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商品説明
アメリカのために戦う日系二世の語学兵、ショーティ。「日本人の子として恥じぬよう、アメリカのために全力を尽くす!」 彼の栄光なき孤独な戦いを、第二次大戦末期のサイパンを舞台に描く。『小説すばる』連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
古処 誠二
- 略歴
- 〈古処誠二〉著書に「ルール」「分岐点」など。
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紙の本
『ルール』『分岐点』『接近』そしてこの作品。戦争を知らない人だって、これを読んでまだ戦争したいなんて思うだろうか、帝国軍人が国民のことを考えたなんて
2005/02/16 20:40
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
鳥頭である私は、この本を読み終わって、古処の過去の戦争を扱った作品『ルール』『分岐点』『接近』についての自分の備忘録を読み返すまで、タイトルの七月七日が持つ意味を理解できなかった。単純に七夕、天空の川を隔てて佇む二人の男女に、主人公ともう一人の女性を置き換えるくらいの想像力しかなかったのである。いや、前振りはこれくらいにしておこう。
章立ては、「六月十八日 星章」、「六月二十日 黒星」、「六月二十三日 南十字星」。「六月二十七日 流星」、「六月三十日 運星」、「七月四日 星条旗」、「七月七日 天の川」とそっけない。装画 斎藤多聞、装丁・本文レイアウト 松田行正。装画のいかにも戦争してます、という感じで、戦争にまつわる話を奇麗事にしないところがいい。
主人公はショーティ、その彼が初めて人を殺したところから小説が始まる。場所はサイパン。時代は日本が敗れた第二次大戦中のことである。ショーティは日本語の読み書きが出来る。だから、彼の役目は語学兵である。そして、戦場の彼にはいつも護衛兵がついてまわる。それでもショーティが米軍に捕えられ、暴力を振るわれたことは何度もある。
それが何故か、ショーティとはどのような人間であるのか、それは小説を読んでもらおう。他に彼と同じ語学兵のカジハラがいる、と書いただけで何かを感じる人がいるはずだ。むろん、主人公の設定は小説の鍵ではあるけれど、決してミステリの謎ではない。登場人物では、途中で米兵に捕えられ、その美しさで彼らを魅了していく少女鹿山美智子あたりが魅力的である。
小説の最後のほうで出てくる言葉に、現在の改憲論者の、そして戦争中の日本人の心理をズバリいいあらわしたところがあるので、そのまま引用しよう。これに反論できる奴がいるなら、やってみるがいいさ。自分の老い先の短さに自棄になって、国体を名目に自国民の殲滅を密かに狙う老いたる政治家よ。
「そもそもあなたはリーダーでしょう。米軍から逃れることに失敗した責任をとってひとりで死になさい。若い女性まで巻き添えにするなど、あなたは意地が悪すぎる。自分はもう若くないから命は惜しくないでしょう。老いぼれるだけだ。これから楽しいことなんて一つもない。」
「年寄りが戦争を引き起こし、おかげで辛酸を舐め続け、あげく見捨てられていながら、それでも年長者を尊敬することが美徳だと信じている」
そうだ、これに筒井康隆『笑犬楼の逆襲』中の、現在の改憲論推進の中心にいる老人の意識「戦争なくして何の人生じゃ」イラク戦争の「シラク「お前アホか。」ブッシュ「何でやねん。」」を読めば、先のない老人が若者を道連れに死んでやろうと自棄になっているのがよく理解できるはずである。
その老人の自暴自棄と同じことを、日本の帝国軍人は敗戦間際にやるのである。自分一人で死ぬのが怖いから、住民を脅して一緒に死なせる。死なせたあとで、怖くなって逃げる。心中して、よく女性だけが死んで、男性が生き残る例が多い。まさにあれである。その腐った軍人が、それに組する虎の威を借るお調子者がこの話に何人も出てくる。
無論、人種差別をして恥じることのないアメリカ軍の将兵も愚かである。それが現在、すこしも改まることなく改憲論、イラク派兵、北方領土、原発といった日本の進路を捻じ曲げる力となって生きているのを見ると、冷静にこの本を読んでいることが出来なくなる。軍人、戦争とは、さほどに愚かなものなのだ。
紙の本
「ブラザーフッド」や「プライベートライアン」の映画を観るようにこの本を手に取って欲しい。
2005/02/28 14:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つきこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画ならともかく戦争しかも第二次大戦中の小説なんて辛気臭くて読んでられない、そんなに人にこそ是非手にとって欲しい。善きにつけ悪しきにつけ読後さまざまな余韻を残すことは間違いない物語なので。
日系アメリカ人のショーティーが主人公。
彼は日本語を理解し日本人としての教育を一世の両親から受けてはいるが物の考え方、感じ方は当然のことながらアメリカ人により近い。
しかしショーティーは日系人として差別を受けながら育ち開戦後は強制収容所へ連行された過去を持つ。アメリカは決して万民にひらかれた自由と正義の国ではないと身をもって知っている。そして日本人からは同じ日本民族でありながらアメリカに味方するものとして裏切り者呼ばわりされる存在。
日米のどちらかを一方的な善とも悪とも思い定めることのできないショーティー。
絶対の正義など有り得ないと既に知ってしまっている彼の“どっちもどっち”の視線を通して戦争が語られていく。
既に希望を失っている彼には、国を守るという大儀に燃えた若者が抱くような“なぜ戦わなければならない”という感情の揺らぎは見られない。彼なりの目的を果たすために淡々と与えられた任務をこなしていく。しかしそんな彼でさえ戦闘が激化するにつれ、あまりにも理解しがたい日本人の行動に苛立ちを覚え疲労を募らせていく。
読了後さまざまな疑問が頭に浮かんだ。
まず第一にこの既視感は何なのだろう、と。
戦争の事はよく知らないしこの小説で始めて知ったことがたくさんあるにも関わらず、どこかで見たことがあるしどこかで知っているような気がするのは何故だろう?
逃げ惑う日本人よりも追う米兵に同情するのは何故だろう?
私だってこんな任務はやってられない。物語終盤で主人公に付けられたアメリカ人護衛兵がそう弱音を吐く気持ちがよくわかる。
戦争を経験した人ならどう考えるのだろう? 日本人よりも米兵の考え方の方がより理解し易いと言ったら怒られるのだろうか? これだから戦争を知らない奴は、と。
またどうして作者は第二次大戦中の日本軍をテーマとした小説を次々と書くのだろう?
確かにテーマは重い。しかし是非映像で観てみたいと思わせる印象的な描写が幾つもあるし、ここぞという時に放たれる台詞の数々や、主人公が敵兵の遺留品から相手の動きを探ろうとするところなどはミステリーの謎解きにも通じる面白さを感じた。絶妙のバランスで加味されたエンターテイメント性がこの物語をより読み易いものとしている。
哀切に満ちたラストシーンがとにかく素晴らしい。
無口で無愛想、感情を忘れたように振舞うショーティーであっても人の子なのだ。その場にいるみんなが誰かの子供であり、敵だろうと味方だろうと兵士だろうと捕虜だろうとその点ではみんな同じなのだ。
ここで示される祈りにも似た願いを一体誰が叶えられるのだろうか。
そして、既視感の源はここにあったのだと気付く。
ここで示された願い事は今も世界の到る所で繰り返されている。
その背後には60年前のサイパンで本来死ぬべきではなかった日本人とそれに巻き込まれるように命を落とした米兵と同じように、多数の無意味な死が転がっている。
繰り返される戦闘と繰り返される無意味な死。
作者が戦争をテーマに書き続ける理由もそこにあるのだろう。
そしてこの物語が読まれるべき理由もそこにある。
国は国民を守りはしない、特に国民がその保護を最も必要とする時には国は国民を守りはしないし、国のために命を落とした国民を国が本気で悼むことなどありはしない、ということを私達は肝に銘じるべきであろう。