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紙の本
ぬけられます
2008/03/02 23:53
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
おそらくは連載初出時の扉絵であろう、1ページ全体に、あるいはストーリーを中断するような見開きで。大きく描き出される「寺島町」の情景(洛中洛外図屏風のよう、不思議な構図と時間感覚で描かれている)の多くに「ぬけられます」の看板文字が躍る。一昔前であれば「明朗会計」と同じニュアンスの、今であれば「ボッタクリ禁止」の表示と同じ意味合いであろうか。
しかし、この私娼街の中の人間、働く彼女たちのみならず、そこに生まれ育ち、深い愛憎をその「故郷」に抱く子どもたち、全ての住民にとって、そこは決して「ぬけられない」のである。
戦時下の軍需景気を背景にした「繁栄」を経て、野草を料理屋で食べる窮乏、そして3月10日「空襲」=「空爆」へ。吹き出しの中のろうそくのようにかき消された、この街と多くの命。柔らかいとも、奇抜ともなんとも言葉にすることの難しい描線、タッチ、コマ、吹き出し。
もし、東京の下町散歩をと思っておられる方がいらっしゃったら。なにはなくとも、まずこの一冊をおすすめしたい。
本書は、今は古びた「渋い」町並みにも、生々しくも穏やかな血肉がまとわりついていた青春期があったはずだということを思い起こさせてくれる。
思い出した。『マカロニほうれん荘』(鴨川つばめ先生・70年代後半、週刊少年チャンピオン連載)で1ページ全部使って渾身のタッチで描かれたトシちゃんがさまよう「夜の街」(当時の新宿をモデルにしたように思える)の構図が、前述の情景に似ているのだ。
そこからも30年近くが過ぎた。今そこかしこで作られている「街」は「ぬけられる」のだろうか?巻頭の滝田先生の前書、巻末の吉行淳之介氏の文章もとても味わい深く、貴重な情報と「ぬけられなさ」が凝縮されています。是非。