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商品説明
西洋と日本の絵画・彫刻50余点を掲げ、各時代・各地域の人びとの生・病・老・死を読み解く。「イエスの集団はまず医療集団だった」などの意外な事実を含め、現代医療をも問う。医学誌『Vita』連載をまとめる。【「TRC MARC」の商品解説】
目次
- ◆西洋編
- 1 古代ギリシアの奉納板
- 夢と現実,医の原景
- 2 古代ギリシアの壺絵
- 人間愛あるところ
- 3 古代ギリシアの墓碑
- 死者と生者の共存
- 4 「エヒテルナッハ福音聖句集」
- 神の手,人の手
- 5 フラ・アンジェリコ「助祭ユスティニアヌスの治療」
著者紹介
立川 昭二
- 略歴
- 〈立川昭二〉1927年生まれ。早稲田大学卒業。現在、北里大学名誉教授。科学史・医学史専攻。「歴史紀行死の風景」で第2回サントリー学芸賞受賞。著書に「いのちの文化史」「病気の社会史」など。
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紙の本
「人の生き死に」の歴史を語る美術の価値とは
2003/05/09 00:09
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:北祭 - この投稿者のレビュー一覧を見る
京都東山に紅で有名な永観堂(禅林寺)がある。紅葉の庭をぬけ、諸堂に入り細く曲がりくねった順路に沿い、方丈、御影堂を越えると阿弥陀堂。そこに「みかえり阿弥陀如来」がある。この阿弥陀如来像は正面を向いておらず、振り返る姿勢をとった珍しい像となっており、その姿勢がとても人間的で味わい深い。なぜ、この仏はふり向いているのであろうか…この問いに答えはあるのだろうか。
本書は、「人の生き死に」の歴史を考えるといった視点に立ち厳選した54点(西洋編28点、日本編26点)の美術作品を題材とし、それぞれの作品の背景・歴史的意味・著者の思いを、ときに印象的な詩を引用しながら丹念に語る労作である。
挙げられる作品には、著者自ら現物に向き合ったというが、まず、その作品の選択がすばらしい。レオナルド・ダ・ヴィンチの「リッタの聖母」、レンブラントの「デイマン博士の解剖講義」、興福寺の「阿修羅」、永観堂の「みかえり阿弥陀如来」など、それらの作品が章の始めに堂々とカラー写真で紹介されている。これは実にありがたく、まずはじっくりと作品を鑑賞することができる。テーマが深遠であるがために、不意に食い入るように作品の写真を見つめる自分がいることに気付く、といった具合である。各作品についての文章は、単なる解説に終わらず、人間性を追及する集中力にみなぎっていて実に印象的であり、言葉に一貫して「生への慈しみ」が感じられる。著者の美術に対する思いは並ではないことが伝わってくる。著者は十七歳の夏、太平洋戦争にかり出される前日に奈良・京都へ赴き、「阿修羅」や「みかえり阿弥陀如来」という古き仏たちを守るためなら命を捨てても悔いはないと観念したのだという。なるほど、純粋にも美術を守るために命を張ったという強烈な体験者である、並であろう筈がない。
著者は「みかえり阿弥陀如来」の章において、医療者が患者とともに苦しみ悲しみを共にすることに心が及ばない事を嘆く。
<今日の病院では医師や看護師は忙しく病室を飛び回っているが、病室を出るときベッドの患者のほうをふり向く医療者がどれだけいるであろうか。じつは患者たちは白衣をひるがえして忙しげに出て行く医師や看護師の背中に目を凝らしているのである。P200>
この仏像が、仏教的な慈悲の心の表現のみならず、ただ人間として如何なる心が大切なのかを映し出すとき、そのとき美術作品としての尊い価値が生まれるのだと、本書は気付かせてくれた。
今度は、本書を手に永観堂を訪れることにしたい。きっと、ふり向いた姿に、美術の価値をみると信じて。