紙の本
<怪物くんみたいな吉本隆明さま>
2001/08/09 16:54
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投稿者:みなとのヨーコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本を読む前、精神状態がどうにもおぼつかなかった私に健康的な浄化作用をもたらしてくれた“目から鱗”本です。「人に惑わされるよりも、あんたの根っこはどうなんだい?」という、聞こえないけれど説得力ある言葉のおかげだと思います。
語られる各テーマの最初に、優秀な聞き手・糸井さんの味のある一言、これもたいそうなスパイスとなっています。ともするとちょっと頭を捻らないと自分のものになりそうもない、そんな抽象的なテーマがあったとしてもこれがあれば大丈夫です。
吉本隆明ワールドをとつとつと、まるで耳で聞いているようなそんな錯覚にさせてくれる、噛み砕くのにも心地よい吉本節です。時にはドキッとすることを発する、怪物くんのようなんです。ご自分の言葉で語る本気の言葉の根っこは相当に深く、ちょうどいい人肌温度は甘過ぎもなく、辛過ぎもしない。
「教育ってなんだ?」のパーツで展開される今後の教育論、これが実現したら日本の靄も晴れるんじゃないだろうか。「挫折ってなんだ?」にいたっては筋金入りで究極な言葉の綴りで、平和ボケしてる私には効きました。「性ってなんだ?」もなかなかどうして! 新発見でした。今に始まったことじゃなくて、はるか昔からの普遍的さ、時代の変遷と現代との結び目だらけだな、と思いました。
仕事してても、遊んでいても、町に出ても、テレビをつけても、ラジオをつけても、申し訳ないけれど、覇気のない、毒気もない先輩たちが多くないですか。“もう俺達の時代じゃない、あとは任せたぞ!”って言うのはそれはそれで大変ありがたい言葉だけれど、その前に「時代と関係なく、あなたご自身の根っこはどんなものですか?」とお聞きしたいなぁ…なんて思う次第でございます。
おつむがいきなり大噴火して珠玉の言葉を紡ぐ、怪物くんのような吉本隆明さまを存分にご堪能ください。
紙の本
目指せ!芯のある自由人!!
2001/11/09 11:47
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投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『週刊プレイボーイ』の1999年5月中旬から2000年1月中旬までに「悪人正機頁」として連載したのを加筆、編集されたものが本書だそうだ。
吉本隆明が話者、糸井重里が聞き手という立場で構成されている。糸井さんが色々な疑問を吉本さんに投げかけて、それがテーマとなって吉本さんが語る。
テーマになるものは、ありとあらゆる漠然としたもの、すなわちわかりきっているようで言葉にするにはどうも難しいかなというものが取り上げられている。いくつかを抜き出して紹介してみると次のようになる。
「生きる」ってなんだ?
「友だち」ってなんだ?
「仕事」ってなんだ?
「正義」ってなんだ?
「宗教」ってなんだ?
「戦争」ってなんだ?
「家族」ってなんだ?
「性」ってなんだ?
「ネット社会」ってなんだ?
「お金」ってなんだ?
吉本さんは決して悪舌ではない。しかし、物事の見極めがはっきりとできているので、言葉はきわめてスッキリしていて鋭く、目からウロコをコリコリと落としてくれる熊手のようでもあり、奈落の底へ指一本で突き落とされるようなパワーも感じる。
たとえば、「仕事」ってなんだ?と聞かれると、「人間というのは、やっぱり24時間遊んで暮らせてね、それで好きなことやって好きなとこ行って、というのが理想なんだと、僕は思うんだけど。」っていきなり言ってしまう。
上司の善し悪しについても、「それより、建物なんですよ。理想的な建物が理想的な場所にあって、ある程度以上の会社だったら、毎日来てもいいやって気持ちになりますね。」だって!
職場から家への帰り路にお気に入りの本屋が一件ある。だからこの職場気に入ってるんだって言ってもいいってことかな。何も目くじら立てて、やりがいだとか自分がいかに重要なポストについているかなんて、元々ないものを必死で探さなくてもいいんだなってフ〜ッと肩の力が抜ける思いがした。
吉本さんは、人生をそこそこに諦めろってことを言っているのではない。惑わされるなよ、そして、意味のねぇ不安に怯えるこたぁないんだぜ、と言ってくれていると感じた。
勇気と元気をもらって、私は大声で宣言した。「目指せ!芯のある自由人!!」
だが急ぐなよ、急いだらおまえのような凡人は、ただの「バカな頑固者」になってしまうぞ、と自分に言い聞かせた。
スロー、スロー、クイックはなくてスロー、スロー…。
紙の本
何時でも何処でも、何処からでも、気の向くまま読めます
2001/10/06 22:45
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投稿者:マユゲ猫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
内容に自信があるといわんばかりに装丁がとってもシンプルだ。その上に帯がついていて、これがなんだろう?と手にとらせる。興味を持たせるんです。
帯に書いてあるのは、きっと毎日新聞雑誌に必ず載っているような単語ばかり。善とか、悪とか、殺意とか、スポーツとか、ネット社会とか…誰でも知ってる言葉だけど、吉本センセは意表をつく回答を出してくれます。ぶっ飛びそうな大胆発言も、難しい喩え話も、聞き手の糸井さんのコメントが、より判りやすくフォローしてくれてます。新鮮な意見が聴きたい人にお薦めデス。
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仏教用語である悪人正機。悪こそ救われるべきである、という意を含む。本書ではさまざまな出来事を著者が哲学するような内容であった。高校の時に読み、吉本さんが好きになった思い出がある書だ。
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吉本さんの著書を読んでみたい!と思って、いくつか有る中で選んできました。理由は一番字が大きかったから(苦笑)。
糸井さんがお話お訊きする形。吉本さん話の面白いおじさまでした。「10年続ける」話は、昔父がよく言ってたけど、父の持論だと思っていたので活字で読んでびっくり。
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吉本隆明さんの言葉を、糸井重里さんが、わかりやすく書いてくださっている。
糸井さんは、「誰もが思っているけれど、あえて言葉にしない事柄を、隆明さんはずばっと言葉にしていまうところがすごい」といったニュアンスのことを書かれていた。
確かに、わたしもすごいことだと思った。
けれど、こわいことでもあると、思った。
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-働くのがいいなんてウソだよ-
「悪人正機」とは悪人=普通の人、こそが救済の対象、という仏教の教えの中の言葉。タイトルを受けるように「ダメでいいじゃん」と思想界の巨人、吉本隆明さんがさとしてくれる。私が印象的だったのは「石の上にも3年といわず、10年だ」とか「サラリーマンが帰りに一杯愚痴を言い合うなんて幸せだ、いいことだ」というようなくだり。吉本隆明入門本としてもGOOD。因みに、この方、ハルノ宵子と吉本ばななのお父さんです!
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悪人正機という表題ではあるけど、それについて語る書ではない。ないけれど、我々を取りまくコトバの数々を手がかりとして、情況を吉本さん的に(糸井重里さんを目の前において)話し解(説)いてく姿は説教するお坊さんにも見えてくる。聞き手である糸井さんの力量もあり、吉本さん「らしさ」をも損なわず、とても読みやすく仕上がってた一冊です。
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・仕事は自分の機能を高めることを問題とする
・上司より同期と建物が大事
・円満な家庭はないけれど子どもが生まれて1年は我慢しろ
・十年やれば一丁前
・情報源は新聞があれば事足りる
・綾戸智絵の声は意識的に修練して創りあげられたもの
・日本の文化を支えるのは週刊誌
・資産家になるには借金も財産だと思え
最近ほぼ日ばっかり読んでいるせいか
糸井さんに感化されてきた気がする笑
吉本さんもそれで知ってこの間講演会の本を読もうとしたんだけれど
難しくて何言ってるのかわかんなくて途中で投げてしまった…
でもこれはとても読みやすい。たぶんテーマが身近だからだと思う。
生きるって、仕事って、素質って、声って。
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「鈍刀のほうが、実はよく切れるんだぜ」「大学に行くのは失恋の経験に似ている」なんていうような、しびれる言葉が満載です。全部が全部素直に飲み込める話ではないけれど、物事の関係性への視点に唸る一冊です。
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(2012.04.10読了)(2011.12.11購入)
2012年3月16日に吉本隆明さんはお亡くなりになりました。ちょっと遅くなりましたが、追悼のために読んでみました。
色んなテーマについて、糸井さんと話したことを糸井さんがまとめたものです。各テーマについて糸井さんの感想が述べられています。糸井さんらしいコメントです。
初出は、「週刊プレーボーイ」1999年5月11日~2000年1月1日、です。
各テーマについて、深く考察した結果が述べられているのだろうと、ちょっと緊張気味に読み始めたのですが、いったん糸井さんの脳を経由したためか、ごく普通の老人のお茶飲み話という感じで、かなり気楽に読めます。内容も普遍的というよりは個人的という感じです。こう思うということは書いてあっても、なにゆえにそのように思うのかの根拠があまりないようです。1970年代ぐらいまでの著作を読むほうがよいのかもしれません。
【目次】
まえがき 糸井重里
「生きる」ってなんだ?
「友だち」ってなんだ?
「挫折」ってなんだ?
「殺意」ってなんだ?
「仕事」ってなんだ?
「物書き」ってなんだ?
「理想の上司」ってなんだ?
「正義」ってなんだ?
「国際化」ってなんだ?
「宗教」ってなんだ?
「戦争」ってなんだ?
「日本国憲法」ってなんだ?
「教育」ってなんだ?
「家族」ってなんだ?
「素質」ってなんだ?
「名前」ってなんだ?
「性」ってなんだ?
「スポーツ」ってなんだ?
「旅」ってなんだ?
「ユーモア」ってなんだ?
「テレビ」ってなんだ?
「ネット社会」ってなんだ?
「情報」ってなんだ?
「言葉」ってなんだ?
「声」ってなんだ?
「文化」ってなんだ?
「株」ってなんだ?
「お金」ってなんだ?
あとがき 吉本隆明
●解決のための処方箋を語る人々(2頁)
正しそうに見えることば、りこうそうに見える考え方、ほめられそうなことば、自分の価値を高めてくれそうな考え方、トクをしそうな考え方、敵を追い落とすためのことば、流行の考え方、仲間外れにならないためのことば、そういうものばかりが目立ってしかたがない。
●死は自分に属さない(18頁)
たとえば臓器提供における本人の意思が云々の話にしても、いくら自分のハンコ押したって、てめえが死ぬのなんかわかんねえんだから、結局は近親の人が判断するしかないんですよ。死を決定できるのは自分でも医者でもない。要するに看護してた家族、奥さんとかですよね。
●好きなことを(58頁)
普通の人がぜいたくして、いい洋服着たりうまいもの食ったりっていう、そのテーマがなくなっちゃったら、歴史の半分がおもしろくねえってことになっちゃうんですよ。
●重要なのは建物(78頁)
会社において、上司のことより重要なのは建物なんだってことです。明るくって、気持ちのいい建物が、少し歩けばコーヒーを飲めるとか盛り場に出られるような場所にあるっていう……そっちの方が重要なんだってことなんです。
●アメリカの使命(85頁)
世界であらゆる不正な事件があったらそれに対してちょっかいを出すというか、介入するというね。何かあったら「やめろ!」というのは、自分らの使命なんだっていうことはあるんじゃないでしょうか。
(イスラエルに関しては、非人道的な行為が行われても、一向に介入する様子はありません。)
●都会がいい(92頁)
都会には遊ぶ場所が多種類で、しかも、いっぱいあるってことと、金銭が取れる仕事も多種類あって、職業につきやすいということ。それと、何かにつけ便利だということです。交通が便利とか、教育を受けるのにも便利だとかね。
●宗教と唯物論(111頁)
僕は宗教と唯物論と、どっちに興味があるって言ったら、はるかに宗教の方に興味があります。そのことに理屈をつけるとしたら、宗教には幅とか領域とか広さっていうことのほかに、深さっていう概念が通用する。しかし、唯物論はもう、非常に平らな表面だっていうことですね。
●戦死(120頁)
親父は第一次世界大戦で中国の青島とかの攻撃に参加してたんですけど、「自分の隣のやつは、塹壕の中で降雨を凌いでたら、上から土砂が落ちてきて死んじゃったし、腹痛くなって下痢続きで衰弱して死んじゃったとかね。そいう方が多いんだよ。結局、戦死っていうけど、本当にドンパチドンパチやって、それで死んだなんて、そんな調子いいの、あんまりないんだよ」っていうんだよ。
●核兵器(132頁)
現存の核に関する条約のおかしいところは、要するに核兵器を持っているやつは持ったままで、持ってないやつに、今後は持つなって言ってるわけですよ。
●お金(274頁)
お金は「ない」とものすごく参っちゃうんもんなんだけど、「ある」と、なかった時のことなんかケロッと忘れちゃって、勝手に使っちゃうんですね。
☆吉本隆明の本(既読)
「共同幻想論」吉本隆明著、河出書房、1968.12.05
「ダーウィンを超えて」今西錦司・吉本隆明著、朝日出版社、1978.12.10
略歴 吉本 隆明
1924年東京・月島生れ。
1947年東京工業大学理学系化学科卒業。
1954年『転移のための十篇』で荒地詩人賞を受賞
2003年『夏目漱石を読む』で小林秀雄賞を受賞
2003年『吉本隆明全詩集』で藤村記念歴程賞を受賞
2012年3月16日、死去、享年87歳。
詩人、評論家
(2012年4月10日・記)
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吉本隆明さんに糸井重里さんが質問して、糸井さんが纏めたもの。
思想家というより、物書きとして吉本さんが自分の考えを述べている本。
思っていたより、軽かった。
プライベートな吉本さん、という感じ。
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「泥棒して食ったっていいんだよ」 生きることの大事さに比べたら、泥棒するな、というのは人間がつくった約束事のひとつにしかすぎないわけで、重さが違う、という当たり前のことに人はなかなか気づけない。
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糸井重里の才能は、あやふやなものをなんだか判った気にさせるコピーライティング。
吉本隆明の才能は、あやふやなものを独自の思考で掘り下げ、より判り辛く?すること。
深さが全然違う。…と思わせるのが計算なら糸井重里、ご立派。
以下、引っ掛かったこと。
○ 「素質」ってなんだ。
ちょっとでも「長所」と思うところだけを伸ばせばいい。
自分の得意なことはこれだと自己評価する。
評価が正しいか間違っているかは問題ではない。自己評価だから。
それでその自己評価、得意分野の範疇であれば何をやってもよい。
人やモノを評価するときは、その逆のことを当てはめる。
自己評価よりちょっとでも上のことをやってもろくな事にはならない。
背伸びしたところで、同じことできる奴が他にいっぱいいるのだし、
背伸びした自分を基準だと勘違いしたら本来の自分が恥ずかしくなっちゃう。
○ 吉本隆明流「情報分析方法」
僕の場合、情報は大体新聞で間に合います。
ただ記事の内容は記者の力量によるので、あくまで情報としてデータとして使います。
情報の中にハッキリ言えること、あるって言っちゃってもいいことを探して前提にします。
そして、水素と酸素から水が出来るように、なぜそうなっているかという捉え方をします。
そしたらどこの国のどんな問題だって、だいたい当たるんじゃないかと思います。
根拠はありませんけど(笑)
例えば、NATOが内戦に介入したというニュースから考えることは、
なぜ介入したのかということ。
その理由や背景に関する情報だけを集めて整理すればこの件についてものが言えます。
例えば、フランスが核実験したというニュースからハッキリ言えることは、
フランスには原水爆禁止とか反対する人が少ないということ。
○ 「言葉」ってなんだ
方言と異国語は地続きです。英語も方言のひとつと捉えてみては?
1999.5~2000.1「週刊プレイボーイ」連載。聞き手、糸井重里。語り部、吉本隆明。
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神保町の古本まつりで見つけて。糸井重里さんが聞き手というのに興味を持ったので。
吉本隆明さんは吉本ばななさんの父親にあたるということを読んで初めて知った。宗教家ではなく、詩人であり評論家である立場から「悪人正機」とはどういうことかを語っていた。世の中を見据えた人生の先生のような語り口で、言葉がすんなりとのどを通って行った。
「友だち」とは何かの例に親鸞を持ってきたことに糸井さんも驚いていたが、私自身も驚いている。この人はちゃんと物書きの目で宗教を見ている。
だから、「『信じること』と『科学的に明瞭なこと』をつなげたい」という吉本さんの書き残したものをもっと追っていきたいと思った。まずは『最後の親鸞』から追っていきたいと思う。
親鸞学徒であるひとが「お経なんて本当はいらないんだよ」と言う度に「今言うことじゃないだろ」と腹が立っていたが、ようやくその背景が分かった。「人間なんか助けおおせるもんじゃない」んだよね。だから修行もお経も何にもいらないんだよね。
私はそういう宗教の「深さ」をもっと知りたい。