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商品説明
46年の生涯に、数は少ないが美しく豊饒なクラシック曲を残した作曲家が、折にふれて綴った自作や演奏家について書き遺したものをまとめた。深夜叢書社、77年刊の新版。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
豊饒な音楽と、饒舌な文章と
2002/06/29 22:41
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:HRKN - この投稿者のレビュー一覧を見る
矢代秋雄、その創作活動の全盛期に唐突に亡くなってしまった作曲家である。遺された作品は寡少であるが、その殆どが現在も演奏し続けるに値する魅力を湛えたものだ。日本フィルハーモニー交響楽団からの委嘱による「交響曲」の壮大な楽想、刺激的なオーケストレーション、第三楽章の官能的な旋律。日本交響曲史上に燦然と輝く成果である。尾高賞を受賞した「ピアノ協奏曲」の揺るぎない構成感、その機能を使用し尽くした独奏ピアノ、最終楽章のスリリングな疾走。協奏曲を楽しむに必要なエッセンスが横溢している。この二曲の存在だけでも、矢代の名は長く語り継がれることになるはずだ。
そんな矢代の音楽観を、この論集で知ることができるのは幸運である。彼持ち前の批判精神、音楽上の広い見識、それら矢代の創作のバックボーンとも言えるものを存分に味わうことができるのだ。矢代の熱い語り口は臨場感満載であり、彼の音楽作品を彷彿させる。
例えば、フランスの作曲家ジョリヴェに対する文章、矢代は「私にとって、この作家は、全く不可解である。いや、そう言っては嘘になる。はっきり言ってしまえば、大嫌いである」と真っ先に書く。毅然と第一主題を提示する「交響曲」の率直さと同じものだ。一歩間違えれば独善的に過ぎる口調に陥る危険もあるが、そう感じられないところが矢代の真骨頂だ。そして更に「まず、私はこの人の顔が嫌いだ」と来る。危ない。「ピアノ協奏曲」のスリルに近い。もちろんジョリヴェの創作姿勢・作品への的確な批評があとに続くからこそ、バランスが取れ、緊張と弛緩の演出ができているのだ。音楽的である。他にも、ショパンの作品の構成力、戦後の代表的な音楽作品選出、作曲家三善晃への賞賛、自作の説明、指揮者ジャン・フルネやフルート奏者ランパルへのコメント、など、音楽を好む人間にはたまらない文章が数多く収録されている。どれも膨大な音楽的知識に裏付けられた、大いに肯かされる内容だ。自作を語る部分では、譜例もいくつか掲載され興味深い。
早くに亡くなった矢代の情熱、音楽への愛は、数少ない音楽作品に封じ込められていると同時に、本書にもまた在る。読むたびに、矢代の主張・音楽が生き生きと表出してくるようである。