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紙の本
メディアの陥穽
2009/10/23 01:00
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:FAT - この投稿者のレビュー一覧を見る
「慶安の御触書」
日本史のお勉強のとき、江戸幕府が農民の生活統制=年貢確保のために出した「お節介法令」(いわば江戸時代の軽犯罪法)というイメージがある。
衝撃的だが、この「慶安の御触書」というものは、実は「幕府法令」として実在したものではなくて、原型が別にあり、それが後世(19世紀第2四半期以降)になって、慶安時代(1649年)に幕府によって全国に発令されたものとして「法令集」などに掲載され、多くの藩で採用されたものだそうだ。そもそも、慶安時代に発布された触書そのものというのは、全く発見されておらず、明治期からその実在性については疑念を抱いていた学者もいたというのだから驚きである。
問題は、なぜ後世の「情報操作」によって、有りもしない幕府法令の存在が広く信じられるようになったのかということだ。
本書では、松平定信によって試行された「法令を町方に印刷物で配布」という新しい情報伝達ルートの開拓(情報メディアのイノベーション)したことをその背景要因と上げている。時代背景に「天保の飢饉」などの影響で、農村が荒廃しており、その立て直し方策の一貫で、「慶安の御触書」と称する法令が町方・農村に印刷物として配布された結果、全国規模で(その真偽も疑われずに)普及したという仮説である。
この仮説の妥当性はともかく、情報が新しいメディアで伝達され始める時、その情報の信憑性というか、情報提供者による操作可能性については、そのメディアに関する市民のリテラシーが追いついていない。よって、信憑性の低い情報や操作されている可能性の高い情報が急激に拡散するという視点は、現代においてもウィキペディアやブロゴスフィア、はてブ等のネット上のCGM的メディアで生じている事象の分析視角として有効だと思う。
いずれにせよ、この「慶安の触書」問題は、情報メディアにイノベーションが生じた折りに、そのメディア、そしてそのメディアによって拡散した情報を後世に受領する人々が陥る「落とし穴」、陥穽を良く示している。
情報メディアを巡る問題は、江戸時代でも現代も似たり寄ったりということ。