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雨に祈りを (角川文庫)
愛するフィアンセと幸せに暮らしていたはずのカレンが投身自殺した。ドラッグを大量に服用して。カレンを知るパトリックは、事件の臭いをかぎとるが――。【商品解説】
雨に祈りを (角川文庫)
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傷ついたもの同士の結束を暴力的に描く
2002/11/03 20:08
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハードボイルドが一世を風靡して以来、外国の私立探偵は女性にモテて、女性にほれやすく、そのため事件に巻き込まれ、さらに事件を複雑化させるのが相場です。レイモンド・チャンドラーが生んだフィリプ・マーローという探偵が、「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなに優しくなれるの?」と女に訊ねられたとき、こう答えるのである。「しっかりしていなかったら、生きていられない。優しくなれなかったら、生きている資格がない」と。
このようなキザなセリフをつぶやいて女ごころを蕩かす探偵は「タフな行動的人間であると同時に瀟洒な社交人」でもあると丸谷才一は紹介しています。
『雨に祈りを』の主人公である私立探偵ですが、題名からするとマーロー的ダンディズムを髣髴させ、しかしそうであれば私としてはセンスの古めかしさに興味半減といったところです。
裕福な家庭で育てられたような娘さんが執拗なストーカーに悩まされている。女性には無類の優しさをもっている探偵パトリックは直ちに行動をおこし、このストーカーを懲らしめます。これだけであれば昔ながらの私立探偵パターンですね。ところが懲らしめる方法が「タフで行動的」なんてものじゃない、あまりにも過激(恫喝と破壊と拷問)でこの作品の導入部分から私はうれしくなってしまいました。これは女性に対する優しさの裏返しなのでしょう。さすが『ミスティック・リバー』の暴力世界を書いた作者であります。チャンドラーとは似て非なるハードボイルドでありました。こうでなくては古典ハードボイルドを超えることはできません。
この依頼人が半年後に色情狂とされるまでに転落し、全裸で投身自殺をする。そしてその背景には彼女を破滅に追いやった邪悪な意図が存在していた。で、この真相に迫るお話。この探偵のガールフレンド(昔なら情婦と言ったものだが)はかつてマフィアの大物を祖父に持つ、男と銃と肉体を自在に操る凄いやつである。もう一人お友達がいて、これは見るからに獰猛で、じっさい凶暴、前線でこそ有能でしなやかな戦闘員である。
この三人が結束してかかっても容易に太刀打ちできないほどの冷酷、残忍な奸智にたけた敵との血みどろ戦いがこの『雨に祈りを』(とてもタイトルからは思い至りませんでした)のすべてである。陰惨な愛憎劇なのだが、それに乾いたハードコアバイオレンスと登場人物のブラックユーモアに満ちた軽妙な会話を巧みにブレンドさせ、一気に読ませる。
デニス・ルヘインには一つの美学があるようだ。「友情」と表現するには叙情的に過ぎるのだが、「傷ついたもの同士の絆」というべきか、社会秩序や倫理には程遠いところに群れている人たち、生きることに原則があるとすれば、利害を超えたその仲間関係の存続である。その唯一の原理を犯す外敵に対し命をかけて戦う。この生きざまに対する礼賛あるいは憧憬である。
既存の原理・原則が通用しなくなったまさにカオスの状況にあって、それは「祈り」なのかもしれない。