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商品説明
今は昔、或る男が迷い込む、恐ろしくも哀しき世界。夢・幻・妖・美・怪を描いた、梅原猛の小説集。「神を退治した男」「ロクサという神」「天狗の住む木」ほか、六話収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
神を退治した男 | 31-60 | |
---|---|---|
ロクサという神 | 61-90 | |
天狗の住む木 | 91-124 |
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紙の本
「もの」に憑かれた「霊力」のすれ違い
2000/10/06 01:18
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投稿者:藪下明博 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ものがたり」とは「もののかたり」であり、「もの」が「もの」について語ることである。そしてこの「もの」とはもののけ(物の怪)」の「もの」であり、人間の中に累積されて来た数々の霊魂、即ち祖先の霊や進化の過程に於ける猿や他の動物などの霊が、人間の口を借りて自己の遠い過去の経験を語る事を言う……(ちょっと、厄介である!)
著者は本書の序文の中で、こうした観点から日本に於ける「ものがたり」の系譜を辿り、『竹取物語』、『伊勢物語』、『源氏物語』、『今昔物語』、『平家物語』と概観し、とりわけ『今昔物語』に焦点を当てて興味深い論を展開している。即ち、『源氏物語』が「もののあはれ」の文学であるとするならば、『今昔物語』は「もののをかし」の文学であり(ここでの「もの」とは宮廷社会に限定されるものではなく、飽くまでも一般庶民のものである)、その多様性に於いて『今昔物語』は『源氏物語』に勝る、と言うのだ。
本書は、その多様なる「もの」の存在に強く共感を抱き、中から九つの話しを選び出し、著者の内に宿る「もの」の霊力によって再びそれらを世に現出せしめようとしたものである。かの芥川龍之介直系の流れを汲む果敢な仕事と言えるのだが、残念なことにその「霊力」は、必ずしも芥川の水準に達しているとは言い難い。その良い例が、天が下の色好み「平中」の話しであるが、ここには痛烈なアイロニー精神など微塵もなく、専ら「をかし」の精神が前面に現れて過ぎて、それが余りにも回りくどい筋立てを導く結果に終わってしまった、と言う印象が拭い去れないのだ。尤も、これが本来の『今昔物語』だと言えばそれまでだが、著者が意図したところの「をかし」の精神が、果たしてどれだけ読者に伝わったものか?
「面白いか面白くないか?」と言う問題は、著者の内なる「霊力」と、読者の内なる「霊力」の、大いなるすれ違いと理解すべきかもしれない…。