紙の本
低線量被爆の影響について、理解を深めるのによい本
2012/04/26 20:14
10人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
内部被曝、外部被曝、すっかりなじみのある言葉になってしまった。本書は、内部被曝の恐ろしさを、被爆者の治療にあたったひとりの医師として記している。出版されたのは2005年6月のことだ。読み終えて、放射線に対する不明を恥じた。日本は唯一の被爆国なのに、きちんとした放射線に対する知識を持たないままにきてしまったのだ。
それは、本書によれば、放射線の影響は軍事機密であり、核弾頭を大量に保有し、かつ原発を100基以上もつ米国の圧力のもと、公にされてこなかったからということである。
広島への原爆の投下後、1週間もたってから爆心地にはいった人が原爆症と思われる「ぶらぶら病」(倦怠感、疲労感のために日常生活にも困る症状)に苦しむ例を著者は医師としてみてきた。
広島には戦後すぐにABCCという研究機関 がつくられて、被爆者の健康調査が実施された。これは、のちに放射線影響研究所となるが、日米共管である。ABCCにあつまったデータは米国に送られ、日本人にはあきらかにされなかった。原爆の影響は、被曝によって直接的に強い放射線、熱線、爆風を受けて多くの方が亡くなった、それがすべてとされてしまったのだ。その後に続く低線量被曝の影響は隠し通された。
この体質は、原子力の権威であるIAEAや、健康に関わる権威であるWHOもひきついでおり、「科学的には不明」とされている。
これは広島にかぎらず、チェルノブイリ原発事故の影響、アメリカの核実験場周辺住民への影響、全米各地の原発周辺の住民への影響に関しても、あてはまる。つまり、こうしたことはほとんどタブーとなっていて、なかなか陽の目をみないのだ。一部の研究者や医師が告発を続けており、著者はそのひとりとなる。
おどろいたのはイラクやコソボ紛争で使用された劣化ウラン弾についても、放射線によるとみられるガンや白血病、免疫の低下などが起きていることだ。著者は現地に足を運んで確かめている。
低線量被曝の影響は、高線量被爆よりも少ないとみられがちだが、カナダ原子力委員会のアブラム・ペトカウは「長時間、低線量放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間照射するよりたやすく細胞膜を破壊する」(p.91)ことを実験によって確かめている。
海外でもヨーロッパのECRRは低線量内部被曝の有害説に立っている。しかし、総じて、低線量内部被曝の影響に関する知見は大きな圧力がかかったり、反論にあったりして主流になりえていない。
米国の原子力施設(原発、核兵器工場、核廃棄物施設)周辺の乳ガン患者は、それ以外の地域よりも高いとするJ・M・グールドの調査結果(p.141)は日本も検討した方がいいのではないだろうか。
著者自身が広島で被曝した経験をもとに、高齢になっても、こうした著書で危険性を指摘し続ける。ただ、本書はデータや統計資料が少なく、もっと科学的な装いをこらしてもよかったのではないだろうか。新書にそれを求めるのは無理なのかもしれないが、もう少し学術的な書物の方が好ましい。著者の警鐘が世の中に響き渡るためにはそれが重要となるだろう。本書の価値はゆるがないだろうが、体験的に語るだけではなく「医学の水準」で論じてほしい。
定説はないとか、科学的に証明されていないと言い続けるのではなく、できる健康調査は国内外を問わずにしっかりやって、結果を世界中に広く開示してほしいと思った。それ以外に、低線量被爆の影響を明らかにする道はないのだから。
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被ばくとは、一体どういう事なのかが分かり易く書かれています。
62年前の原爆投下とイラク戦争での劣化ウラン弾の使用。その2つを繋ぐ放射線の脅威がどのようなものなのかが分かります。
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[ 内容 ]
内部被曝とは、放射性物質を体内にとりこみ、長時間にわたって身体の内側から放射線を浴びることである。
恒常的に被ばくすることで遺伝子が傷つけられ、癌などを誘発するといわれている。
だが、このリスクを見極める研究は少なく、人体への影響をめぐっては議論百出だ。
本書では、ヒロシマでの被ばく後、六十年にわたり内部被曝の研究を続けてきた医師・肥田舜太郎と、気鋭の社会派ジャーナリスト・鎌仲ひとみが、内部被曝のメカニズムを解き明かし、その脅威の実相に迫る。
「劣化ウラン弾」などの大量使用により新たな様相を帯びる「核の脅威」に斬り込んだ、警世の書。
[ 目次 ]
第1章 世界に拡がる被ばくの脅威(被ばくの論点;イラクの被ばく者たち)
第2章 爆心地からもういちど考える(爆心地の風景;内部被曝で死んでゆく人々;被ばく者特有の症状とは何か)
第3章 内部被曝のメカニズム(放射線の基礎知識;内部被曝の危険について;内部被爆の症状)
第4章 被ばくは私たちに何をもたらすか(アメリカの被ばく者たち;劣化ウラン弾は何をもたらすか)
第5章 被ばく体験を受け継ぐ
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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是非、多くの人に読んで頂きたい本。今こそ、全国民が読むべき。
原発うんぬんの話ではなくて、イランで使われた大量の劣化ウラン弾を初めとした、核兵器による放射線、放射性物質のお話。
元をたどれば劣化ウラン弾はプルトニウムを再生する過程で生まれる原子力発電のゴミなので、まぁ同じことですけどね。
福島原発の事故以来、チェルノブイリとスリーマイル島、この二つの原発の名前は嫌というほど聞いた。
でもハンフォードという、シアトルから約350キロに位置する地名は一度も聞いたことが無かった。
ハンフォードでは冷戦時代、九つの原子炉から大量のプルトニウムを核兵器のために生産していた。そしてその過程で生まれる劣化ウランから、後に劣化ウラン弾が作られることになる。
驚くことに、ハンフォードの原子炉から放出された放射性物質はスリーマイル島の原発事故で放出された量の約一万倍。
何故こんな大事故が話題にならないのか、それはやはり原発という商業施設で起こったことではなく、軍事利用を目的とした国家事業であったからだと思う。
そう考えると、軍事利用を目的とした原子力は原発の何倍もタチが悪い。
人類が放射能により滅亡させられてしまう前に、原子力の兵器としての利用を根絶させなければならない。
ちなみに、ハンフォード地区で行っていた、核兵器のためのプルトニウム抽出と全く同じことが行われようとしているのが青森県六ヶ所村の再処理工場。
福島原発とは桁違いの放射性物質が放出されようとしています。
何億ベクレルなんて話じゃない。兆も超えて、“京”という単位が使われるほどの、天文学的な数字の放射性物質が一年間に放出される工場です。
今はまだ試運転中だけれど、本格的に運転に入れば、原発の一年分の放射能が一日で出るという計算もあります。
確かに放射線は見えないけれど、確実に人類の身体を蝕んでいます。
正当な統計で、原発から半径百マイルに住む女性の乳がん発生率がその他の場所と比べて十倍以上だとか、チェルノブイリの事故後、白血病患者が百倍以上増えたとか、データはあります。
でも、今の医療技術では、放射線がどのようにして身体を蝕むのか、そのプロセスが明らかになっていないので、放射性物質と健康被害との関連が立証されていないだけです。
何故かは分からない、でも放射性物質による内部被曝は存在します。
これ以上原子力による被害を拡大させないためにも、少しでも出来ることからやっていきましょう。
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内部被曝の恐ろしさがよくわかった。
内部被曝は「ない」のではなく、意図的になかったことにされているのだ、というのがよくわかる。
多くの人に読んで、考えてほしい本。
鎌仲さんの映画「ヒバクシャ」も観なくては!
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福島第一原発事故発生から一か月。
レベル7という最悪の事故評価と、驚異的な放射線放出量が発表された今になっても、政府からも東電からもいっこうに「放射性物質による内部被曝」の具体的な説明は出てきません。
「ただちに健康に影響はない」なら、付近住民はなぜあわてて避難しなくてはならなかったのか。なぜ荷物を取りに一時帰宅することさえできないのか。なぜ諸外国は汚染水の放出に非難ごうごうなのか。
六年近く前に刊行された本書は、原発や劣化ウラン弾から放出される放射性物質が、風にのり、水に混じって体内に取り込まれ、それと気付かないまま静かに進行する内部被曝のメカニズムを解説し、被曝が人体に及ぼす影響、さらに、それが引き起こす健康被害の「可能性」について、警鐘を鳴らしたものです。
素人にもわかるよう、用語や単位など、丁寧な説明がありますので、昨今のニュースの手引きとしても役立ちます。
肥田医師による医療面からみた記述を中心に、主として海外の制作会社でTV向けドキュメンタリー番組や映画を手掛けてきた鎌仲氏が現地報告などによって補完、お二人の対談でしめくくるという構成。
同じコンビで、広島・長崎から湾岸戦争後のイラクにおける実態までを追ったドキュメンタリー映画「ヒバクシャ 世界の終わりに」(公式ホームページ:http://www.g-gendai.co.jp/hibakusha/)もあります。
本書によれば、軍事利用にせよ平和利用にせよ(実はその境界もはなはだあいまいなのですが)、核開発によって起きる内部被曝の問題は、きわめて政治的なものであるがゆえに、状況証拠が十分あるにもかかわらず、公式には「健康を損なう可能性がある」との見解にとどまり、また、研究結果や調査データの公表もなかなか進まない。
なるほど、だからこそ、政府・東電のあの煮え切らない会見や避難勧告となり、研究者も肝心な点については口をつぐむという状況が起こったのだと、とりあえず腑には落ちました。
ほんとうは(ほんとうに)怖い「プルト君」をはじめ、恐ろしいお話が満載です。
"明日には死なないが”(p.171)、十年後、十五年後に、果たして何が起きているのだろうか。
日本が先進国・自由主義国(一応)で初の、大規模かつ深甚な被曝の実証ケースとなるのかもしれません。
医療関係者・研究者の方は、せめてこの機会に詳細な調査記録をとり、世界に公表し、後世に役立ててくださることを切に願います。
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広島、長崎の原爆とイラクの劣化ウラン弾の被爆者の被害状況から、劣化ウラン弾反対の立場から著された本
「人は放射線になぜ弱いか」に対する反論も記載されていて、やはり放射線に閾値がないことを前提とする
劣化ウラン弾の話がメインで、内部被曝の問題も空気中の放射性物質を吸うことによる場合の記載が中心となっている。食物に付着した放射性物質を摂取した場合も同じと考えていいのか、チェルノブイリ原発事故に関してドイツなどでの影響も書いてはあるが、分からない
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内部被曝について、現在、危険であるとする「科学的根拠がない」、つまり危険であるという実証データがないから危険視する必要はないという論理がまかり通っているということに愕然とする。逆に安全であるという実証データもないのに、である。
原子力が安全か危険か、原発は善か悪か。その結論を自分の中で導くためにも、原子力の科学的、病理学的、生理学的知見を押さえておかなくては、ただただ現象だけで右往左往し、問題の本質を見失ってしまうだろうと、考えさせられる論考。
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今ならすんなり理解できる、放射能の本。
1カ月前までは「内部被曝」と「外部被曝」をここまで明確に区分けする必要性を理解していなかったし、「シーベルト」と「ベクレル」っていう単語も耳に馴染みがなかったわけで。
わかりやすく書かれているせいもあって……結果的にかなり読みやすかったです。読みやすくなんてなりたくなかったけどっ(泣
ずっと、漠然と抱いていた疑問が、この本ではっきり見えてきました。
どうして基準値は変わるのか。どうして放射線技師になると基準値が特別枠になるのか。「自然界から受けている放射能より低いから安全」という言葉にもやもやとした不安を感じるのはなぜか。ラドン温泉みたいな、放射能で健康になるっていうのは何なのか。
うん、結構色々なことに対して、答えと示唆をもらえたような気がします。そしてとっても……何というか、このままだとダメだけど、このダメさを抱えて私たちは滅んでいくしかないんだなぁと……思ったり……orz
本に書かれていることを鵜呑みにするつもりはないのですが、それでも十分説得力はありますし、私には無視できません。内部被曝怖い。一生の永久の被曝怖い。「低線量内部被曝」怖い。ちょっとの被曝の方が、おっきな被曝より、細胞壁を壊す力は強いのだそうです。
同時に、怖い怖いといっても、今すぐにどうにかなるものではないと知って、ちょっと安心もしました。20年後30年後にガンになるか、10年後20年後に疲れやすくやる気がなく毎日がきつくばかりになるか、多分私はその程度で済むだろうと。
でも、内部被曝と身体症状の相関関係を証明することは非常に難しい。さまざまな理由で、難しい。
閾値は存在しない、安全な基準なんてない、人工の放射性物質は1粒でも良くない、でも「1粒でもダメ」っていったら社会が回らないから「安全基準」と称するものをつける。「称するもの」だから、基準値の上げ下げもかなり任意にできる。
……そんな感想を持ちました。
ただ、ちょっとこれではミもフタもなさすぎるので、他の本も当たっていろいろ調べてみたいと思います。
本の中には、アメリカの原子力発電所の風下で生まれた兄弟の話がありました。
弟は自身の体調不良を原子力のせいとして国と対立し村から追放され、兄は「ここは安全」という国の宣言を信じてそこでジャガイモを育て、マクドナルドに出荷する。「安全基準を下回った」ジャガイモは、今日も誰かの口に入っているのでしょう。
将来の日本の姿に……なりませんように。本当に本当に、祈っています。
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取り急ぎ、レビュー・感想ではなく、本文から抜粋します。ごめんなさい。
国連放射線防護委員会(ICRP)は、放射線に関する世界的権威である。
ICRPは長い間、微量の放射性物質による内部被ばくを過小評価してきた。
この考え方の根本にあるのは「放射性防護の主たる目的は、
放射線被ばくを生じる有益な行為を不当に制限することなく、
人に対する適切な防護基準を作成することである」。
すべての被ばくは可能な限り低く保つべきであるという助言が
注目されてはいたが、意識的に適用されることがまれであった。
その後、全ての被ばくは“経済的、社会的要因を考慮に入れて合理的に
達成できる限り低く”保つという欲求がいっそう強く強調されるようになった。
このことの意味は「放射線は人体に危険を与える潜在的な可能性のあるものであるが、一方で
人類にとって必要不可欠な存在であるから社会が容認できるような被害にとどめるための
安全な基準を設定しよう」というものだ。
人や社会が容認できる「被ばく」の限度、すなわち「現在の知識に照らして身体的または
遺伝的障害の起こる確率が無視できる」線量を超えないような線量限度を勧告している。
日本では、ICRPの勧告を受けて、市民が1年間に浴びても問題ないとされる放射線の
被ばく量を、年間1ミリシーベルト(1000マイクロシーベルト、日本では5ミリシーベルトで
屋内退避が勧告される)と設定している。
(P10-P11)
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著者は広島原爆の被爆者で医師の肥田舜太郎氏と映像ジャーナリスト、映画監督の鎌仲ひとみ氏。
鎌仲氏が劣化ウラン弾の話、肥田氏がヒロシマでの体験、内部被曝のメカニズムを解説。最後は鎌仲氏が肥田氏にインタビューする、という構成。
内部被曝とは、放射性物質を体内にとりこみ、長時間にわたって身体の内側から放射線を浴びることで、内部被曝者は世界で1000万人にも及ぶとも言われる。
内部被曝者は放射線被害問題で常に蚊帳の外におかれてきた。
その理由は(1)医学的に不明な点が多いこと、(2)軍事秘密であったこと、(3)ICRP(国際放射線防護委員会)が「しきい値」以下の放射線の内部被曝は人体に無害と主張してきたこと、だった。
昨今、イラク戦争における「劣化ウラン弾」による健康被害が指摘され、内部被曝の恐ろしさが広く知られるようになった。
劣化ウラン弾は本来、放射性廃棄物であり、1950年代にミサイルとしての有用性が認められ、米軍ミサイルの20%に配備されている。3000-4000度の高熱を出し、分厚い鉄板を貫通する。
米国は、劣化ウラン弾による放射性物質は短期間で体外に排出されると否定しているが、アントワネット・M・ガッティ博士によれば、2.5ミクロン以下の粒子を吸い込むと、血液に循環する、と指摘している。
また、放射時間を延ばせば延ばすほど、低線量放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬時放射するよりも細胞膜は破壊されるという。(ペトカワ効果)
この内部被曝の危機は福島第一原発の事故により、より現実の問題になってきた。ある環境団体が六カ所村再処理工場の排水口に一万枚の葉書を投入したら、東京湾の入り口まで漂着したという。微量放射線は食物連鎖による生体濃縮され、数百倍にも高まる、という。
しかし、この生体濃縮についても、はっきりした裏付けはない。
肥田氏は指摘する。
”功利主義的な考え方に基づき、放射能汚染に目をつぶってきた。しかし、放射能の影響は誰も逃れられない。人間は科学的な裏付けがなされない限り、安全を信じたがる。特に権力はそういう考えに立つので、反対運動は自然と少数になる。医者でさえ、脅威を具体的には実感していない”
放射能問題を考える上で、大きなきっかけになる一冊。
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今、みんなに読んで欲しい。
無関心にならないで、絶対。
専門的な部分も多く、少し読みづらい本だったので、時間がかかってしまいました。
2005年に既にこの内容が提起されていて、今になっても全く変わっていない現状に嫌悪感。自分の無知に恐怖しました。知らないって本当に怖い。
震災が起きた今が意識を変えるチャンスだと思うんだ。絶対。
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とてもわかりやすい本だった。そして現実は怖い。
広島の原爆で被爆し、その後60年間内部被曝について研究を
続けてきた医師と、社会派ジャーナリストとの共著。
ひろしまのピカという絵本で小学生の頃原爆の怖さを知った。
原爆は怖い、戦争は怖いって印象が残った。でもそれは爆発で
けがをした人々の絵、外傷などの怖さ、残酷さだった。
内部被曝、その怖さ、原爆死ではなく原爆生の残酷さ
体内で放射性物質から放射線を浴び続けることの怖さが
よくわかった。今まで他人ごとととらえていたことが
福島原発の事故によって身近な出来事になってしまった。
知ることは怖いことだけれども、知っておくことは大切だ。
原爆が作られる過程でもプルトニウム製造のために作られた
ハンフォードエリアの原子炉で働き居住するたくさんの人々が
無自覚に被曝し、死んでしまっているということにも驚愕した。
そこに居住し、働く人々が戦後1980年代まで放射能は怖くないと
豪語し、ずさんな管理をしていることにも驚いた。
アメリカは被曝大国であるという事実も知らなかった。
本当に驚く事実ばかりが記載されていた。
天然ウランから濃縮ウランを作る過程で出てくる劣化ウラン
それを劣化ウラン弾という兵器として再利用しようという発想、
放射性物質に国境はないのに、どうしてそういうことが
出来るのだろう。局地的に落とした爆弾だとしても、放射性物質は
空気中に含まれ全世界的に汚染されつづけていくのだろう。
そして結局どこの地域でも一番被害にあうのが子供なのだ。
このまま人間が好き勝手していれば、必ず人類は
滅びてしまうと確信する。
色々な事実から焦燥感をあおられ、いてもたってもいられない
気持ちになってしまうが、原子力エネルギーや放射線物質などが
身近な問題になった今こそ、これからの地球を考えていくうえで
さまざまな行動をしていかなくてはならないと思う。
今回のことがなければ手にはとらなかった本だけれども、
読んでみて本当に良かったと思う。
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広島の原爆の被曝者で医師でもある肥田舜太郎氏と、気鋭の映画監督鎌仲ひとみ氏との共著。
第5章「被ばく体験を受け継ぐ」が両氏の対談となっていて、非常に強いメッセージ力を持っている。
肥田氏が外国人から教えられたことの一つが、人類が戦争で受けた被害のなかで最も人権を破壊したのがアウシュビッツと広島だという。
前者の被害は毒ガスであり餓死。この被害は目に見えて分かりやすい。
後者は原爆によって、一瞬にしてたくさんの人が犠牲なったという事実。こればかりが印象づけられている。実際は爆風や熱風で直接亡くなった人よりも、後の放射線被害で苦しみ亡くなった人もたくさんいるのだ。また、傷つけられた遺伝子が次世代に受け継がれている可能性もある。
これらの被害が目に見えにくく理解しずらいため、核兵器の廃絶を訴えるメッセージが世界へ伝わりにくいのだという。
また第3章「内部被曝のメカニズム」は秀逸。
低量放射線の害について、極めて正確に記述されていて他に例をみない。
日本人必読の書であると断言したい。
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放射線の「内部被ばく」についての概説。著者の一人は医師であり、広島で原爆に被爆、直後の凄惨な現実を直接経験するが、その後、しはらくして直接被曝していない人が不自然になくなっていくことに不信を持ったことから、放射線の「内部被ばく」の脅威を追及することになる。この内部被ばくは、原爆に限らず、最近頻繁に使用されることになった劣化ウラン弾、また過去繰り返し行われた大気中の原爆実験、そして原子力発電所の周囲、と原子力があるところに可能性として間違いなく、内部被ばくを被る危険性があるという。少量だから安心というものではなく、少量であるがゆえに、遺伝子を傷つけ、細胞の突然変異を引き起こし、癌などを誘発する。政治権力(特に米国)はこのことをけっして認めようとしないという。さもありなんである。
私たちのまわりの被曝可能性はほぼ日常化している。内橋克人氏も指摘している「スローデス」の現実化である。