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紙の本
縛り首の丘 (白水Uブックス 海外小説の誘惑)
罠とも知らず愛する女のもとへ馬を駆る若き騎士に、刑場の縛り首の死体が「俺を連れていけ」と話しかける…。ユーモアと辛辣な皮肉を交えた魔術的リアリズムの世界。「大官を殺せ」を...
縛り首の丘 (白水Uブックス 海外小説の誘惑)
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商品説明
罠とも知らず愛する女のもとへ馬を駆る若き騎士に、刑場の縛り首の死体が「俺を連れていけ」と話しかける…。ユーモアと辛辣な皮肉を交えた魔術的リアリズムの世界。「大官を殺せ」を併録。1996年の再刊。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
大官を殺せ | 5-112 | |
---|---|---|
縛り首の丘 | 113-166 |
著者紹介
エッサ・デ・ケイロース
- 略歴
- 〈エッサ・デ・ケイロース〉1845〜1900年。ポルトガル生まれ。コインブラ大学卒業。作家兼外交官として活動。著書に「アマーロ神父の罪」など。
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騎士道怪異譚
2010/01/21 13:16
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『大官(マンダリン)を殺せ』及び『縛り首の丘』の二つの短編を収録する。
『縛り首の丘』の主人公は、カスティリアの若き騎士ドン・ルイ・デ・カルデーナス卿である。
エンリケ4世治下の1474年、叔父からセゴビアの屋敷を相続した。信仰厚いドン・ルイは、毎朝夕ピラール聖母教会に参詣する。ほどなく教会で一人の女性を見そめた。ドン・アロンソ・デ・ラーラ卿の奥方リオノールの君であった。
気を引こうと試みるが、返ってくるのは無垢な、というより無関心な視線のみ。ドン・ルイは、希望なきことを悟って身をひく。
しかし、彼の情熱は嫉妬深い夫の注意を引いた。ドン・アロンソは妻とともに田舎の別荘へ移り、厳重に防備したが、憎悪と猜疑に心はなぐさまなかった。ある日、妻に強要して一通の書状をしたためさせる。愛の告白と密会の手配を告げたものである。リオノールの君は夫の詭計に気づき、同時に、自分に熱い視線を送っていた若者を記憶の底から拾いだす。彼女は、若者のために聖母に祈った。
ドン・ルイは宵闇の訪れとともに出発した。月明りの道は縛り首の丘を通る。丘で呼びとめる声がした。声の主は、丸太から吊り下がっている死体であった。別荘まで供をした死体は、ドン・アロンソの一撃を受ける。ドン・ルイの身代わりとなったのだ。
翌日、ドン・アロンソは、ドン・ルイが健在で、自分の短剣は死体の胸に突き刺さっていることを知る。畏怖からしだいに衰弱していったドン・アロンソは、聖ヨハネの日の明け方、石のバルコニーの下で息絶えた。
ドン・ルイとリオノールの君は華燭の典をあげた・・・・。
要約すればかくのごときストーリーだが、じつのところ、要約しては妙味が洩れてしまう。
細部の味つけが抜群なのだ。
嫉妬に狂うドン・アロンソの奇矯な行動は、暗殺(未遂)の伏線となって説得力がある。
しばり首の丘の不気味な情景のていねいな描写は、読者を現実からすんなりと幻想へ入りこませるし、ひとたび幻想のうちに入りこめば、動く死体になんら奇異の念を抱かせない。聖母へ祈る動作が間奏曲のようにくりかえし挿入されて、宗教とは縁のない読者も、だんだんと奇蹟を受容できる気持ちにさせていく。
神は細部に宿りたまう。
幻想小説も細部に宿る。