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紙の本
19世紀のパリとその象徴サラ・ベルナール
2002/03/01 02:59
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投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
北欧の実家に里帰りしている皇太子妃アリックスと離れ、パリを訪れている皇太子バーティは、旧知の友人アジャンクール伯爵との昼食を反故にされる。友人はそんなことをする人間ではない、きっとなにかがあったのだと勘を働かせたバーティは、訪問してきたサラ・ベルナールを伴って、アジャンクール伯爵の館を尋ねる。
尋ねた先でバーティを出迎えたのは、娘の婚約者がムーラン・ルージュという衆人環視の中で、背後から二発の弾丸を撃ち込まれて殺害されたという殺人事件だった。
やがて、娘が恋していたのは婚約者ではなく、歳が倍ほどにも違う憧れの画家の存在が明らかとなり、彼がムーラン・ルージュにいたことが確認されたことから、容疑者として拘留される。
パリ警視庁の捜査に納得のいかないバーティは、世紀の美女サラ・ベルナールを犯罪捜査のパートナーに迎え、最も美しい都市であるパリを舞台とした犯罪の解明に乗りだす。
1891年のパリは、特別だった。19世紀がまもなく終わろうとしていたこの時代、前々年の1989年には、自由の女神を建築したことでも知られるエッフェルが、タイトルロールともなっているエッフェル塔を作り上げ、また世界に名高いムーラン・ルージュがオープンしている。万博による繁栄が、文化的にも経済的にも大きな変化をもたらしていたのだ。
バーティは、そんなパリを訪れ、サラ・ベルナールやロートレックといった芸術家たちと出会っている。ロートレックは、91年に改装されたムーランルージュのためにポスターを制作している。ライトアップされたエッフェル塔を醜悪な姿と形容する皇太子は、目にしたロートレックのポスターを気に入らなかった。
だが、さすがに19世紀を代表する大女優であり、一番の美女であるベルナールともなれば、徹底的な賛美の対象となるのは当たり前か。バーティからは肉体的な関係を求められつつ、ベルナールがそれを躱す、そんな状況にあっても親友としての関係を長年にわたって続けているという二人は、本作では見事な探偵コンビとして活躍している。史実でも、芸術への理解が深かったというエドワード皇太子のことだから、お忍びでベルナールを訪ね、夜のパリでこっそりと出会っていたのかもしれない。
残念なのは、サラ・ベルナールの美しさを写真以上に伝えるポスターを制作した、ミュシャが登場しないこと。彼がベルナールのポスターを手がけたのは、1994年ということなので、本作から3年経たなくてはならない。
シリーズ第1作『殿下と騎手』、第2作『殿下と七つの死体』と比べると、すっかり落ち着いた大人になってしまった感のあるバーティ殿下。年齢を重ねていることは別にしても、一人称が《小生》となり、滑稽なまでに稚気を失い、その魅力をも無くしてしまったのかと思われたのだが、そんな心配は無用だった。
殺害現場を描いた、あのロートレックのスケッチブックを求め、偉大な画家との会見を果たすものの、スケッチブックを手に入れなかったというシーンは愉しいし、結果的には窮地を救ってやることにもなるパリ警視庁の捜査主任ゴロンとの対決も、立場の優勢劣勢が二転三転して愉快だ。
サラ・ベルナールとの親友、恋人関係に対しても、前作までと比べるならば女性に対するアプローチが大人になった思えるが──あっさりと肉体関係にまでは到達できない──、それでも懸命のアタックは続けつつ、事件の捜査を進行させていくあたりは流石バーティといったところか。事件の捜査と、二人の関係が、必ずしも比例して進められるのではないが、ベルナールの経験に基づいた推理が披露されていくうちに、バーティが真相に近づいていく。その過程からは、面白さを感じさせられるし、二人の魅力的なキャラクターに惹きつけられてしまった。