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鬼子 上 (幻冬舎文庫)
鬼子(上)
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紙の本
いただけない(食えねー)。
2003/10/01 14:11
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投稿者:purple28 - この投稿者のレビュー一覧を見る
家庭内暴力は、ある日突然起こるものではない。
何かのきっかけがあり、態度が豹変したとしよう。それだけで済めば良いのだが、胸の内に秘めたもの、抑え込んだものが増長し、溢れたときに暴力となって現れる。
そもそも、豹変する原因となったものがあるはずである。それは、誰もが気付かない内に蓄積されたもの。芽の小さいうちは刈ることも可能なのだろうが、大きくなってからでは手遅れになる。
しかし、なかなか気付かない。気付けない。
どこで間違ったのか。何が悪かったのか。
暴力を振るう人間の周囲では、その異常な生活を正常なものに戻そうと考え、努力するのだが、それさえ叶わぬまま、“壮絶な日常”が繰り返される。
そんなとき、身内はどうするか。
祖母の死をきっかけに袴田の息子、浩が荒れる。
袴田にとっては思いあたることは何もない。
なぜ。どうして。
表面だけではなく、根本から正そうと右往左往するのはやはり、優しかった頃の息子を知っているから。
自慢の息子。心優しく、いい子に育った息子。
だからこそ、その息子に奴隷のように扱われる自分が哀れで仕方がなかった。
袴田は極上の文章で読者を魅了する恋愛小説家。非凡な才能を持った作家だと、思い込んでいる。
実際はデビュー作こそ売れはしたが、万年初版作家。編集者のお情けでやっと本を出版している。印税だけでは生活できず、パリで優雅な生活を夢見ながら実際はマンションの管理人をして生計を立てている有り様だった。
ピュアな恋愛小説を書いている自分が、こんな生活をしていることを、何人たりとも知られるわけにはいかない。
袴田の生活は、終始それに尽きていた。
袴田の書く文章が鼻につく。
「僕は、華穂のモンタナの草原に吹く風のような笑顔の、エーゲ海の黒真珠みたいな瞳の、ラズベリーの果汁のような赤く濡れた唇の、すべてに夢中なんだ」
「ばか、ばか、ばか、明人のばか……」
これでは売れないはずである。
そういう袴田だからこそ、彼の行動にもイライラさせられる。途中で何度も読むのを辞めようと思ったほどに。
ところが後半、ストーリーは意外な方向へと進んでいく。
もう、袴田の言動も腹立たしくない。
後は感想を挿む余地もなく、見守るだけの傍観者となってしまった。
浩が変わった理由は。袴田が見いだせなかった、本当の原因は。
悪魔はどこにいるのか。
ただ、結末はいただけない。
願わくば、もう少し救いを…。
新堂冬樹はどうやらこういう展開がお好きらしい。
“食えない作家”であると認識。
(紫微の乱読部屋)