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紙の本
歩きつつ80年前の24歳の心に共感
2008/11/18 11:55
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナンダ - この投稿者のレビュー一覧を見る
苔の生えたような説教くさい紀行文を想像していたが、読み始めると、引き込まれた。
異性関係での悩みを抱えた熊本に住む24歳の女教師が、ある日、四国巡礼を思い立ち、親元を離れ半年に及ぶ遍路に旅立つ。白衣を着て歩くと、好奇の目にさらされ、仏の生まれ変わりと崇められ、「遍路は泊められない」と旅館から追い払われ……。他人の目がつらくて逃げたり、野宿を楽しんだり、宿のシラミを恐れたり。幾度となくも泣きながら、遍路道をたどる。
風景や交通事情は今とはまったく違う。彼女はトンネルを見て「トンネルだ!」と無邪気に喜ぶが、今の歩き遍路にとっては排ガスが充満する国道のトンネルは最大の難所だ。彼女が小径をたどってたどりついた札所も、今は車道が通っている。
80数年前に彼女がたどった道を今歩くと、風景と文化の違いはあるものの、旅する人の気持はそうは変わらないことに驚かされる。
たとえば筆者は、遍路の墓を見て「私自身も、巡礼の姿のまま、はかなくならぬとは限られない。真の孤独に耐えうる人にしてはじめてそこに祝福された自由がある」とつづる。路傍の無縁仏を見たときに、私もまた自由と孤独とを考えた。
また筆者は、「死」を考えて「病的な戦慄を感じてどうしても眠れない。みんな死んでいった。色んな物を書き残した少年も青年も佳人も……」と記した。死を実感し恐れるからこそ「今」を大事にしたい、と私も思う。「死」を意識し、みずみずしい感性で四国を歩いた筆者自身もまた今はもういない。
彼女はまた、大きな悲しみ、大きな喜びがあるほど人生は豊かになる、ということも書いていた。「喜びでも悲しみでも、一晩泣き明かした経験がない人は薄っぺらだ」という言葉を学生時代に知り合った弁護士に聞かされたことがある。無難な人生よりも振幅の大きい人生を送りたい。24歳の彼女もそう考えていたんだなあと思うと、時代を超えて親近感を感じた。