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紙の本
ダダの世界
2002/04/02 23:46
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ビートルズの曲に『アイ・アム・ザ・ウォルラス』というのがある。「セモリナのニシンがエッフェル塔によじ登っている。ハレ=クリシュナを唄っている初級のペンギンたち、彼らがエドガー=アラン=ポーを蹴るのを君は見るべきだった…」。
当時こういう詩や音楽はサイケと呼ばれた。この詩を書いたジョン=レノンは、意味のない言葉の羅列を楽しむ人間だった。ダダイズムという芸術の風潮について誰かが定義していたが、それは新聞でも雑誌でも小説でもなんでもいい、適当なページの適当な単語・フレーズ・センテンスをアトランダムに選び、それを組み合わせる。出来上がったものがダダの作品であり、それを活動の中心におくのがダダの芸術家だという。思うにジョン=レノンはダダだったのだろう。
ダダイズムにおいて言葉は、意味をもたぬただの音になる。和声とリズムの中でそれは、特別の印象を耳に残す。しかし音は何を言ったのであるか? 何も…。
『ねじ式』を読んだとき、私はこれを思った。無意味な言葉、脈絡のない文章。唐突な物語展開…。作者のつげ義春は、この漫画は自分が見た夢を題材にしたものだと言っている。たしかに夢の世界はこんな風である。
しかし、この物語の中で響いている音には、リズムがある。「ポキン、金太郎」「なるほど、ポキン、金太郎」。そして啓示のような文句もとびだす。「でも考えてみればそれほど死をおそれることもなかったんだな/死なんて真夜中に背中のほうからだんだんと…/巨人になっていく恐怖に比べたら/どうってことないんだから」。
つげ風ダダイズムには、とりとめのない言葉の羅列以上の何かがある。おそらく真にダダイズム的な作品には、こういう一種の不思議さがあるのだろう。ちょうどジョンの詩がそうであったように……。
この作品集には、他にも多くの佳作があり、おすすめの1冊である。『山椒魚』は身も凍るような、それなのに本当に可笑しいブラック=ユーモアの傑作。『紅い花』は郷愁をさそう抒情詩としてあまりにも有名。