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読割 50
紙の本
人間の檻 新装版 (講談社文庫 獄医立花登手控え)
著者 藤沢 周平 (著)
男女の情が、親子の愛が、胸を打つ! 子供をさらって手にかける老人の秘密。裁きを終えた事件の裏に匂い立つ女の性(さが)。小伝馬町の牢内に沈殿する暗く悲しい浮世の難事を...
人間の檻 新装版 (講談社文庫 獄医立花登手控え)
人間の檻 獄医立花登手控え(四)
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商品説明
男女の情が、親子の愛が、胸を打つ!
子供をさらって手にかける老人の秘密。裁きを終えた事件の裏に匂い立つ女の性(さが)。小伝馬町の牢内に沈殿する暗く悲しい浮世の難事を、人情味あふれる青年獄医がさわやかに解決する。だがある日、かつての捕物の恨みから、登の命をもらうと脅す男が現れた――。著者が5年にわたって書き継いだ傑作シリーズ完結編。
【商品解説】
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紙の本
日常に湧いてくる文章
2007/09/04 14:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ばんろく - この投稿者のレビュー一覧を見る
栃木の三春に「ほうらく焼き」なる名物がある。三角形をした揚げで厚さは厚揚げ程もあるのだが、皮はうすく豆腐はやわらかく、しかも上等の油を使っているらしく、味は舌の上でとろけるようだった。普段食う百円で五枚の油揚げとは雲泥の差である。
大学時代の一人旅で初めて食べたこれほど旨い揚げに最初に浮かんだのが、本書の主人公立花登がおあきの嫁ぎ先の豆腐屋の店先で食わせてもらう油揚げに醤油の一滴が垂れた瞬間である。一時は不良娘だったおあきの行く末を少々心配してもいた登は、おあきに向って、あんたの旦那は豆腐作りの名人のようだなと目を細めるのである。今でも三春の味とおあきの店先は記憶の同じ所にしまわれている。
藤沢周平が亡くなったときは美しい日本語を書く最後の作家がいなくなったと言われた。近年は相次ぐ映画化に見られるように一般の”まじめな”評価が十分定着しているので、安心して少々変わった面から注目することができる。
藤沢周平は食べ物が巧い。もちろんここで彼が描いたのは栃木でもなければ三角でもない
もっと庶民的な(ほうらく焼きだって十分庶民的だが)豆腐屋の店先の変哲もない揚げであるから、小説の追体験をしたなどというものではない。しかしこういう瞬間は非常に愉快である。私自身の言葉では表せないうまさは、この作者によって確かに表現されたのであって、これを発見したときの喜びはひとしおであった。
実は藤沢周平が描く味覚については『よろずや平四郎活人剣(下)』で村上博基氏が触れているのでぜひ上下読んだ後に目を通して頂きたいが、本当に彼の描くものはおでんの大根、串に刺さったたまこんにゃくからしなびた菜っぱを刻んだ雑炊に至るまで涎の垂れんばかりである。特にひとたびこの様な経験をしてしまうと食い物の段落を読む集中力が変わるから面白い。読むとどこか思い出し、また読み直して、といったことに文字通り味をしめてしまうのである。
藤沢周平の描く人の内面は勿論素晴らしいけれども、それは確かな巧さに裏打ちされたものである。味覚だけでなく風景、仕草、表情ないたる箇所に見られる味わい深い表現、もしも映像でしか知らなかったら、是非その日本語を読んでみるとよいと思う。日常でぽっと湧く言葉に幸せを噛みしめる瞬間が増えるだろう。
注)本書『人間の檻』は獄医立花登手控全四巻のうちの最終巻。
紙の本
人情や愛情、過去によって縛られた人間が犯す罪。奔走する立花登。そしてひとそれぞれの道を歩み始める
2010/01/20 19:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
獄医立花登手控シリーズ第四弾。
各話の獄医立花登が直面する深刻な事件とは反対に、時々挿入される登が居候する小牧家の様子はホームドラマ的であり、このシリーズの魅力。
獄医立花登手控シリーズの最終巻となる本書は、その小牧家に関して展開を見せ、おちえとの距離がなくなる光景は読者の期待を裏切らない。
読み終えて「面白かった」と素直に言える作品である。
『戻って来た罪』
腹に腫物ができ、先の長くない彦蔵は、自分が犯した遠い過去の罪について、登に話し始めた。
子供をさらって、相棒の磯六が子供を殺したというその罪は、おちえの人さらいの話しから、再び戻ってきたように思われた。
とにかく何者だか分からない状況から始めた登と岡っ引き藤吉の犯人探しは、焦燥感を増していき、わずかな糸口から犯人を絞っていく様子は、とても惹き付けられる。
犯人の狂気と哀惜を描いた作品。
『見張り』
登は囚人の作次から出牢した二人が、登の知り合い酉蔵を仲間を引き込んで押し込みをするという話を聞いた。
登が酉蔵に忠告した後日、登に押し込みの話をした作次が殺された。
酉蔵を助けようと走り回る登の姿が、緊迫感をつくり、名前に似た酉蔵の人物像がユーモアを漂わせている。
診療代の支払いが溜まっているからと叔父の家に行くのを遠慮する酉蔵夫婦と金はいつでもいいという叔父は、とても人間臭く暖かい。
『待ち伏せ』
出牢した三人が立て続けに殺された。しかし三人に何のつながりも見つからない。
危険が予測される四人目の出牢者は馬六。果たして出牢した馬六に付きっきりの見張りが立てられた。
犯人の悪知恵が働いた犯行の真実に驚かされる。
皆は懸命に馬六を守ろうとするなか、危機の渦中のある馬六に緊張感はなく、シリアスでいて肩の力を抜かせてくれる作品になっている。
『影の男』
出牢を前に、甚助は無実だと言った喜八。
六蔵が触れ回っていた怪しい男を見かけたという話が、真犯人を闇へと隠す。
巧妙に仕組まれた犯行が、甚助の無実の証明に動き出した岡っ引き藤吉を焦らせ、読者までも引き込んでいく。
女の情が事件解決の鍵になっているが、「長い、ふりしぼるような悲鳴をあげた」という一文が、女の複雑な気持ちを表して、とても印象に残った。
『女の部屋』
犯されそうになった大黒屋のおかみを助け、相手を殺した手代の新助。
登は大黒屋の娘の治療に行ったとき、主がおかみにある疑いをかけているのを聞き、新助の殺しの顛末に疑問を持った。
意外な事件の真相が、推理物の常識を破る。
多情で色気のあるおかみの罪は深い。
『別れゆく季節』
登は黒雲の銀治につながる者だと言う兼吉から、登と黒雲の銀治が捕まる原因となったおあきを狙うと脅された。
兼吉が釈放された翌日、登は早くも三人の男から襲われた。
シリーズ第三弾「愛憎の檻」で起きた黒雲の銀治とおあきにまつわる事件が尾を引いた事件。
追いつめられる登の死闘や、男運のなかったおあきの新しい人生が魅力である。
多少の愛惜を漂わせながら明るい未来に向けて終わるこの物語は、シリーズを締めくくるに相応しい。