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商品説明
「仮面の告白」「真空地帯」等を生み、戦後文学の黄金期を築いた伝説の編集者「坂本一亀」の軌跡を辿る。作家たちとのエピソードを交えながら戦後文学の豊穣なる時代を描く。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
田辺 園子
- 略歴
- 〈田辺園子〉1937年東京生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業。河出書房新社勤務を経て、フリーで編集・文筆に携わる。著書に「女の夢男の夢」がある。
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紙の本
坂本龍一の父親であるという関心から読み始めたけれども、編集者と言う職業のすごさを教えられた
2007/06/06 23:47
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
その昔、坂本龍一が本本堂なる出版社(?)を起こして幾冊かの本を世の中に出したことがあった。音楽家の余技のような感じではあったけれども、その時に坂本の言葉に自分の父親が出版業界にいた人であるようなことがあったので、親子でまんざら異なっていない仕事をしているものなのだなあと思った記憶がある。
その坂本龍一の父親の話がこれだ。
太平洋戦争後、河出書房に入社して編集者として生きた坂本龍一の父、坂本一亀の編集者時代の話が収められている。しかし、そこに描かれているのは坂本一亀の人生と言うよりは、彼が関わり世に送り出した作品と作家の話と言えよう。それは各章の題名を見てもわかる。
野間宏『青年の環』と『真空地帯』
椎名麟三『永遠なる序章』
三島由紀夫『仮面の告白』
小田実『何でも見てやろう』
などなど。さらに、中村真一郎、武田泰淳、水上勉、高橋和巳、山崎正和、丸谷才一、などなど。
戦後の日本文学に名を成した人たちで章立てがなされているわけだ。そのすべてに坂本一亀が関わっていた。否、彼がいなければこれらの作家や作品は世に出なかったのではないか、ということを知らされた。
文学作品が作家だけで成り立つのではなく、それを世に送り出すべく働く編集者がいなければならないということはわかっていたつもりだが、こうして改めて編集者の大きさを知らしめてくれた1冊であるし、著者の主観などを出来るだけ廃して、作家や坂本自身の証言を引用しつつ述べられているので、余計にそのすごさが伝わってくるように思われる。
惜しむらくは、坂本がこのような編集者になるべくしてなった理由と思われる戦前、戦中の経歴が余り書かれていないために、その部分が不明となって消化不良になってしまう。
本書は、坂本の息子、龍一が「父が生きているうちに父のことを書いて本にしてほしい」との依頼があったことが発端だったそうだ(「おわりに」にそのように書いてある)。結果的にこの本のように編集者とその関わった作家や作品の群像談として仕上がったのだが、坂本龍一が書いて欲しかったのはやはり、自分の父親がいかにしてこのような編集者になったのかというところではなかったのだろうか。
紙の本
文学を世に送る力とは
2003/08/30 11:49
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶりゅん - この投稿者のレビュー一覧を見る
坂本一亀の名を知る人はそう多くはいまい。だが、この本で取り上げられる作品群—「真空地帯」、「仮面の告白」、「永遠なる序章」、「シオンの娘等」等々—を読まないまま日本文学愛好者を称する人もまた稀なのではないか。坂本一亀はそれらの作品の編集者であった。
本書を書いたのは、河出書房新社で坂本の下で働いた女性である。こうした個人の業績を伝える書では往々にして、まず賛美ありき、になりがちだが、ここでは必ずしもそうではない。編集者としての坂本の情熱や純情を描くと同時に、部下に対する絶対と軍隊調の有無をいわせぬ指示、過酷な労働の押し付けなども隠されない。しかし、いずれも淡々と。したがって評価は読み手に任されている。
だが、どう控えめに評価したとしても、 坂本が同人誌を渉猟し、隠れた才能が紡ぎだす見事な作品を世に送り出したという功績は、後世に伝えられてしかるべきである。今ほどではなくとも、当時、すでに文学が作家だけの手では生み出せない時代だったことを知った。世に生み出すためには「お産婆さん」の力が必要であったのだ。無論、さらにそれを支える河出社長のような人物も。
この本は面白く読めるか、と聞かれれば、それもまた読み手に任されている、と答えたい。内幕を暴露するようなエピソード満載の「読み物」を期待して読めば、裏切られるかもしれない。著者である田邊園子さんの主観や解釈が極力押さえられているからだ。坂本の仕事とそれに纏わる作家たちの言葉、及び当時の状況が記述の基本であり、引用には出典が注記される。巻末の年表もおざなりでなく、社会情勢を思い起こしながら、興味深く読める。この本を面白いというか、無味乾燥というか、はすべて、戦後文学に対する読者の姿勢にかかっているといってよい。
さて、雨後の筍もかくや、と思うほど、次々と新刊が送り出される現在だが、30年後に残る本はどれだけあるのだろう。薄っぺらな作品が安直に消費されているこの現状が何によるのかを簡単に断じることはできないが、本書が編集者の姿勢を改めて問い直す一冊になることは間違いがない。
紙の本
シャイな天才編集者・坂本一亀
2003/07/01 19:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:國岡克知子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「本稿の成立は、丁度十年前に、坂本一亀の子息坂本龍一から、父が生きているうちに父のことを書いて本にしてほしい、との依頼があったことが発端である」と“おわりに”に書いているが、著者からこの本の原稿についてはいろいろと聞かされていた。なんだか面白そうな内容だなあ、早く読みたいと思っていたが、ようやく作品社から出版された。原稿がすっかり出来上がっていたにもかかわらず八年間も埋もれていたのは、坂本一亀氏の「出版ハ、自分ガ死ンデカラニシテクダサイ。オ願イシマス」というたっての願いで先送りされてきたのだ。
坂本一亀氏は終戦後、昭和二十二年に河出書房に入社し、一貫して純文学のジャンルで新人作家を育て続けた。同人雑誌を丁寧に読み、全国を歩きまわり、有望な新人作家の卵をみつけ、ファナティックともいえるような情熱で彼らを励ましつづけた。「一本気で初志をつらぬく直情型の坂本一亀は、打算や功利性とは無縁の人物である。昔ふうの精神重視主義で、安易な成功よりも苦難の過程を重んじる生真面目な編集者であった」とあるが、口癖は「ハジメカラ売ルコトヲ考エルナ! イイモノハ必ズ売レルトイウ確信ヲモトウ!」と「編集者はサラリーマンであってはならない」であったという。これは、「文学とは善意から生まれはしない、デモーニッシュなあるものである。あくまでも芸術家のものである。編集者はそこに参入しなければならない。サラリーマンであってはならない」ということであろう。育てた作家は綺羅星のごとく輝いている。野間宏『真空地帯』、三島由紀夫『仮面の告白』、高橋和巳『悲の器』『憂鬱なる党派』、真継伸彦『鮫』、小田実『何でも見てやろう』などなど、数え切れない傑作を作家と格闘しながら生み出していった。また、これを許した河出書房の初代社長・河出孝雄氏の生き方にも胸を打たれた。大学生の頃、電車の中で読み耽った『憂鬱なる党派』や『鮫』。懐かしくて、「文藝」の「高橋和巳追悼特集号」まで引っ張り出してきて、高橋たか子の書いた名文「臨床日記」を再読した。
坂本一亀氏の特異な才能は坂本龍一氏へと受け継がれた。シャイで黒子に徹した古武士のような編集者。この本は、坂本一亀という人を通して、読者に「人間とはどう生きるべきなのか」というギリギリの根源的な問いを突き付ける。いいかげんな気持ちで編集など出来ないぞ、と衿を正される思いで読了した。編集者にはもちろんのこと、文学を愛する人にはぜひ読んでほしい。装丁も造本も品格がある。久しぶりに「読んでしまうのが惜しい」と思う本だった。さすがに坂本一亀氏にしごかれた編集者だけあって田邊園子さんの筆は冴えている。