「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
- カテゴリ:一般
- 発売日:2005/04/25
- 出版社: 文藝春秋
- サイズ:20cm/344p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-16-323910-3
紙の本
ベルカ、吠えないのか?
著者 古川 日出男 (著)
1943年、日本軍が撤収したキスカ島。無人の島には4頭の軍用犬が残された。捨てられた事実を理解するイヌたち。やがて彼らが島を離れる日がきて−。それは大いなる「イヌによる現...
ベルカ、吠えないのか?
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
1943年、日本軍が撤収したキスカ島。無人の島には4頭の軍用犬が残された。捨てられた事実を理解するイヌたち。やがて彼らが島を離れる日がきて−。それは大いなる「イヌによる現代史」の始まりだった!【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
古川 日出男
- 略歴
- 〈古川日出男〉1966年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部中退。98年「13」でデビュー。「アラビアの夜の種族」で日本推理作家協会賞と日本SF大賞を受賞。著書に「gift」など。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
本命とはこういう小説をいいます。何の本命かは、書きません。でも、こういうハイレベルな小説が評価されるには、読む側の資質が問われます。壮大な犬の歴史談です
2005/07/07 20:26
13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私はてっきり熊だと思い、長女はあっさりと「犬、可愛い!」と見抜いたカバーの話から始めましょう。装幀は関口聖司、写真はAFLOと書いてあります。でも、被写体が何であるかは別にして、これって完全にノンフィクション、動物に関連する記録向けのデザインですよね。
で、ベルカ、って何でし。彼?の第一声は「うぉん」です。祖国ソビエトが消えてしまう前の年に、老人がただ一頭殺さなかったイヌで、ベルカです。
話はスプートニク5号のときに遡ります。フルシチョフがアメリカの鼻を明かそうと、二匹のイヌを乗せて地球の周りを17周した宇宙船は、無事回収されます。そのときのイヌがベルカとストレルカ。後に番うことを国家に認められ子孫を残すことに成る二匹の名は、以降、北の連邦で受け継がれてきたのです。
巻頭言が笑えます。
「ボリス・エリツィンに捧げる。
// おれはあんたの秘密を知っている。」
ですから。
特に最後の章なんか、タイトルは『ベルカ、吠えないのか?』と男らしい感じがしますが、「ベルカ、吠えないの?」ってなると、何だか少女がしゃがみこんでイヌのまえで首を傾げてるって云うか、愛らしい感じが出てます。でも、これが違うんです。ここらの変遷は、ぜひとも作者に聞いてみたいところです。ま、確実にいえるのは50年以上の歴史が詰まってる、ってことです。
「おれは解き放ちたいのだ」は199X年のシベリアです。山奥に迷い込んだ男が見つけた老人の家、そこで若い男が村への道を尋ねています。それが銃撃戦に変わります。静から動への一瞬の変化、でもそれは、忽ちのうちに再び静けさへと変わります。そうですね、だれだってスパイ物、或はロシア・マフィア、テロリズム小説だと思い込むのですね。
でも、舞台は一気に1943年のキスカ島になります。そこには四匹のイヌがいます。日本海軍所属の北海道犬(旧称アイヌ犬)の北、陸軍所属のジャーマン・シェパードの正勇と勝、そして米軍捕虜のシェパードであるエクスプロージョンです。ともに、軍部によって選び抜かれた軍用犬ですが、日本軍の撤収によって島に取り残されています。そう、これはその四頭の血の歴史譚です。
いやいや、実はそんな生易しい話ではありません。もっと多くのイヌの血が絡みます。そしてバックグラウンドとして、人間の愚かしい歴史があります。あの日本が大敗した第二次世界大戦、その後の世界の流れを決定付けた米ソの軍拡競争、ベトナム戦争、アフガン戦争などなど。その中でイヌは大陸を彷徨います。あるときは、自分たちだけで群をなし、あるときは人間に守られながら。
登場人物です。まず、大主教がいます。極めて暴力的な老人です。そして日本ヤクザの会長がいて、その娘がいます。11歳か12歳ということになっています。その少女を人質にしている老人のもとには、少女が勝手に名づけた、ロシアばばあ、女1、女2(のちに、イチコ、ニーコとよばれるようになります)、オペラがいます。
そう、これはその暴力的な少女の成長と、全く無関係なイヌの歴史をハードに描いた巨編なのです。読みながら、なんて硬質な文章だろう、これこそがハードボイルドではないか、そう思いました。ヘミングウェーもハメットもろくに読みもしないのに、勝手なことを云うなと叱られそうですが、私にとっては、この文体こそがハードボイルドなのです。
無駄がなく骨太。単純でいながら、読み飛ばしはおろか、いい加減な息継ぎも許さないような緊張感溢れる文章。それに、先が全く見えない展開ですから、読了に時間がかかるのも当然です。イヌの話、と気軽に飛びついた長女が、途中で「これって簡単に読むの無理!」宣言したのも肯けます。
それにしても、凄い話を思いつくものです。もしかして村上龍『半島を出よ!』より上?
紙の本
「血」と本能
2007/05/02 21:56
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はな - この投稿者のレビュー一覧を見る
面白かった。というと私の感想を一言で言い表していない気がする。
すごかった。
第二次世界大戦中の1943年から、冷戦終了の90年代初頭までを描いた物語。軸となるのは徹底して「イヌ」たちである。人間でも世代が移り変わる数十年、当然イヌたちは何代も何代も世代が移っていき、その「血」は世界中に散らばっていく。歴史に記されることはない、けれど確かな足跡を残しながら。
人間の政治、戦争、歴史に弄ばれるようでいて、その実、イヌたちはそれぞれの場所で確固としたアイデンティティを築いている。その様子が丹念に描かれる。
正直に言って、背景となる現代史も、イヌたちの系図も、正確にはほとんど理解できていない。それでも問題はない。なぜならイヌたちもそんなものは理解していないから。それを理解していなくても、イヌたちは、自らの血と本能でもって、しっかりと歴史に存在している。その鮮やかさが読み終わっても、心から消えなかった。
紙の本
「大主教」のじじいに大いに感銘
2005/04/30 10:06
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yostos - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦時中、日本軍に取り残された四頭の軍用犬から始まり、ロシア、南北アメリカ、東南アジアと殖え広がっていったその裔のイヌ達を通して、二次大戦、朝鮮、ベトナム、アフガン、そんな二十世紀後半を描き、そこにソ連崩壊の中を犬を率いる「大主教」と呼ばれる老人と少女の物語を重ね合わせ見事にフィクッションとして成立させたなかなか見事な作品。
イヌが様々な状況、人間に翻弄されながら、生き延び、殖え、絶えて、世代を重ねて犬の歴史が紡がれていく。それがイヌの視点で語られる、イヌへの語りかけで語られる。時にイヌ自身にはわからぬ因果でイヌの裔たちはその数奇な運命を交差させていく、まさにイヌの現代史。
ただ、イヌの歴史の歴史の部分は時に名前がこんがらがって冗長で退屈な場面も。しかし、平行して描かれる現代(といっても90年代?)の老人と少女とイヌ達の物語がなかなか物語全体への期待感を持たせてくれる。冷徹なその老人や少女も、実はイヌ同様に時代に翻弄される「イヌ」、不器用に、精一杯に、そして悲しく生きている。
「イヌ」という新しい視点で二十世紀を振り返るその知識はすごい、取材は大変だったろう。なおかつそれをエンターテインメントとしても成立させてしまうこの作家の力量はすごい。個人的には「大主教」のじじいに大いに感銘。
紙の本
神の視点からイヌを見据え、20世紀後半の人類史を描く壮大な叙事詩
2005/07/30 09:23
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
1940年代、太平洋戦争下で日本とアメリカが激戦を繰り広げた南洋に、それぞれの国の軍用犬がいました。この物語はその犬たちが子から孫、孫からひ孫へと世代を継ぎながら、20世紀の冷戦構造史をたどっていくという骨太の物語です。
私のようなサラリーマンは日がな一日こうした小説を読み続ける時間的余裕を与えられていないため、どうしても数日かけて小分けしながら頁を繰ることになります。その場合、このように幾世代にも渡ってあまたの犬が登場する物語は、それぞれの犬の相関関係や犬一族の系譜図を記憶し続けることが出来なくなりがちです。事実、後半ではカブロン、ギター、ストレルカ、ベルカと名づけられた犬たちのどれとどれが兄弟姉妹なのか、または親子関係にあるのか、見失ってしまいました。
それでも私はこの物語に大いなる魅力を感じないではいられませんでした。
犬を「お前」と呼ぶ二人称の視点で綴られたこの壮大な物語は、実は散文の装いをした長大な叙事詩ではないかと思うのです。例えば、111頁に登場する以下の文章は実際には改行されることなく連続して綴られていますが、ちょっと改行を行なうだけで、にわかに詩のような韻律を伴って私たちに迫ってくる性質を内包しているのです。
十一月だ。
一九五七年の十一月だ。
馬がいなないている。
蛙が鳴いている。
鶏が朝方わめいている。
屋敷の中庭に置かれた池では
十数羽のアヒルが泳いでいる。
霧が果樹園じゅうに広がる時間帯があって、
お前はそれを、
美シイ、
と思う。
厳寒の地方のイヌの血が濃い子供たちが、
霧ガアル時間ハ、イイ、イイ、トッテモ涼シイ、
と喜ぶ。
現在形を多用することで、文章にはこのように躍動感が満ち溢れます。それが耳に心地よく、読者の心をつかんで離さぬ強い魅力を放つことになるのです。
物語の中身よりはこの文章の力強さを味わった。それが私の偽らざる感想です。
紙の本
非・生類憐れみの令
2005/07/17 20:37
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナカムラマサル - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を一言で説明するならば、「犬による現代史」という表4の文言に尽きる。人間の作り上げたイデオロギーの中でいかに犬が翻弄されたかという視点から、「戦争の世紀」としての20世紀を描いた壮大な作品だ。
第二次大戦時、太平洋の島に取り残された4頭の軍用犬を筆頭に、その後の冷戦構造の世界で脈々と連なる犬の系譜(朝鮮戦争・ベトナム戦争・アフガン戦争の軍用犬、米ソの宇宙開発レースのライカ犬、レッドチャイナの軍用犬等)。本来なら資本主義圏にも共産圏にも属していない犬が、「時代」に弄ばれる様子は、実は我々人間の中の一般大衆の暗喩とも捉えられて興味深い。登場する犬たちが、それぞれの人生(犬生と言うべきか)を背負っており、1犬1犬のエピソードが悲哀を感じさせる点からもそう思わせられる。個人的には、「任務を果たそうとする才がある」犬神(アヌビス)という犬の造型に魅かれた。犬に萌えてしまったのは「南極物語」のリキ以来だ。
20世紀の世界史の勉強にもなる本書だが、「怪犬仮面」の挿話など、思わず吹き出してしまう部分も多くあって、エンタメ系読者には堪えられない面白さだろう。
紙の本
本屋大賞を見て、読みました。
2014/10/30 22:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:shingo - この投稿者のレビュー一覧を見る
本屋大賞を見て、読みました。
犬の歴史本。斬新ですが、斬新すぎて感情移入が追いつきませんでした。。
紙の本
軍用犬たちのみた戦後現代史
2006/06/28 18:52
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古川日出男さんは、「アラビアの夜の種族」というとんでもない作品
を書き、私の中の、”とんでもない本を書く人リスト”に記録されてしまったので、今回のこの話題の「ベルカ、吠えないのか?」のプロットを
聞いてもあんまり私は、驚きませんでした。
この人なら、それぐらいやると思っていたよ、、。って感じです。
(「アラビアの夜の種族」も読みましたが、ブログの記事には、していません
そのころは、ブログといったものが、無かったので)
と、ちょっと偉そうなこと書いて”つかみ”にしましたが、
やっぱり本書のアイデアというか、プロットは凄いです。
太平洋戦争中、日本の軍用犬とアメリカの軍用犬が、
キスカ島においていかれます。
その犬の子孫たちから、みた第二次世界大戦後の現代史といったものが、
大筋で、その合間合間に、謎の老人とロシアの裏社会の闘争に巻き込まれた、
ヤクザの娘さんの話が、入っています。
犬たちのも色々で、全ての犬が軍用犬になったわけでなく、
ブリーダーの種犬に育てられたり、薬物探知犬になったり、
自由に生きる犬もいます。
この犬の見た現代史とヤクザの娘さんの話が、ラストで交わるのであっぱれです。
文体のスタイルも暴走気味です。
会話文と地の文と感情の区別が殆どなく、漢字のも強引にルビを振って
読み方を作者の指定する言葉に誘導というか、強引に先導しています。
又、書き手の主観というか視点も自由に飛び回ります。
で、犬に対しては、おまえは、と二人称で書かれています。
これは、テッド・チャンの「あなたの人生の物語」にも使用されていたテクニックです。
「アラビアの夜の種族」でも、述術はかなりエキサイトしてましたが、これは、
この「アラビアの夜の種族」と、いったテーマから来るものだと、
納得していましたが、この本読んで確信しました。
これは、古川日出男さん自身のスタイルなんですね、、。
併し、人間って相変わらず第二次世界大戦後、国家間の総力戦はなくなった
といえ、戦争ばかりしてますね、、。
犬も、何代も何代も付き合わされて、いい加減あきれていると、思います。