紙の本
気鋭の外交史家によって解明された日露戦争の全体像!
2005/07/17 19:25
16人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年、2005年は日露戦争が戦われて百年の節目の年にあたる。そのため、関連の出版物も多数刊行されるのではないかと思っていたが、意外と出版状況は低調のようである。それは、この戦争を巡る評価、つまり日本という国家の存亡を賭けた戦争であったとする解釈と、韓半島と満州を巡る帝国主義国家間の戦争であったという解釈が鋭く対立しているためと思われる。加えて、現在の韓国や中国との厳しい国際関係も影響しているのであろう。
本書は、このような状況の中で、客観的に開戦に至る経緯、戦争の推移、戦後処理が記述され、この戦争の後世に及ぼした影響が論じられている。
このうち、評者にとってとりわけ興味深かったのは、開戦へいたる日露両国の国内情勢の分析と終章で論じられている日露戦争の歴史的意義である。
開戦に至る過程は、比較的詳しく取り上げられており、本書の中心をなしている。それによると、通説とは異なる開戦の過程が浮かび上って来る。
通説では、ロシアの活発で強固な南下政策によって、やがては韓半島までもがその影響下に置かれることを恐れた日本が挙国一致のもとにロシアに宣戦布告したことになっている。
しかし、ロシアは一貫した政策のもとに満洲に進出したわけではないことが本書で指摘されている。事実、ロシア側の行動は、現地軍や満洲に利権を有する政治家・企業家たちによって積み上げられた行動に過ぎず、何ら強固な政策に基づいて進められたものではなかったという。時の蔵相のウイッテ(後にポーツマス講和会議でロシア全権)などは露骨な利権目当ての行動は日本を刺激するので、こうした動きに始終批判的で、時のロシア宮廷・政府内部では満洲進出を巡って激しい政争が繰り広げられたという。
一方、日本側にも、同じようにロシアと事を構えることについて、様々な意見があり、伊藤博文などは最後の最後までロシアとの提携を模索しており、水面下で行動していたという。また、最大の開戦派と目されていた山県有朋が、開戦を決意したのもそれほど早い時期ではなかったと言われている。
このように見てくると、日露双方とも、様々な思惑が渦巻いており戦争に至る過程は一義的ではなかったことが分かる。また、全般的にロシアは新興国日本の出方を楽観視しており、日本はロシアの行動に過剰反応したという面もあることも指摘されている。
終章『近い未来遠い未来』では、日露戦争が現代までも両国に影響を及ぼしていることが論じられている。
著者は日露戦争の敗北はロシア人の人々の心に長く残り続け、それは1922年のシベリア出兵、張鼓峰事件、ノモンハン事件などの日ソ間の軍的な緊張によって絶えず憶い起され続けたという。
1945年8月のアジア・太平洋戦争終結直前になって、スターリンが日本に宣戦布告したのも日露戦争敗北の恥辱を雪ぎ、失われた領土を回復する狙いがあっためであり、その結果として、戦後に北方領土問題という重い課題が生じたと著者は論じている。著者は、このようなことから、日露戦争は過ぎ去った過去の出来事ではなくて、その影響は今なお両国に遠い影を落としていると指摘している。
本書は、司馬遼太郎『坂の上の雲』のように上昇期にあった若き近代国家の熱いうねりを描くのでなくて、戦争いたる複雑な動きや百年前のこの戦争が現代にまでも残している負の遺産を明瞭に指摘している点で、歴史の重さを考えさせる優れた近代史の本となっている。
紙の本
新書判という小著の中で全体的な把握をしていることに感心
2005/10/29 21:08
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日露戦争の全体像と世界政治との関わりが、要領よく簡潔にまとめられている。19世紀から20世紀への転換期の列強諸国の植民地戦争、日本とロシアの世界政治での位置付け、戦争における地理学の重要性と日露の満州と韓国の地図作製、極東の地政学、といった政治と軍事の環境と背景から初めて、開戦、各会戦における戦闘と関連する両国の国情、日露双方の認識の差、陸海戦の関連、講和と世界史への影響、までが述べられる。これまで読んだ日露戦争史は、各陸会戦と日本海海戦を頂点とする各海戦における戦闘と、日露の政治状況の比較が、ほとんどであった。新書判という小著の中でこれほど全体的な把握をしていることに、感心する。前人の研究を咀嚼し、俯瞰的な視点を有している。
紙の本
日本の過去を暴く
2008/01/08 05:29
16人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日露戦争に対する見方は大きく二つに分かれている。
ロシアの勢力が中国北部を越え朝鮮半島まで延びてこようとしている。このままでは、いずれ日本まで・・・という危惧から発生した自存自衛戦争という考え方。
もう一つは、満洲や朝鮮の支配権を争うロシアと日本という帝国主義国どうしの覇権争いという考え方。
しかし、歴史の流れや、その時々の日本のひとつひとつの行動を見ていると、どう考えても後者であったとしか考えられない。
前者のような日本擁護の“ずるい”考え方が、それでもある程度の支持を得ていることは、日本の戦争責任を考えるうえで大いに“邪魔”になっている。
日本が第二次世界大戦敗戦後も、あいかわらず無反省な顔つきで、いつのまにか再軍備し、アジアの国々に背を向ける政策をとりつづける。この悪習を打破するためには、過去の日本が“間違った”戦争を起こしたその思想を、一刻も早く明確にし、再認識しておく必要がある。
あの時代、ロシアも欧米諸国も、皆が中国・朝鮮の大地に利権を求めて殺到していた。侵略者どうしが醜い争いを繰り広げていた。
日本による他国出兵も、義和団闘争、日露戦争、第一次世界大戦とつづく戦争も、日本が資本主義列強による中国分割競争に遅れまいとして積極的に加わっていったものでしかない。開国後急速な資本主義化をあせった日本が他国に搾取の道を求めていった結果でしかない。
それは日清戦争の始まりを見ればよくわかる。琉球・台湾を“ものにした”日本が、その次に朝鮮侵略に眼を向けたことに起因する戦争であった。農民反乱鎮圧に名を借りて、かねてより準備していた出兵を行った。
戦争後の朝鮮独立もかたちだけのもの。実質的には日本へ従属させてしまった。
最初から最後まで「アジアの盟主」「アジア開放の旗手」をきどる日本が、アジア諸国を他の侵略国家から真に救い出し開放の手助けをすることなどいっさいなかった。
日本は、日露戦争により大きな利権を手にし、大陸進出の大きな足がかりをつかむことになる。しかし、いかに有効な国際的手続きに基づいたものであったとしても、侵略犯罪者たちが寄り集まって一方的に決めた利権や領土割譲は、それはやはり「搾取」と呼ぶのがふさわしい。
どんな国にも、どんな手続きを経てでも、他国の国土さらには他国の人民の命まで自由にできる権利など絶対に許されるものではない。
ここはやはり、謙虚な眼で過去の日本の行為見直す必要があるのではないか。
日本の過去の行為に冒頭の前者のような“驕った”見方を与えることは、日本の将来にとっても大いに不幸なことなのである。
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日本は日露戦争に勝った後、戦史を編むのに都合の悪い部分は省いてしまったらしい。ところがロシアはかなり客観的にこの戦争を記述していた。このころ軍紀がよかったというのも、早くヨーロッパの先進国の仲間入りをしたかったようだ。しかし、それが本物でないゆえに、後の不幸を生むもとにもなった。いわゆる植民地戦争のあとに起こった世界規模の初めての戦争で、第一次大戦を予想させるものがたくさんあったという指摘も面白い。
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日露両国の視点に絞って書かれた簡潔な日露戦争史。
戦略、外交を巧みに用い、なんとか勝利にたどり着いた日本と、ほとんど何も戦略のなかったロシアというのがよく分かる。
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ロシア側の資料の中でも、ソビエト時代に書かれ、しかも日本の戦いぶりを評価したスヴェーチンの論に刺激を受けてかかれたという。とりあえず通史としての論点は押さえているとは思うけど、やっぱり「ニッポンよい国強い国」的な表記が目立つなぁ
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国際政治学にはセキュリティジレンマというのがある。
国際社会は常に戦争の危機を孕んでいるので、対立する2国の間では一方が自国の安全を増大させようとすると他方は不安を増大させ悪循環を生みやすい状況が生じる。
ロシアでは緒戦の失敗の責任者探しが始まった。ユダヤ人は愛国心が乏しく部隊に悪影響を与える存在だという認識が広く共有された。朝鮮人や中国人などの黄色人種も対象とされた。
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全9章、200ページ。
戦史として本書を読むと失望するだろう。
本書は外交史としてよくまとまっている。
巻頭に朝鮮の地図がある。精読にあたって何度も眺めることだろう。
初めに日露戦争前の国際情勢について、簡単な説明が30ページほど。
次に地図、鉄道、朝鮮半島など地政学的に無視できない地理の解説があり、主題として日露の利権及び外交交渉を扱っている。
戦争については、5~7章でサッと流している。奉天、遼陽、日本海海戦あたりだけはやや詳しく描かれている、といったところ。
終章にて講和とその後の日露両国の行方について触れている。
初版は2005年。
巻末の参考文献にも比較的新しいものが多いので、まだ生き残っているものが多いのではないかと思う。
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[ 内容 ]
日露戦争は、日本とロシアにとってはそれぞれにきわめて影響の大きい戦争であったが、客観的になかなか評価が確定していない。
戦後一〇〇年にあたり、その地球規模での意味に言及する試みがなされているが、本書は、ロシア近現代史の視点も含めて、戦争の背景・経過・影響を通覧しようとするものである。
双方の認識に極端な差があったことが、戦争の帰趨にどのように影響を及ぼしたかを明瞭に伝える。
[ 目次 ]
序章 世紀転換期の世界
第1章 世紀転換期の日本とロシア
第2章 戦争の地理学
第3章 政事と軍事
第4章 戦争への道程
第5章 開戦
第6章 陸と海の絆
第7章 終局
終章 近い未来と遠い未来
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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日露戦争における日露両国の国家戦略を概説。火遊びのつもりのロシアと生き残りをかけて必死だった日本。このギャップが戦争の帰趨を決めたと言っても過言ではありません。
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日露戦争に至る国内外の情勢から戦争過程とその影響と歴史的意義を国内、世界の両面から分析。多くの資料から要点が簡潔にまとめられていて読みやすく、現在にまで尾を引く日露関係、その上流からの流れが良く分かる。
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佐藤優氏の推薦本のひとつ。
外務省官僚である著者がロシア駐在時代にまとめた資料による著書。
新書らしく、さっぱりとまとめられている。
本書の特長として、ロシア閣内の不一致が時系列で簡潔に描かれている点を挙げておく。
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―第0次世界大戦は如何にして起きたか
日露戦争の歴史的意義や当時の国際政治の背景について述べた本。特に戦争に至る経緯についてはかなり詳細に筆を割いている。日本側はともかく、ロシア側はかなり重臣間の見解の不一致が深刻だったことがわかった。
さて、当書を通じて参考になったポイントを4点に絞って述べてみよう。
1.三国干渉
ロシアが三国干渉を行った背景としては、蔵相・ウィッテの影響が大きい。彼は皇帝専制下での国力増強を図り、シベリア鉄道建設を推進していたが、日清戦争での日本の予期せぬ勝利から、日本の膨脹を警戒し始めた。そこでドイツやフランスを巻き込んで日本を圧迫、遼東半島を清に返還させ、その見返りとして旅順・大連など関東州の租借権を獲得。東清鉄道や旅順軍港の建設といった政策に着手する。
一方で満洲ではロシア人の増加に反発した清人が破壊活動を始める。これに対してロシアは軍を奉天省に進出、駐留させたが、日本やイギリスの不安を増大させる結果となった。
2.日英同盟
19世紀においてイギリスは孤立主義(いわゆる「栄光ある孤立」)を掲げていたが、日英同盟の締結はなぜ円滑に進んだか。それについては、日本とイギリスがロシアの南下を警戒するという見解で一致したため、というのが通説である。が、著者はこれに加えて2つの要因を挙げる。
1つ目は満蒙交換論を持説とする対露協調派の重鎮である伊藤博文が国外にあったのに対し、ロシアとの戦争は免れ得ないとする山縣有朋が条約を支持した点。
2つ目は内容の限定性。即ち、両国の一方がロシアと交戦したことで、第三国がロシア側について攻撃された場合のみ直接軍を派遣するという内容である。当時イギリスは露仏同盟を控えていたため、日本につくかロシアにつくかで揺れていたが、この限定的な内容のために、日本につくことを決めたという。さすが三枚舌外交でパレスチナ問題の火種を作った国なだけはある。
3.開戦
その後、日露両国は朝鮮半島や満洲の権益を巡って交渉を重ねるが、互いに譲らなかったため、日本には戦争のみが有効な打開策となっていた。開戦すると、日本は陸軍の黒木為楨大将らや海軍の東郷平八郎大将らが朝鮮半島と制海権の確保により先制、ロシアは鉄道の輸送能力の不足と総司令官アレクセーエフと満洲軍司令官クロパトキンの不和により混乱していた。
その後は旅順攻囲戦や奉天会戦などの消耗戦が続き、1905年9月、アメリカの仲介によりポーツマス講和条約を結ぶことになった。戦争の経過について、本書ではさらに詳細な内容に触れているが、ここでは省略。
4.日露戦争とは
ここでは本書の内容を概観している著者の見解を引用する。
以上に見てきたように、日露戦争はその規模においても、また用兵のレベルでも、利用された兵器のレベルからしても、さらには長期戦を支える前線と銃後の密接な関係からしても、この時期に頻繁に起こった植民地戦争とはまったく異なるものであった。ひとことでいえば、戦争は普仏戦争以来三〇年以上も存在しなかった大国と大国の戦争だったのである。ここには、塹壕戦と機関銃の組み合わせ、情報と宣伝の利用能力、制海権の確保に関わる陸軍と海軍の連携など、ヨーロッパ諸国が第一次大戦で学ぶ戦争技術のほとんどが、明瞭に、もしくは萌芽の形で現れていた。ロシアは、日本を基本的に植民地レベルの国家とみなしていたために、厳しい試練を味わったのである。(同書194頁)
この他、後世への影響としては、日本での日比谷焼打ち事件や藩閥政治批判による政党政治を志向する世論の形成、ロシアでの国会開設(地主の1票が労働者の45票に相当するなど、極めて不平等な選挙によるものだが)などが挙げられる。もちろん、第一次大戦の陣営が日露戦争の時点でほぼ決定的になったことも忘れてはならない。そういう意味で日露戦争は「第0次世界大戦」と呼ぶこともできる。
全体として。あまり一つの戦争に注目して本を読んだことはなかったので、骨は折れたが勉強にはなった。あと、賛否両論はあるけど司馬遼太郎『坂の上の雲』も読んでおきたいところ。
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日露戦争は、日本とロシアにとってそれぞれにきわめて影響の大きい戦争であったが、客観的になかなか評価が確定していない。戦後一〇〇年にあたり、その地球規模での意味に言及する試みがなされているが、本書は、ロシア近現代史の視点も含めて、戦争の背景・経過・影響を通覧しようとするものである。双方の認識に極端な差があったことが、戦争の帰趨にどのように影響を及ぼしたかを明瞭に伝える。
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二十世紀における最初の大国間戦争であり、日本とロシアが対決した日露戦争について解説した本。日ロ双方の戦史・外交史を用いながら、戦争の背景・経過・影響を概説する。
本書の最大の特徴は、日露戦争を日本とロシア双方の視点から論じている点である。特に多くのページが割かれている日露戦争の背景(前史)においては両国の外交の内部事情が詳細に記されており、中・高の日本史では取り上げられなかった戦争の裏事情が語られている。個人的に驚きであったのは、戦争の要因の一つとされる「ロシアの南下政策」が一貫したものではなく、寧ろ日本とロシアの相互認識のズレが戦争の要因であったという指摘だった。
既に他のレビューでも述べられているように本書は戦史と言うよりかは外交史に比重が置かれているが、日露戦争を概観するのにおすすめの書と言える。