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紙の本
表紙をめくってみれば、そこは白きイカ舞う北野ワールド
2002/11/12 20:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
『かめくん』『ザリガニマン』に続く小説だが、他にも似たというか不可思議な作品を書いているので、壮大な北野不条理宇宙史の一挿話とでも言うべきだろうか。
小説家Kは、専業作家ではない。売れないSFもどきを書いているおかげで、それだけでは暮らしていくことが出来ない。だから倉庫の作業員仕事をして暮らしていた。しかし、不景気影響でその仕事にすら就くことが出来ない。妻の忠告を無視して働き始めたのは、ガソリンスタンドの従業員が紹介してくれた工場。
コンビニの裏にあり、社員は勿論、アルバイトまでが知っているというイカ星人の秘密工場で作るものは、様々なイカ製品。しかし彼ら「イカ星人」を「イカセイト」と呼ぶことはあまり知られていない。それをKに教えてくれたのは、団地に住む彼の父親だった。
父親の仕事はイカでテレビを作る研究。イカセイジンの技術を使って、それを成功させるという。そのとき父が呟いた「イカ星人と書いて、イカセイトと読むのが正しいんだよ。…これを、逆さまに読むと…と、い、せ、か、い。・・・遠い世界」。また始まったか、駄洒落世界、と思ったら大間違い。作者はきわめてマジである(はずだ)。
これが作品の冒頭のイカソーメンの部の一部文。話はイカリングの部、イカメシの部、イカ星人のあとがきと続く。子供の頃の思い出、会社の危機、イカソーメンの性状、地球防衛軍、レンタルビデオ、誘拐事件、UFO、塩辛、メビウスの帯、イカリングワールド、火星探索、イカの解体。この雑多なというか、全く関係のなさそうなものが、あまり関係がないままに話の主題となっては消えていく。
これが、最後に見事に連関して全てが解き明かされる、はずがない。だから北野勇作。村上春樹『海辺のカフカ』のなかで、田村カフカが図書館員の大島に、カフカの小説について「カフカは僕らの置かれている状況について説明しようとするよりは、むしろそのことを純粋に機械的に説明しようとする」と語る場面ある。私が思ったのは北野勇作のことだった。
不可思議な世界は、説明されるべきものではない。既にある現実。だから、その成り立ちではなく、その世界のありようそのものが描写される。そのズレの微妙な面白さ。それは読むことでしか味わえない。奇妙な人間関係、冷静に読めば寒くなるような、それでいて不思議に温かい駄洒落というか言葉遊び。
前田昌宏の愛らしいカバー画に騙されてはいけない。表紙を開いてみると、思わず本を投げ出したくなるような光景が目に飛び込んでくる。貴方は、この恐怖に耐えられるか。通り抜ければ、そこは白いイカの身が舞う異化世界。いやいや、書いているこちらの調子が狂ってくるような、不思議なイカ世界がある。北野ワールドにようこそ。
紙の本
今が読み頃かな
2002/08/25 14:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:せいいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
2001年の日本SF大賞を「かめくん」で受賞した作者の最新作です。「かめくん」「ザリガニマン」「どーなつ」ときて、この「イカ星人」はまさに円熟の境地に達したといいましょうか、口当たりは良いけれどもかみしめるとなかなか複雑な味わいに仕上がっています。ほのぼのとした表紙イラストにだまされることなかれ! かなりグロテスクなエピソードも出てきます(この作者の手にかかるとあまり陰惨な印象はなくなりますが)。私が今作で特に気に入ったのは「言葉遊び」の部分です。以前の作品からそういう傾向はありましたが、ここではかなりそれが爆発しています。田中啓文氏の文章を連想する向きもあるかもしれませんが、ベクトルの方向は違っているように思います。「イカ星人」という言葉自体をさまざまに料理してくれています。エンディングの一文は特に痛快でした。