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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2002.8
- 出版社: みすず書房
- サイズ:20cm/247p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-622-05139-7
- 国内送料無料
紙の本
波止場日記 労働と思索 新装版
鉱山夫、農業労働者、港湾労働者として社会の基底を生きてきたホッファー。1958年6月〜59年5月にかけての、沖仲仕生活をヴィヴィドに描いた日記。初版1971年刊の新装版。...
波止場日記 労働と思索 新装版
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商品説明
鉱山夫、農業労働者、港湾労働者として社会の基底を生きてきたホッファー。1958年6月〜59年5月にかけての、沖仲仕生活をヴィヴィドに描いた日記。初版1971年刊の新装版。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
エリック・ホッファー
- 略歴
- 〈エリック・ホッファー〉1902〜83年。ニューヨーク生まれ。さまざまな職を転々とし、67年より著作活動に専念。著書に「大衆運動」「情熱的な精神状態」「変化という試練」など。
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紙の本
シンプル・ライフ・イズ・マイ・ウェイ
2010/02/24 20:24
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
エリック・ホッファーは、7歳にして母を失い、同年、不明の原因により盲目となった。15歳の時、失明したときと同じく突然に視力を回復した。18歳で父と死別。レストランの皿洗いをふりだしに職を転々としながら図書館で独学した。
34歳の冬、転機がおとずれる。一冊の本とともに一人鉱山にこもり、『エセー』を三度読みかえした。モンテーニュとの出会いに必然性はなかったが、出会いの結果は運命的であった。「生まれて初めて、私にもこういったものが書けるかもしれないと考えた」
読む人から書く人へと立場をかえたのである。
本書は、二つの著書を刊行したあと、思索の危機を感じて書きはじめた日記である。ホッファー、ときに56歳、沖仲仕。1958年6月1日にはじまって翌年5月21日に終わる。事の性質上、前後の脈絡はとくにない。日々の出来事、観察、想念が断片的に綴られる。断片的ではあるが、繰り返し書きこまれる話題があって、おのずから関心の所在を示す。
関心は、おおきく二つに分けることができる。
第一に、波止場ではたらく人々である。組んで作業するパートナーの人となりは、頻繁にスケッチされている。そして組合、組合活動家。ホッファーが好んでとりあげるのは、普通のアメリカ人である。つまり同僚であり自分のことであり、大衆のことだ。大衆の対極にたつのが、知識人である。ホッファーにとって、知識人は労働に従事しないばかりか、労働する人を言葉によって操作、管理、支配しようとする胡乱な存在にすぎない。
「午前10時。組合の集会に行った。抽象的な問題についての議論の浅薄さと実際的な問題の処理の独創性とが、今日も対照的であった。集会の前半ははまったく退屈。ソーベル事件が主題。後半の議題は組合本部の貸借およびくず鉄仕事のぺてん師の処分方法について。提案された解決法は独創的で簡潔なものであった。簡潔さは頭の切れを感じさせる」
「たびたび感銘を受けるのだが、すぐれた人々、性格がやさしく内面的な優雅さをもった人々が、波止場にたくさんいる。この前の仕事でアーニーとマック--あまり面識のないかなり年輩の連中--としばらく一緒になったが、ふと気づくと、この二人はなんと立派な--寛大で、有能で、聡明な--人間なんだろう、と考えていた。じっと見ていると、彼らは賢明なばかりでなく驚くほど独創的なやり方で仕事にとりくんでいた。しかも、いつも遊んでいるかのように仕事をするのである」
第二に、読書と思索である。読書は、随時、仕事の休憩時間にもおこなわれる。亡命作家の回想録からアラブ現代史まで、手にする本のジャンルは幅広いが、ことに現代史に対する関心が強い。
常にノートをたずさえて書きこみ、いっぱいになると検討する。保存する価値のある引用文や思想は、別のノートへ写しとる。こうした作業のうちに、次の著作の主題が煮つまってくる。変化である。洞察は、日記にも記される。「もし南部のニグロが真の平等を得たいのなら、ニグロは自分の力で闘いとらなければならない」
自分の力で闘いとるとは、ホッファーによれば、たとえば優秀な職業学校、あるいはモデル相互扶助組織である。
独立と自由。生活はごく簡素である。 「私が満足するのに必要なものはごくわずかである。一日二回のおいしい食事、タバコ、私の関心をひく本、少々の著述を毎日。これが、私にとっては生活のすべてである」
「自分のいだいている観念を考え抜くためには知的孤立が必要である」
「私は緊張するのだが大嫌いなので、野心をおさえてきた。また、自己を重視しないよう、できるだけのことをしてきた」
『波止場日記』が閃光のように照らし出すのは、米国大衆の最良の一人、その貧しく孤独ではあるが充実した日々である。労働生活のなかで読み、かつ、思索するシンプル・ライフである。
紙の本
彼はサンフランシスコ湾沖仲仕として労働にはげみ、余暇のすべてを読書と思索にささげた.(カバー著者紹介より)
2003/10/13 22:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
感度高いアンテナで人文・社会科学の話題書を紹介される小林浩さんが、生誕100年記念刊行の『エリック・ホッファー自伝』につけたレビューを読み、ずっとこの社会哲学者の名を意識に置いていた。50〜60年代に刊行された翻訳書には版が切れたものもあるが、自伝、アフォリズム、日記という異なる形式の3冊が入手可能で、つい最近『エリック・ホッファー・ブック』という読本も出版されている。
母親と死別した7歳に視力を失い、15歳で視力を突然回復。正規の教育を受けられなかった代わりに、1日の大半を読書に費やす。10代のうちに父とも死別し、職を転々とするなか思索と執筆の日々を送ったこの哲学者の経歴は、正直、労働のなかで練られた思弁の内容そのものよりもはるかに興味をそそられるものだ。
しかし、経歴のドラマ性に圧倒されたあとでは、金言の意味するところを率直に受け止めるに差し障りがあろう。色眼鏡を掛けて思想の方向性を分類、評価するようになるのではもったいない。自伝はあとに回すことにした。
それでも最初にアフォリズムではなく日記を選んだのは、まだ結晶化されない思想がどういう問いかけのなかで生まれてくるのか、厳しい労働の日常にあって精神生活はどう守られているのかといったことを知りたいと思ったからである。
1951年、49歳での処女出版『大衆運動The True Believer』以後も、港湾で荷物の積み下ろし人夫としての労働生活をつづけたホッファーの1958年6月から59年5月の日記である。
朝、組合に出かけ、その日の仕事を請け負う。どの埠頭の何という名の船で何時間働いたかが、日記の多くの書き出しとなっている。沖仲仕はパートナーと組んで行う仕事らしく、相方がどのような人種のどんな気性の人間で、その結果どういう時間を過ごせたかが記録されている。
肉体を使う厳しい業務ながら、時に海の色の変化や様々な船の出入りも眺められる環境にあること、また、国籍の違う船ごとに積荷の大小や重量、品物の種類に変化があり、個人の熟練や技術、モラールによって、段取りや疲労度にかなり差のある仕事であることが分かる。
ホッファーに特徴的なのは、自身が告白している通り、余暇がたくさんあるから思索や執筆がはかどるのではなくして、労働の合い間の読み書きだからこそ、精神生活が成り立つという両者の相互作用である。加えて、ひとり部屋にこもり言葉をもてあそぶのではなく、仕事仲間との語らいのなかから考える契機を得たり、仮定についての確信を得ている。労働と思索の一体化が人間や世界への洞察を支える。
歴史書、哲学書、紀行、手記、思想書に小説と、手に取った本の題名が多く挙げられる。そこから得た知識を、人種や支持するイデオロギーの異なる相方に投げかけ語らっては、自分の思索に立ち返って滋養にしていく様子がよく描かれている。
他者に傾聴されたい、重視されたい知識人が陥る罠、監督者を必要としない労働者のもつ創造性、西欧とイスラムに見る宗教と国家の対照的な関係、米国社会に貢献した大衆の活力、そして「変化」という言葉で世界を解いていこうという本の構想。観念論者のための哲学ではなく、生活者の充足のための哲学が息づいている。