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商品説明
日本企業が出資し、アフリカの密林を切り拓いてコーヒープラントを作ろうとしている現場で、現地の作業員が失踪。一方東京では、ある男が原因不明の皮膚感覚の亢進に見舞われる。この無関係に見える両者には共通点があった…?【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
浅暮 三文
- 略歴
- 〈浅暮三文〉1959年兵庫県生まれ。広告代理店勤務を経て、「ダブ(エ)ストン街道」でデビュー。「石の中の蜘蛛」で日本推理作家協会賞受賞。
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紙の本
本能的な満足を追い求めた先にあるもの
2004/01/27 15:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喜多哲士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間の五感のうち、どれか一つが極端に突出したらどうなるか。浅暮三文は、これまで嗅覚、視覚、聴覚などをとりあげ、みごとにその異常な世界を描くことに成功してきた。
本作で扱われているのは、触覚である。熱帯より運ばれてきた菌類により触覚が異様に敏感になった男が主人公である。彼はアトピー性皮膚炎に悩まされており、人や物との接触を極端に嫌っていた。しかし、触覚が発達した結果、触った物から意志が伝わり、それを確かめるためにありとあらゆる物に触れていく。
本書の読ませどころは、この触覚の描写である。道具が、使われることに喜びを感じている。主人公はその道具に触れることにより、その喜びを感じとる。様々な道具の意志が、細密に描写されていく。そして、主人公はその喜びを自分のものとしてとらえていくようになるのである。
やがて、男の行動はエスカレートしていく。物の次は人。それまでは人と接触することを極端に嫌っていた主人公は、女性と関係をもったこともなかった。しかし、鋭敏な触覚を持つことになった彼は、むさぼるように女性の体との接触を、特に性器への刺激を求めるようになっていく。最初は性風俗営業の女性で満足しているが、触覚によりその接触が弛緩し切ったものだと感じた彼は、一般の女性をターゲットにする。その時には既に、彼の精神は菌類に侵食され、自分の思考を持てなくなっているのだ。
本書の面白いところは、この男の行動だけではなく、菌類の意志も描いていることだろう。宿主に寄生し、ただただ増殖することのみを求める菌類。それらに意志はあるのか。あるとしたら、それはもちろん本能的なものなのだろうが。作者はその本能的な意志を臨場感あふれるタッチで描く。それは、本能的であるだけに、かえって原初的な恐怖を感じさせる。
作者は、デビュー以来、何かを探し、追い求める者を主人公として描き続けている。本書もまた、その流れの一つに位置づけられる。ここで主人公が追い求めるものは、本能的な満足である。その満足は、彼の中に入り込んだ異物である寄生生物の本能により引き起こされたものである。
探し求めた先に何があるのか。本当に答えられる者は、実はいない。どこかで折り合いをつける。それが理性というものの仕事だ。ならば、理性が働かなくなったらどうなるか。本書の面白さ、そして恐ろしさはそこにあるのだ。
紙の本
元祖連続ショヒョーのみーちゃん、今回は浅暮二連発。とまあ、書いたものの、この本、ラストのこう、余韻って言うか不気味さが今一つって言うか、それまでの主人公の変態ぶりに圧倒されちゃって
2004/03/13 20:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつもとホンの少しだけ書き出しを変えてみよう。
この小説は、全五章からなる。エピグラフは、ヨハネの黙示録九章から。続いて、序章「エデン」。第一章「アダム」。以下、「イブ」、「アバドン」、「誘惑」、「捕囚」、それに終章「黙示」。そして浅暮の「悪魔の囁きを聞いたあとがき」。
カバーデザインは岩郷重力+WONDER WORKZ。どこかで見たようなと思ったら浅暮の『10センチの空』と同じコンビだった。ただし、その印象は全く違う。表題の「針」というロゴは、いつもは嫌いな字体だけれど、この本に関しては、読者を見つめる瞳、エルンストばりの手と相俟って、絶妙の感覚。うーむ、殆どいつもと変わらない…
「日本企業が出資し、アフリカの密林を切り拓いてコーヒープラントを作ろうとしている現場で、現地の作業員が失踪するという事件が起こった。捜索を続けるにつれ、事件は奇怪な様相を呈しはじめる。一方東京では、ある男が原因不明の皮膚感覚の亢進に見舞われていた。手が触れる道具、肌に当たる風、すべてのものがこれまでにない感覚を伝えてくる。そして一見無関係に見えた両者には、実は奇妙な共通点があった!? 日本推理作家協会賞受賞の鬼才が、満を持して放つ異常感覚SF。」
以上がカバー後ろの紹介。で、今回は、サービスとして、作者の意味深な「いいわけ」を引用。
「まず女性のみなさんにお詫びします。小説とはいえ、ジェンダーを無視したこんなものを書いて、ごめんなさい。決して僕がこの小説の主人公のような行為や考えを支持しているなんて思わないでくださいね。あくまでこれは小説です。そして今回の主人公とその行為を一冊に仕上げることを求めたのは僕ではなく物語りなんですから。(後略)」
主人公は浦野耕一、35歳。コンピュータのプログラマー。ついでに書いておくと、独身で童貞。裕福な家に生まれたけれど、こどもの時からひどいアトピーに悩まされ、仲間と外で遊べないということが、彼を人と付き合うのが嫌いな性格にした。無論、それを寂しいとか辛い、と思っているわけではない。
もう一人の重要な人物が、35歳の離婚歴のある女。名前は彼女がネット上で使うReyとしておく。美女であるだけではない、170センチ近い長身と見事なプロポーションは日本人離れしている。職場では数少ない女性の管理職についていて、その地位を虎視眈々と狙う男たちに囲まれ、ストレスに晒されている。そんんな彼女の息抜きは、ジムでの筋トレと水泳、そしてネット上での通信で、浦野と同じ大田区に住んでいる。
そして「彼」。液体世界に棲む「彼」は、今、世界が活性化してきたことを告げるホルモン物質に全身を刺激されている。それ以外に、医師や看護婦、筋肉男、部落の民、少女、警察官などが出てくるが、中心にいるのは浦野と女と「彼」である。
『針』という名前から、すぐにケン・フォレット『針の眼』を思い出し、カバーの印象からもミステリだと思った。それは本の後ろに出ている内容紹介も同じで、まっさかこれが痴漢を描く変態小説だとは思わなかった。浅暮があとがきで「ぼくじゃあない」と言い訳するはずである。
この小説には、殆どパンストフェチではないかと思われる男の様子が克明に描かれる。性的な描写もしつこいほどである。ただし、その筆は女性の肉体ではなく、浦野が感じる手触り、肌の、プラスチックの、金属の、繊維から得られる触覚の描写に費やされる。浅暮のいうライフワークである五感シリーズの触覚を扱ったものである、というのは間違いない。
しかし、浅暮がいうほどに彼が「無色透明、自分は神の意志に従っただけで、こんな人間じゃありません」とは思えない。ギリギリの線上にあることは間違いないのである。そのどちらにあるかは、読者に判断してもらうしかないけれど、『10センチの空』を書いた人には思えないことだけは、間違いない(くどいか)。
紙の本
著者コメント
2003/12/31 18:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浅暮三文 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「針」という新年一発目の新作は、そもそも数少なかった僕の小説の女性ファンをすべて失うような作品です。ごめんなさい。決して悪意はないのです。ただ物語がこのような展開を求めたもので。どうしてこんな言い訳から入るのかと言いますと、なにより今回の新作はハードコア・ポルノといってよい作品だからです。五感シリーズの第四作「触覚」をテーマにしています。詳しくは年が明けて発売されるSFマガジンのインタビュウで語らせていただいてますが、なにより僕としては今まで一番長い、約九百枚の全編に渡って、ねちっこくイヤラシイ描写で世界を構築しました。男性ファンには使える小説を目指しているとお伝えしておきます。女性ファン(がいるならですが)の方は、立ち読みして、イヤになったら、無理しないでください。可愛い話も、また書きますから、堪忍して、S子にM子にL子。おじちゃんが本当はそんな人でないのは分かってくれるよね、え? 駄目?