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単独者の実験的思考
2002/12/15 00:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの絢爛にして香気あふれる『プラトンと反遠近法 』で一般読書界(そんな世界がどこかに実在するのかどうか)に鮮烈なデビューを果たした神崎氏は、本人もあとがきで書いているようにプラトンやアリストテレスといった古代哲学が専門で、いわゆるニーチェ学者ではない。
左近司祥子さんはある書評でニーチェ専門家が書いたものではないから読んでみる価値があるといった趣旨のことを書いていた(うろ覚えなのでやや怪しい)。この書評自体、ネコ派(左近司)対イヌ派(神崎)の熱い「確執」が底流に流れているにもかかわらず、心温まるエールの込もったとても素敵な文章だったのだが、たしかに業界で名の通ったニーチェ専門家のものに比べると読後感が新鮮だった(などと言えるほどにニーチェ本を読み込んだわけではないけれど)。
でもニーチェと古代哲学末期の、たとえばストア派の思考とは確実につながっていることは確かなわけで、神崎氏の本もそこのところはきちんと踏まえている(本当はヘレニズム期の諸思潮について書きたかったのだが、シリーズの性格上やむを得ずニーチェで「代用」したとぬけぬけ書いている)。
まず、ニーチェ=引きこもり説(第1章「悲劇とソクラテス──ディオニュソス的二重性」)に始まり、ルクレティウス的死者の視点をもった「実験としての単独者」の海抜六千フィートからの思考(第2章「生と死の遠近法──至福体験の影」)を介在させて、世界への引きこもりとしてのニーチェのキュニコス主義を語る(第3章「永遠回帰──「メニッペア」風に)その構成自体が、ニーチェを論じながらも本当に書きたかったストア派やエピクロス派や懐疑論といった諸思潮について実は語り、9.11以後の第二のヘレニズム期ともいうべき「世界情勢」を睨みながらも「世界」への態度(同情の禁止)という一点においてそれらの諸思潮が現代においてもちうるアクチュアリティを甦らせているのだから、神崎氏の力量と人の悪さは相当なものだ。
とりわけ、紀元前三世紀キュニコス派(犬儒派)の哲学者メニッポスに由来するメニッピア(メニッポス流の風刺、高みからの哄笑)をめぐって、バフチンが『ドストエフスキーの詩学』で十四の項目にまとめたその特徴がことごとく『ツァラトゥストラ』にあてはまることに気味が悪い思いをしながら(「実は、多少の思いつきも手伝ってこの比較を始めたものの、あまりの符合に途中から気味悪くなった」と正直に、しかしぬけぬけと「感想」を述べている)、『吾輩は猫である』と『ツァラトゥストラ』の同類性を喝破した丸谷才一の説を敷衍して漱石へのニーチェの影響や『草枕』の「非人情」という考え方にメニッピアの影を見たりと、言いたい放題を尽くした第三章はまことに圧巻である。こういう書物を私は好きだ。