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紙の本
大戦下の美術品略奪が絡む美術ミステリ
2002/02/27 23:10
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投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずっとミステリアスプレスから文庫が出ていたアーロン・エルキンズが、なぜか講談社から。しかも、ノーエン・グレンが主人公ではない美術ものの新シリーズ。とくれば、新たなシリーズを、それに今までの作品のような作品を期待してしまうが……、さすがはエルキンズ、なかなか作品の水準を落としていない。
主人公のベンは、学生の頃にベンチャーで成功したものの、会社の権利を売り払って美術の勉強をやり直し、美術館の学芸員にまでなりながらも辞職、今ではなにをしたらいいのかわからずに漠然と暮らしているという人間。エルキンズは、ベンのような人間が、自分のやりたいことを見つける、ということを小説で書きたかったらしいが、その試みは成功しているだろう。
オチで、このシリーズの今後が予想できるので、エルキンズファンとしてはとても楽しみ。ベンが自分のやりたいことを見つけることで、しっかりと次回作への繋がりができている。彼の登場する作品がけっして単発で終わらない、新しいシリーズだということが、中年のおじさんが成長したことによって、読者に約束されているという感じ。
相変わらず、登場してくる警官が好人物。今回は、オーストリアの警視正。これまでの警官が持っていたキャラクターとかぶってないところも楽しい。
男女の関係を描くことも、相変わらず上手い。例えば、口論にいたるまでからその後の気持ちの変化みたいなものが上手く書けている。女の人の怒り方、男の人の怒らせ方が妙にリアルだと思えたが、作者本人の経験が生かされているのだろうか。ちなみ、エルキンズの奥方はロマンス作家だというから、彼女の知識や経験がエルキンズの創作に与えた影響は、きっと少なからぬものがあるのだろう。
ミステリとしては、犯人探しの本格ではなく、わざとグレースケールで撮影した昔っぽい映画のような楽しさがふんだんに盛り込まれている、冒険の要素が強い作品になっている。
紙の本
返せ!と言っても誰に返せばいいものか..
2001/08/03 12:42
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投稿者:ちゃうちゃう - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次世界大戦終了間際のどさくさに乗じて略奪された多数の美術品。その行方不明になっていたある1枚が時を経て、アメリカのある質屋に持ち込まれた。鑑定を頼まれた「美術鑑定家」ベン・リヴィアが登場し、そして起こる殺人事件。
著者アーロン・エルキンズの美術シリーズにはすでに「クリス.ノーグレン」がいるのに、あえてまた新しい美術鑑定家を登場させたのには、正直ちょっと戸惑った。後書きに「クリス.ノーグレン」とは違った人物を描きたかったとあるが、「失敗した結婚生活」を背負い、腕力にもそんなに自信があるわけでもないという全体の印象は、あまり前者と変わらないような気がしたのだが。
内容は「鑑定」に重きが置かれているのではなく、略奪された絵画の「本当の持ち主」の権利とは一体なにかという、現実的な問いを含んだ展開になっている。
ナチスがヨーロッパの人々から奪い取った名画。それが今見つかった場合、どうやってその絵画の元の持ち主の手に返すことができるのか? そもそも、どうやってそれを主張することができるのだろうか? 案の定、「私のものだ」と主張する人物が3人も現れた。
ヨーロッパをオーストリア、ハンガリーなど移動する忙しさに加えて、元ナチスだった人物の発言する「不愉快」な話、ユダヤ人の権利にこだわり続ける女性との「いさかい」など、ちょっと読んでいて疲れる場面が多いので、推理小説というより「第二次大戦の傷跡」を描いた小説と思ったほうが気分的に楽かもしれない。
紙の本
美術品の略奪の歴史にくわしくなる
2001/02/11 21:31
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投稿者:エンドルフィン - この投稿者のレビュー一覧を見る
アーロン・エルキンズというと人類学者ギデオン・オリヴァーが活躍するスケルトン探偵シリーズが有名だが、この『略奪』では新たにベン・リヴィアという美術鑑定家が主人公をつとめる。
ベン・リヴィアは友人の質屋シメオンから絵の鑑定を頼まれる。なんとその絵は第二次大戦中にナチスによって略奪され、行方不明になっていたベラスケスの名画だった。ところが質屋に強盗が入り、絵は無事だったものの、シメオンが殺される。そしてその絵の本当の持ち主であると、ヨーロッパで三人の男が名乗り出てきた。シメオンの死に一端の責任を感じるベンはベラスケスの絵の来歴を求めてヨーロッパに飛ぶ。しかし、彼が会う人物が次から次へと殺されることになろうとは。一体、ベラスケスの名画をめぐって何が起こっているのか?
筋書きはこんな調子であるが、先の読めない展開が興味をかき立てる。ベン・リヴィアの個性がもっと描かれていれば良かったとは思うが。ミステリとしては平均点であろうか。むしろこの作品では、美術品の略奪の歴史について教えられることが多い。いままで著名な美術館が所蔵している作品の来歴についてあまり気にしたことがなかったが、その裏には略奪とその正当化の歴史があることが判る。正当化の理屈として紹介されているのがエルギンの論理である。もしこの絵を盗まなかったら(あるいは持ち去らなかったら、没収しなかったら、押収しなかったら)、戦争によって荒廃(あるいは破壊、破損)の憂き目を見たでろうというもので、エルギン伯爵がトルコの破壊行為から守るのだという理屈をつけて、パルテノン神殿から彫刻をイギリスに持ち帰って以来、さまざまな形で利用されているらしい。かなりいかがわしい理屈だが、一面の真実を言っている側面もあるだろう。従って、ベンは次のように言う。
「善玉と悪玉を見分けるのは、必ずしも容易じゃないってことさ。とりわけ、その場にいなくて、事情をよく知らない場合はね。アルト・アウスゼーで起きたことにはいろんな面があったんだ」
アルト・アウスゼーとはドイツ軍が略奪した多くの美術品を貯蔵していた岩塩坑のあった地名である。このような中途半端な発言をしたばかりに、シメオンの姪アレックスとの仲が一時険悪になるが、そこは小説だ。最後はおさまるところにおさまるようになっている。
ところで、エルキンズのかのスケルトン探偵シリーズでは主人公ギデオン・オリヴァーは結構形態人類学者らしい口説き方をみせている。確か『氷の眠り』では次のような会話があった。
「君の鎖骨下窩はぞくぞくするほど魅力的だ」
「淫らなことを言うあなたって好きだわ」
この作品のベン・リヴィアも美術鑑定家らしくせまってくれると面白かったとおもうが、この点は残念。
なお、海外ミステリに関心のある方は、小生のホームページThe day of wine and mysteryを一度のぞいてみてください。