の社会人野球、プロ野球といった世界においても、自分では抵抗できない何か大きな人生の力によって紆余曲折をよぎなくされてきたように思います。しかし、どんなときでも自分の人生を切り拓いていくという気力は誰よりも負けなかったようです。この気力のたくましさが、読むものに勇気を与えてくれます。
最終的に、高畠氏が選んだ道が、甲子園への夢。多くの名選手を育てた伝説のバッティングコーチが、最後に自分の生きがいとして見出したのが高校生への教育。最も多感で、自分の夢を抱く高校生に対して、本当に大切なものを教えたいという熱意と、そして甲子園という最高の舞台を目指すことで見えてくる大きな気力の育成。
生きるということ、道を歩くということ。最終的には自分の心にある気力をどれだけ強く持てたかが、人生の充実度につながると、高畠氏は教えてくれたのかなと思います。
高畠氏が長年のバッティングコーチの中で気づいた伸びる選手の共通項は以下の七項目だそうです。
(1) 素直であること。
(2) 好奇心旺盛であること。
(3) 忍耐力があり、あきらめないこと。
(4) 準備を怠らないこと。
(5) 几帳面であること。
(6) 気配りができること。
(7) 夢を持ち、目標を高く設定することができること。
世間の尺度で言う成功するという意味ではなく、自分の中での“豊かな人生”という意味で、この7つの項目は、どれも大切なものになると思います。私自身、治療者として一段一段さらに技術を増していかなくてはいけませんし、治療院の経営という面では、患者様に愛される空間作りに努めていかないといけません。そのときの尺度として、今の自分がどこまでやれているのか?ということを振り返るためにも、この7つは肝に銘じておこうと思います。
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トップクラスの選手としてプロ野球界にデビューしながらも、怪我で短い選手生活を終え、その後約30年に渡ってプロ野球の打撃コーチに。打撃コーチとして類稀なる実績と信頼を得て文字通り野球を極めた男が50代半ばを迎えて高校教師に。高校教師として夢見た高校野球部の指導を実現することなく病に倒れた男・高畠導宏氏の生涯を描いたノンフィクション。「自分を誇らず、選手の陰に控え、そして自分の打撃理論をけっして選手たちに押しつけることがない」にも関わらず、30人以上のタイトルホルダーを育てあげ、何よりも選手から絶大な信頼を得た伝説のコーチ。わずか2年の教師生活で生徒の心に深く入り、生徒にかけがえのない財産を残した新米教師。いずれも人の心をつかみ信頼を築くことが重要であること、コーチング技術が問われることでは共通している。では、その真髄とは・本質とはなんなのか?本書ではその答えを高畠氏の人生を追うことで明らかにしています。それにしても・・・高畠導宏氏・・・凄い人です。通勤途中の電車の中で読みながらその偉大さに涙が止まりませんでした。やはり何事も道を究めると、最後はそれを次世代につなげたい、そう思うものなのですね。
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野村監督がヤクルト就任時に入閣させた高畠導宏さんのノンフィクション。「覚悟に勝る決断なし」「才能とは逃げ出さない事だ」肝に銘じたいです。今年の日本シリーズは西村監督と落合監督という高畠さんの教え子対決ということで楽しみです。