「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
広大な公園に接して立つ三階建ての洋館。建物は周囲に不気味な威圧感を与えていた。人が住んでいれば、また違った印象があるかもしれない。「お、ば、さ、ん」 訪問者は建物の奥へ呼びかけた…。書下ろしミステリー。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
折原 一
- 略歴
- 〈折原一〉早稲田大学卒業。編集者を経て1988年「五つの棺」でミステリ作家としてデビュー。「沈黙の教室」で日本推理作家協会賞を受賞。著書に「冤罪者」「失踪者」など。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
多分、この作品は折原のベストではない。でも、いかにも折原らしく、読ませるミステリではある。しかし、最近の男は本当に女の色香に弱い、いや、昔からか
2004/12/24 19:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
正直言って、好きになれないブックデザインである。著者に折原の名前がなければ、パス、ごめんなさいとでも言いたくなる装幀 妹尾浩也(イオル)、装画 石田 黙「夜明け」。ま、下手なデザインというのではなくて、あくまで趣味が合わないカバー画に対する不満であって、誰のせいでもない。言わせてもらえば、写実的な絵画のもつ不気味さが出てしまった感じである。
でだ、実はこの暗さ、お話に無関係に存在しているのではない。この物語、いかにも折原の小説らしく屈折しているのである。人間もだが、構成もねじれている。だから殺人事件が起きるんだ、といわんばかりである。小説は、プロローグに続いて、第1部 叔母殺人計画(一 殺意、二 実行)、第二部 叔母殺人事件(一 二重人格、二 冬の風)、エピローグとなる。
舞台となるのは、一週間前まで、警察の「立入禁止」の黄色いテープが門前を塞いでいた都内の家である。訪れた人間に聞えたのは死んだはずの被害者の声。そして捕らえられた殺人者の「弁護士を呼んで」の願いで幕を開ける。
ノンフィクション作家である33歳の私が、仕事の場所に選んだのは、ついこの間「叔母殺人事件」の舞台となった、市内の中央公園に隣接して建つ昭和初期建設のレトロな三階建ての洋館である。敷地は100Mx100M、10000平米の広大なもので、事件さえなければ不動産屋垂涎の的となりそうなもの。
物好きにも、そんな家に住もうという私の狙いは、ズバリ、事件そのものを作品にしようというものである。そしてひょんな古都から雇うことになったのが、司法書士の事務をやっていて今は失業中の長沼絹代29歳。秘書ではなくハウスキーパーとして働いてもらうことになる。そして息子の名倉智樹を訪ねてきた老婆名倉敏子をも結局は料理人として雇うことになる。
でだ、一週間前に起きた事件の被害者は清瀬富子、自ら衣料会社を起こし、60歳の若さで引退した社長である。息子は出奔したまま行方知れず、後継者のないのが不満な彼女が白羽の矢を立てたのが、姉の息子で、東京の場末のアパートに暮らしていた役者志望の名倉智樹32歳。その彼を私立探偵を雇って甥を探し出し、家に引き取ったことが事件に繋がっていく。
遺産を餌にした意地悪な試験。智樹は与えられたお金でネット上での株取引を始めるが、ビギナーズラックで元手が増えたのも束の間、失敗が口を開けて待っていた。そんな智樹を慰めるのは女中の春とその娘で料理人をしている30過ぎの美咲である、借金の返済を条件におばの家で働く美咲に心を奪われた智樹。彼の動きを観察する叔母。芽生える殺意。
これで十分だろう。叙述推理の名人、折原のテクニックを堪能して欲しい。読み終われば、ああそうかと納得である。最高の一冊、ではないけれど、ここまで組み立てることのできる作家が何人いるか、と問われれば、やはり折原が第一人者、としか言いようがない。ただ、メタミステリ大流行の昨今、構成で驚かせることはかなり難しくなっているのも事実。たまには、明るい叙述ミステリでも書いてはいかがなものか、折原さん。