紙の本
戻ってきた二村,神奈川県警の刑事は,何を求めているのか
2004/10/05 01:38
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投稿者:格 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公は神奈川県警刑事,二村永爾.十九年ぶりに戻ってきた男.捜査の帰り,横須賀ドブ板通りでビリー・ルウーという男とあって意気投合する.そしてある夜ビリーから頼まれて,横田基地までビリー自身とモノの運搬を手伝っい,ビリーは自分で飛行機を操縦し,去っていく.そして,残されたのは殺人事件.重要参考人がビリーであり,そのために,二村は警察の捜査から外される.さらに横須賀署の元先輩刑事佐藤から,女流ヴァイオリニストの母親の疾走事件の捜索を私的に頼まれる….
二村の刑事を外されてまでの私的な捜査を継続させる執念はなんなのか.友の無実を晴らすため,というにはあまりにも強い意志.それがハードボイルドのハードボイルドたる所以なのだろう.それにしても二村の勘に基づく捜査というのか,次々の行動には理由が書かれておらず,ついていけないところが多い.もっともあとからそれなりに理由がつけられていくのだが….
帯に"日本語で書かれた最も美しいハードボイルド"とあるように,本物のハードボイルドの文体がここにある.ストーリーにはついていけないものの,小気味よい文章を追っていくのは気持ちがいい.ちょっとだけ記しておくと,以下のような文章だ.
何が起こるかは判らなかったが,何が起こってもいいようにしておきたかった.
自分が何をするべきか,それはもう分かっていた.分かったは良いが,その手だてが見当たらなかった.
紙の本
タイトルはオヤジギャグだけれど、話は一向にパットしない。こんな警察官いるかよ!である。映像的な部分だけは評価するけど、男に魅力がないよねえ…
2004/11/20 21:01
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
未読だが山本周五郎賞受賞作『ららら科学の子』が評判の矢作の新作。でだ、矢作と私との付き合いは、結構長い。多分『マンハッタン・オプ』シリーズは、角川版だろうけれど書棚のどこかにある。『暗闇にノーサイド』『ブロードウェイの戦車』なら昔懐かしい角川ノベルズ版で、これもどこかに埋もれている。もしかすると『海からきたサムライ』もあるかもしれない。
でも、87年の『リンゴォ・キッドの休日』あたりになると怪しいし、90年の『スズキさんの休息と遍歴』あたりが、それこそLONG GOODBYEしたころで、結構気になっていた『あ・じゃ・ぱ!ん』あたりは、もう遠めで見るだけ状態になっていた。そう、最近はとんとご無沙汰、我が家の亭主みたいなものである。だから、『らら』には気付いてはいたものの、またつまんないんじゃないの、などと疑って読む機会を逸している。
でだ、なぜ今回の作品、チャンドラーの名作『ロング・グッドバイ』のLONGをWRONGにもじって、田中啓文『蹴りたい田中』なみの悪ふざけとしか思えない小説に手を出したかといえば、何年ぶりかのハードボイルド、という新聞広告の宣伝文句に乗せられたからに他ならない。10年をかけた、とか、埋もれていた、とか、大型新人などという言葉に弱いの、私って、である。
でだ、面白くないのである。ハードボイルド特有のしゃべくりが、その饒舌がノレないのだ。しかし、それ以上に困るのが冒頭、主人公が巻き込まれていくあたりの部分である。酔っ払いアメリカ人とのしたくもない会話に巻き込まれていくのも、妙にウザイし、そこで交される会話がまったく歯が浮く。映画の中ならばともかく、日常では絶対にありえない会話なのだ。しかもである、神の視点が入ってくるのである。あのときこうしていれば、ああはならなかった、という。
さらに不満は続く。主人公二村永爾は警察官である。その彼は自分の職業を酔っ払いのビリーことウィリアム・ルー・ボニーに告げるチャンスを逸したことで深く事件に関与していくことになるわけだけれど、彼はたいした意味もなく被疑者を庇ったり、そのために嘘をついたり、酔っ払い運転までしてしまうのである。
たとえば雫井脩介『犯人に告ぐ』と読み比べれば、どうだろう。乃南アサの音道貴子シリーズだっていい。そこには主人公や脇役たちが屈折していく過程が必要十分に描かれるのである。それに比べれば、二村は単なる酔いどれの甘ちゃんに過ぎない。二村がお坊ちゃんの私立探偵であれば、分からないではない。しかし、彼はれっきとした貧乏警察官なのである。
しかも、後先を考えずに上司に喧嘩を売り、啖呵をきって辞職願いまで書いたくせに、結局それを出さないでいる。文章の流れからは、辞職願いを取り下げる理由は全くないのに。これでは読者は納得しないだろう。しかも、弱いものに暴力まで振るおうとする。
無論、二村は不祥事で悪名高い、あの神奈川県警勤務だから、それでいいのだ、それこそリアルなのだという開き直りは可能である。警察官の酒気帯び運転、事件のもみ消し、賄賂、カラ出張に餞別金のプールなど、警察不祥事の展示場と化した神奈川県警に対してWRONGというならば、不承不承ながら肯きもする。しかし、違うだろう。
それにしても、この二村、面白くない男である。付き合いたくない男ナンバー1といいたいほどである。女を前にした時の態度も、初心というよりは無神経、いや愚かですらある。何度も襲われる、その学習効果のなさも特筆ものである。大体、こんな男に女が惚れるということ自体が甘い。ん? そうでもないか。太宰といいヤクザといい、SMAPにしたって好きだという女は掃いて捨てるほどいるのだ。
しかし結末に近づけば近づくほど思うのだ。その歯切れの悪さ、どこがハードボイルドだ。文体は甘ったるく、話の構造も冗長。これでは再び LONG GOODBYE である。
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2004週刊文春ミステリーベスト10 国内部門第8位
このミステリーがすごい!国内4位
なので、読んでみました。
著者19年ぶりのハードボイルド書き下ろし!だそうですが、正直つまんなかったです。
LongとWrongをかけているんでしょうが、元ネタ知らないとなんとも・・・
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横須賀を舞台にしたハードボイルド。マンネン警部補,二村が酔っ払いパイロット,日系ビリーと意気投合。次の日,死体があがる。殺人の被疑者かも、彼は日本人だった。メキシコでの交通事故で死んだとみせかけた。その後、べトナム戦争の最中に誤って若い母親を殺してしまう。幼い少女を引き取り横須賀の母に預ける。少女は世界的なバイオリストになる。彼女の断片的な記憶の中に出てくる人。コンサートに花束をハーフハンドレッド送っていたのは、実の母を殺したビリーだった。ビリーの仕事は米軍基地から、無許可で飛行機で輸送していた。中国人の会社。映画の原作に登場する人物のモデルはビリー。貿易商の白人はアイルランド。バイオリニストの育て親,ビリーの母は、出生の秘密をばらされるのを恐れ自殺。
事件はNHKにすっぱぬかれ、記者は左遷。二村は警察をやめる。死んだと思ったビリーとは厚木で再開。二度と会うことはない。アメリカとの決別は難しい。横浜の中華街と馬車道も舞台になる。チャンドラーのLONGとは随分違う話。
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長いです。とにかく長い。びっくりするくらい長い(笑)
そんなにすっごい長編っていうわけではないんだけど、体感長さは上下巻か?! っていうくらいです。
あ、でも、私がハードボイルドが苦手だからかもしれません。
時間に余裕のある方、もしくはハードボイルド大好きな方は、ぜひどうぞ。
で、内容は、まさに「和製ハードボイルド」。
日本の警察官を主人公に、こんなにアメリカちっくなハードボイルドってできるもんなんだーと思いました。
舞台が横浜で、米軍基地やら中華街やら、情報屋やら元コールガールやらが出てくるから、それも可能なのかもしれませんが。
なんていうか、文章が英文を和訳したのっぽいから、よけいそう思ったのかも。
ものすっっっごいフィクションなので、警察内部の様子とか、主人公の言動やらが嘘っぽすぎるあたりは難ありなんだけど、でも、こういうものとして読めば楽しめるのかも。
なんていうか、濱マイクみたいなニュアンスで。
途中、ふっと村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を彷佛とさせるところがあったのが気になりました。
全然毛色の違う小説なんだけど、作者は龍さん好きなのかしら。
全体をとおして悪くはない小説なんだけど、これに1800円出すのはちょっと。
文庫化したら買いだと思います。
そして、初版だから余計そうなのかもしれないけれど、誤植が多いのが……。
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内容は個人的にはそこまで好きではなかったかな。
ラストの意外性はあったけど、
作品全体に引き込まれるって感じはなかった。
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ハードボイルド。
最後は結構すきだ。
あと女の人のキャラ設定もいい。
美女と勝利の美酒を味わうって終わり方よりこっちの終わり方が好きだ。
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非常にタフな1冊。ハードボイルド。
登場人物も多いし、ベトナム戦争のことが出てきたり、個人的に土地勘の全くない横須賀が舞台だったり・・・
心して読まないと、内容が全然頭に入ってきませんでした。
アメリカって、基本的に戦争をしたい国なんだな。それで金儲けする人が大勢いるから。結局この世は金で回ってるのか〜。
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チャンドラーの「ロング・グッドバイ」を読んだことのない人はたぶん楽しめないだろうし、読んだことのある人は物足りなく感じるだろうな。。(私は後者)
マーロウも向こう見ずで突っ走るタイプだけど、二村さんは同じ突っ走るにしても、ちょっと投げやりな感がある。酒の飲み方も美しくはないなぁ。
「long」と「wrong」の違いを最後にどう持ってくるのか楽しみにしていたのだけど、なんだかなぁ。。いまいち、ピンとこない。
二村さんがもう少し魅力的だったらもっと楽しめたのだけど。でも、だから「wrong」になっちゃったんだな、と考えると妙に納得してしまう。
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知らぬ間に比べていた。そうするなといっても無理な話だ。題名がアルファベットで二文字しかちがわない。酒場で知り合った酔っぱらいがなんとなく気に入り、頼まれて車で送ったら事件にまきこまれていた。そんな出だしのあまりにも有名なハード・ボイルド小説があった。レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(原題は THE LONG GOODBYE)』だ。
ハード・ボイルドに詳しい人なら、このタイトルを見ただけで、作者の意気込みが知れるといった代物。ダシール・ハメットと並び称されるハード・ボイルドの双璧チャンドラーの代表作のタイトルを少しひねって、THE WRONG GOODBYE。片仮名で表記すれば同名の『ロング・グッドバイ』だ。大先輩に敬意を表してのつもりか、あるいは挑戦状か。いずれにせよ、このタイトルを背にしたら最後、それなりの覚悟がいることは百も承知だろう。期待を持って読み始めた。
『あ・じゃぱん』、『ららら科學の子』と、最近は少し変わったところで傑作と言ってよい作品をものしていた矢作が、久々にホームグラウンドのハード・ボイルドの世界に帰って書き上げた、神奈川県警の刑事二村永爾を主人公にした最新作である。
酒場で意気投合したビリーは、もと撃墜王というふれ込み。ヴェトナム戦争当時の知り合いで今は台湾の実力者楊のお抱えパイロットとして危ない仕事をしている。ある夜、夜間飛行に飛び立つビリーに頼まれて、車で空港まで送ったのを最後にビリーは消息を絶つ。残された彼の車から死体が発見され、二村は窮地に追い込まれる。一線から外された彼に人捜しの依頼が舞いこむ。美貌のヴァイオリニスト、アイリーン・スーの義母が失踪したというのだ。横浜、横須賀の港町を舞台に、米軍基地に蔓延るカーキ・マフィアや基地を食い物にする組織との暗闘が始まる。
「卑しい町を行く高潔な憂い顔の騎士」というのが、チャンドラー由来のハード・ボイルド小説のヒーロー像だ。二村永爾がその系譜を引いていることはいうまでもない。ただ、拳銃や酒の銘柄はそのままでも、車の種類はどうにもならない。ネットや携帯電話の話題は、古き良き時代との距離を感じさせずにはおかない。物語はノスタルジックな雰囲気の漂うホテルやバーを背景に描かれるが、彼の探しているものが何にせよ、今の時代には予め喪われている。街が卑しいのではない。時代が卑しいのだ。
もう一つちがうのは人と人との間を行き交う空気の乾き具合。フィリップ・マーロウが歩いたのはロス・アンジェルス。砂漠に水を引いて創った人工の街だ。二村永爾のテリトリーは横浜、横須賀。ペリー来航以来アメリカ軍とは切っても切れない軍港の街である。中華街や基地、怪しげな人物と彩りには事欠かないが、そこは日本。警察機構の末端に位置する二村は、一介の私立探偵とはちがい、自分の意志ひとつで動くには制約が多い。やくざや業界人だけでなく、基地の街に生きる親と子、男と女の間にある人間関係のしがらみが湿った空気のように纏わりつく。
それでも、つい読まされてしまうのは濃厚なセンチメンタリズムのせいだろう。いい歳をした男が、自分の信条に忠実であろうとして昇進試験も受けないストイックさ。たかだか酒場で知り合った酔っぱらいに感じた友情に殉ずる侠気。惚れているくせに女につれなくしてみせる恥ずかしくなるくらいの感傷癖。頻出する片仮名言葉に幻惑されさえしなければ、これが股旅物の世界に近いことは誰にでも分かる。
絢爛たる比喩、機知に富んだ会話、気のきいた警句をちりばめた、チャンドラー節の日本での人気は高い。矢作の文体もまたチャンドラリアンのそれであることは論を待たない。しかし、ハメットをハード・ボイルドの正統と仰ぐ人にはチャンドラー嫌いが少なくない。感傷性の勝った文章に自己憐憫の臭いを嗅ぎつけるからだ。強きを挫き弱きを助けるのがヒーローだが、卑しい時代を行く騎士が暴くのは強者の不正ばかりではない。いきおい文章には正義が行われない世の中に対するルサンチマンが溢れ、自己憐憫にも似た色調が憂いを深くする。
『長いお別れ』が愛された理由にテリー・レノックスという酔っぱらいの魅力がある。酒を飲むのに言い訳はいらない。が、気の合った友人の存在は酒を飲む最上の理由になる。ビリー・ルウに二村が感じたほどの愛着が感じられないのは、彼の酒の飲み方にあるのかもしれない。
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チャンドラー『The Long Goodbye』の、見事な本歌取り。
なぜか好きにならずにいられない酔っ払いの飛行機乗りと、彼に犯罪の片棒を担がされる減らず口でへそ曲がりのディテクティブ、謎の美女アイリーンと、基本的な構造や登場人物はそのままに、矢作俊彦にしか書けない第一級のエンターテイメント政治小説になっている。
20世紀最後の年の横浜を舞台にする本作において物語の鍵を握るのは、ベトナム戦争の時代に形作られた米軍内経済マフィアと国際政商/黒社会のネットワーク。湾岸戦争を経て米軍が民営化していく時代にうごめく巨大な利権の網とその中に囚われたかつての友人の姿を見届けた二村がその先に見すかすのは、もちろん、21世紀の「新しい戦争」でいっそうの変化を遂げていくアメリカの軍事と利権の網だ。
チャンドラーの抒情に沈鬱な色彩がくわわった文章でつづられる、長い20世紀への間違った「さよなら」が、原作と同様、苦くて感傷的な余韻を残す。矢作俊彦、やっぱりすごい。
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矢作俊彦氏のハードボイルド作品『ロング・グッドバイ』を読了。ハードボイルド作品は実はあまり読まないのだが、たまにはと思い購入した作品。600ページ近くある作品なので軽い文体なのだが結構時間がかかり読み終わりました。
文体、横須賀ドブ板通り、米軍関係者との関係、世小浜中華街などなどまさしくハードボイルドな設定で笑っちゃうくらい徹底しているのがすごい。お暇なときに是非。
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残念ながら、個人的には次の展開をドキドキしながら頁を繰る、という作品ではなかった。
気の利いた会話で独自の雰囲気を醸し出そうとしたのかもしれないが、全篇にわたってそれが気障な印象を残した。