紙の本
幽霊」という斬新な切り口でアプローチしたユニークな英国史
2006/02/01 22:07
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:黒燿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、集英社新書が気になる。
この本を手に取ったときには、「英国といえば幽霊だし、大抵の歴史上の有名な人物は因縁のあった場所に今も住み着いて、ツアーの目玉になっているから、それらをまとめた怪談集なのだろう。」と考えていた。
私は怪奇譚やオカルト関連の本が集めているわけでもないのに溜まってしまうという性質で、英国の幽霊関連の本は何冊も持っているにも関わらず、「新書だから手軽に開けていい」などと理由をつけて買ってしまった。
しかしそれは大きな間違いだった。
この本は英国史に名を残した人物がなぜ幽霊になっているのかを、冷静に分析しているのだ。
歴史書には決して描かれない真実を幽霊譚は映し出しているのかもしれない。
それは声無き民衆の声なのだと。
当時の正式とされている記録というものは、概ね時の為政者を正当化する視点で書かれている為、真実からは程遠い記述も多かったであろうことは、最近、私も実感していることだ。
下手なことを書いたら発禁どころか、書いた本人が処罰される怖れさえある時代のほうが長いのだから。
丁度、そういったことを考えていたときにこの本に当たったのは偶然にしても興味深い。
例を一つ挙げておこう。
第二章の「歴史を動かした女たち」の最初に登場するイザベラ・オブ・フランスは、13世紀にフランスからイギリスのエドワード2世に嫁いだ女性である。
父は美男王と呼ばれたフィリップ4世。
英国史では反国王派のマーチ伯を愛人にして国王を退位に追い込み、幽閉した上で暗殺してしまった英国史上最悪の悪女である。
その後、息子のエドワード3世が成長するとライジング城に軟禁され、生涯をそこで終えた。
著者がイザベラ王妃の軟禁されていたライジング城を訪れると、地元の人々は異口同音にイザベラ王妃は立派な女性で国民に敬愛されていたのだと言う。
彼らが言うには夫であったエドワード2世こそ、同性愛に耽り愛人を溺愛するあまりに国政をないがしろにした愚王だったと。
乱れに乱れた国政を救済するには、他に方法はなかったということなのだろう。
しかし無能、無策、寵臣政治などと生きている間はあらゆる悪名を鳴らしたエドワード2世は、息子のエドワード3世の治世になると今度は「悲劇の殉教者」になる。
エドワード3世はスコットランドを屈服させ、フランスにも連戦連勝の大勝利をおさめてゆるぎない絶対君主となった。
王妃の愛人マーチ伯モティマーはこの上なく残虐な方法で処刑され、王自らが訪れて額づく豪華な父王の墓のあるグロースター大聖堂には巡礼者が殺到することとなる。
王妃は死後、モティマーと共に葬られることを望み、それは叶えられたが胸の上にはエドワード2世の心臓を納めた小箱が置かれたという。
この逸話は夫婦と親子の壮絶な愛憎を感じさせる。
ともかくこうして愚王は聖者となり、逆にイザベラは「フランスの雌狼」という悪名が歴史に刻まれることとなったのだという。
イザベラを表立って賞賛することがタブーとなると、イザベラを慕い、愚王を聖者として認められないひとびとの間に「ゴーストとなったイザベラが何かを訴えている。」という伝聞が広まった。
イザベラの幽霊は所縁のある場所に今も姿を見せる。
「幽霊」という斬新な切り口でアプローチされ、豊富な知識と、現地でのインタビュー、多くの資料で裏打ちされたユニークな英国史である。
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英国は幽霊を観光資源にしているという話は聞いたことがあったが、幽霊付の不動産は価値が上がるとまでは知らなかった(無駄知識)。そこまで好きか、幽霊が(笑)。
英雄や犯罪者、著名人の多くを幽霊という形で地に留め、それを愛す英国人の歴史感を探れる本。怖くは無いけど、本当に幽霊の話ばっかりでちと笑う。
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有名なお話が多かったのでもう少し読み応えがあったら嬉しかったかな。
堅苦しい文面では無いので受け入れやすいです。
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とりあえず買った感じだったのに、なかなか面白い一冊でした。
イギリスでは幽霊を歓迎するんですね。
有名な幽霊が紹介されていて、旅行の前とかに読むのもいい感じです。
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すごく、面白い。
そもそも「なんとかのどこどこ史」とかそういう内容の本はもともと大好きなのだ。
この本はイギリスの幽霊伝説と史実との差を含めて紹介するというもの。イギリスの幽霊観は日本とはかなり違いがある。恨みなどではなく、憤死した人物の幸せな時間を幽霊が再現して出てくるなんて!すごい。
そしてその「幽霊伝説」は、権力者への伝説に名前を借りた反抗だったと作者は語る。それ以上に歴史に登場する人物への愛情を感じたりして。
系図や、年表もあるので、わたしのようなイギリス史に暗い人でも大丈夫ですー。編年体ではなく紀伝体なので歴史を一からというよりは興味のあるところから楽しめますよ。まー、だからこそ年表は必須ですけど。
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イギリスの歴史の裏には、必ず幽霊の存在がある!
そんなスタンスで、英国の歴史的有名人のゴーストを例に挙げ、一般的に流通している歴史と、民衆の間に語りづがれてきた歴史を対比させながら、イギリスの民俗・風俗、イギリス人の感覚を掘り下げている…
そんな本だった…気がする。
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[ 内容 ]
「幽霊付き」「出る」となれば、その不動産の価値まで上がるという、怖いもの好き、古いもの好きの英国人。
英雄、裏切り者入り乱れ、権謀、スキャンダル渦巻く長い英国史には、ところどころに目印のように幽霊が立っている。
一見おどろおどろしいそれらは、しかしよく見れば、声をあげない民衆の目に映った、別の姿の歴史を指し示している。
そうした伝承の歴史に目を凝らし、今も残るゴースト伝説の地を訪ね歩いた、ユニークな読物・英国史。
[ 目次 ]
第1章 民族の英雄となったゴーストたち(ローマに立ち向かった女傑、ボアディケア;英雄復活願望の産物、アーサー王;聖者伝説とゴースト伝説;最後のアングロ・サクソン王;魔法使いになった海賊船長)
第2章 歴史を動かした女たち(愛されるゴーストとなったフランスの雌狼;ヴァージナルを奏でる流血のメアリー;処女王エリザベスの三つの顔;スコットランド女王、メアリーの死)
第3章 ゴースト伝説が伝える権力者の素顔(赤顔王ルーファス;碩学王の美名のもとに;聖者となった荒法師、トマス・ア・ベケット;マグナ・カルタとブラマー城の悲劇;信仰の擁護者の素顔)
第4章 華やかな歴史の陰に(エドワード四世の幼き後継者;最後のプランタジネット、マーガレット・ポール;野心の犠牲者;夫の不倫相手は女王陛下;いまだ戦いを続ける国王、チャールズ一世;議会政治の父から「国王弑逆者)
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[ 参考となる書評 ]
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映画「Another」が「Six sence」同様、実は幽霊だと思っていたのが生者で、幽霊と恐れていたのが本当は死者だったという話を聞いて、死者の視点から描かれた映画が欧米に多いのは何故かを知ることができるかと読んでみた。
ゴースト伝説は、正史では語られない歴史の側面(公には口にできないこと、ある意味での歴史の真実)の民間伝承でとは恐れ入った。いかにも歴史と文学の国イギリスらしい。そういえば、ガリバー旅行記は政府(ガリバー)への民衆(小人)の蜂起を暗喩したものであること、英文学における幽霊や物の怪が何かの象徴であることを大学の英文学で習ったことを思い出した。(何であったかは忘れたが、渡辺綱が切り取った鬼の腕(大江山の酒天童子)は何を象徴しているのかという疑問を教授(大貫三郎)が持っていたのは覚えている。
また、イギリスという国は遥か昔から権謀術策を繰り返してきたことを考えると、(それを国民性として良いかは別として)近現代の諜報活動の実力(OSS、MI6、MI5)は当然である事が窺い知れる。
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英国といえば「幽霊好き」。
ロンドンのゴーストマップや、ゴーストツアーはつとに有名ですが、本書はロンドンだけではなく、英国全体を網羅しています。特に、民衆に語り継がれている王侯の幽霊に絞られています。
元々幽霊が好きな国民性ではあるのですが、王侯に関する幽霊譚のほとんどが、「民衆の不満」を代弁する手段として使われたようです。
が、幽霊の目撃例がかなり信憑性が高いのも事実であり、ただの噂話としては切り捨てられないのがまた魅力的。
初めて英国に旅行した後で読んだのですが、先に読んでおけば良かったです……。
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ゴーストの話を取り上げて、イギリスの歴史を書いた本。
面白いんだが、似たような名前が出てきて混乱した。
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文字通りの内容なので、有名な幽霊話でも歴史に関係がないものは省かれている。内容に疑問を感じることも多いがまあ面白い。トマス・ブリンの首など、誤解を招きそうな表現や、不正確な記述が気になる。
ヨハネ祭は夏至の前後で、冬ではないし。
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英国人のゴースト好きのその様子も含め、なぜそのゴーストの伝説があるか、という切り口は面白い。
史実と伝承をもとに、ゴーストを訪ねる旅である為、
若干時代に偏りがあったりするのはやむを得ないが、もう少し幅広くとりあげられていると面白かった。
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イギリスの人達のゴースト(幽霊)に対する考え方が日本と違って面白い。恐怖というよりもっと身近な存在?
英国史とゴーストは切り離せないでしょ!と、妙にタイトルに納得して購入したけど大正解。
過去に何が起きて現代までゴーストとして語り継がれているのか、一味違う英国史が楽しめます。
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日本と英国の幽霊に関する想いの違いを知る本。
物言えぬ庶民の為政者に対する叫びの代わりが、
幽霊伝説であり、為政者による正史に書かれていない
史実もまた、幽霊伝説で語られる。
目まぐるしく国自体や為政者が替わる国ならではの、
市井の人々の想いにふれることができる。
そのほんの一部ではありますが、
興味深く読めました。
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歴史的に語られる人物評と民間伝承で
異なる評価があって興味深い。
人々の噂のほうが実は真実を
表しているのかもしれないと考えさせられる。
日本の偉人と呼ばれる人たちにも、
同じようなことがあるのか気になる。