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収録作品一覧
十八の夏 | 7-78 | |
---|---|---|
ささやかな奇跡 | 79-164 | |
兄貴の純情 | 165-210 |
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紙の本
ズバリ、文庫で買って蔵書にして何度も読み返したいと思う作品集だと声を大にして叫びたい。
2004/09/30 20:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて読む作家の作品を手にした時っていつも緊張する。
期待はずれの時もあるが、逆に胸がすくような作品にめぐりあう時もあるからである。
本作なんかは後者の典型的な例といえよう。
本作は4編からなる花(朝顔、金木犀、ヘリオトープ、夾竹桃)をテーマとした短編集である。
連作というより内容的にはそれぞれが独立した短編集と言えよう。
表題作は日本推理作家協会短篇部門賞を受賞しているのをご存知の方も多いんじゃないかな。
最後の「イノセント・デイズ」以外はあんまりミステリー度は高くない。
4編ともそれぞれ異なったテイストの作品なんで作者の引き出しの多さを垣間見ることが出来、御買い得感が高いような気がするのは私だけであろうか…
しかしながら、どちらかと言えばほのぼの系でストーリー展開で読ませるのが持ち味な作家だと認識した方がよさそうである。
ラストの「イノセント・デイズ」なんかはちょっと踏み込みが強くて異色作と言えそうですね。
作風的には男性作家で言えば本多孝好さんに近いかなあと思っている。
どちらも文章が綺麗で心の機微を描くのが上手い。
そう言えばどちらも寡作なんですよね(笑)
光原さんも本多さん同様、文章に人柄が出ているって感じかな。
凄く読んでいて癒してくれるから…
読者に対して気配りの出来る作家と言えそうですね。
どの作品も素晴らしいのであるが、個人的には2編目の「ささやかな奇跡」がお気に入りである。
亡くなった妻の実家近くに引越した父子が起こす題名通り、ささやかな奇跡のものがたりなのである。
とにかく息子の言動には泣けてくるのである。
やはり、女性作家ならではの繊細さが行き届いていると言わざるを得ない。
この作品に遭遇しただけでも“読んで良かった”と思えた。
私たちの日常においても、作中にあるようなちょっとした誤解から生じる思い違いってあるのでしょうね。
話の展開は読めるのであるがそれにしても胸がすく話でした。
重松清さんも脱帽物だな(笑)
全体的には花の色の如く色彩豊かな短編集だと形容したく思う。
きっとその色彩って魅力的な登場人物なのでしょうね。
3編目の「兄貴の純情」の“兄貴”はその際たるものであると言えよう。
光原さんがこの作品集を通して何を訴えたいかはあとがきを読めばわかります。
すごく共感したので引用させていただいてレビューを締め括りたく思う。
『本書を手にとって下さった皆様にも心からの感謝を。楽しんでいただけたら、そしてできればほんの少しでも“人生も満更悪くない”と思っていただけたとしたら、これ以上の幸せはありません。』
トラキチのブックレビュー
紙の本
ミステリーと言うよりは
2023/02/01 09:52
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者の光原百合さんが昨年夏にお亡くなりになった。58歳とのこと。ご冥福をお祈りします。
さて本書はミステリーと言うよりは、やはり恋愛小説である。表題作の出来もそれなりに良いが、私はベタな「ささやかな奇跡」がひどく気に入った。特にベタベタの大阪弁を話す男の子がとても味のあるキューピッド役を果たしている。後半の2作はいまいちと感じた。
紙の本
作家が自身に対して甘い見方をする小説が好きではない。それが作者の夢であっても、リアリティを感じない。しかし、その作品への周囲の評価は圧倒的に高い。周囲と私との乖離を感じさせる一冊
2004/08/17 22:17
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「或る日、川べりでスケッチをする女性を見かけた受験生が知る、意外な真実」抒情推理。
受験に失敗し、浪人となった三浦信也は18歳。予備校に通い始めた春から、何となく、ジョギングを始めた。走るコースは川べりの桜土手。春も過ぎた或る日、信也はそこでスケッチをしている女性を見かける。それが年上のデザイナー蘇芳紅美子との出会いだった「十八の夏」。この作品で、作者は第55回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。
息子の太郎が3歳の時妻を亡くした水島高志は、その後実家で母の力を借りながら何とか暮らしてきたが、母の死を期に、義父母のいる大阪に移ることを決心する。そこで理想の女性に出会うが「ささやかな奇跡」。小学生の時、演劇の魅力に取り付かれ以来、一直線に突き進んできた兄が人目惚れした相手は、弟の中学時代の教師の娘だった「兄貴の純情」。数年ぶりで自分の前に現れた美少女は、昔の塾の生徒だった。彼女は友人の死に動揺を隠せない「イノセント・デイズ」。
「十八の夏」を読んで抱いたのは「これは特殊な女性が自分を理想化して書いた小説だ」という、何とも言いがたい違和感である。男性作家ならば、絶対描かない恋愛だろう。私は、この話に少しもリアリティを感じなかった。それは、残りの三作にも共通する。
書けば書くほど、昔、読んだ池永陽『コンビニ・ララバイ』に軍配を上げたくなる。どちらも、身近な世界が舞台である。大げさな事件は起きない。いや、事件性ではミステリと謳っていない池永の作品の方にこそ、小さな謎が秘められているといっていい。しかし、その自然さは何だろう。それは重松清の小説にも共通する。
一方、光原が自ら読者の反応が良かったという「兄貴の純情」の兄の性格描写の、現実離れした滑稽さ、私は少しも面白くなくて、こんな人間が登場する小説は二度と読みたくないと思ってしまう。しかし、この小説を含め光原の作品は読者の圧倒的な支持を受けているのである。
あとがきに載っている日本推理作家協会賞の選考委員の名前を見ながら、納得した。実は、私がが彼らの路線に違和感を感じて離れてしまった人たちばかりである。しかも、彼らは皆、現代の人気作家でもある。こうなると、悪いのは自分なのかと思い始める。そこは、読んで判断してもらうしかない。
ただし、ここで遅ればせながら告白しておく。小説に、あまりに作家自身のナルシズムが満ちている作風は、殆ど駄目なのである。栗本薫、新井素子、藤田宜永、今江祥智、大沢在昌、沢木耕太郎、灰谷健次郎、一度は熱中したのである。いや、彼らの著した傑作の名前なら、今でも言える。ところが、あるとき、主人公たちに投影された作者の影に、やけに自分に甘いなあと思い始めたら、全く読めなくなった。
しかし、それはどうも私だけらしい。彼らの文名は、下がるどころか上がる一方。とすれば、この本はやはり大傑作なのかもしれない。ただし、私には合わない。自分を美化せず、あるときは露悪するような作家が好きな人には薦められない。その代わり、将来の人気作家を、と言う人にはお薦めだろう。