紙の本
すぐれた入門書とは
2002/07/06 14:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ベリ - この投稿者のレビュー一覧を見る
すぐれた入門書というのは不思議な感動を覚える。
そしてそれに邂逅するのは読書の大きな喜びの一つである。
易しい言葉で読者に理解しやすいよう心配りしながらも、
一つのジャンルの持つ膨大な知識の厚みをさりげなく見せる。
この本も読者の知的好奇心を巧みに刺激しながら、
新しいものを発見する喜びを与えてくれるすぐれた入門書である。
絵画というものが人間の単純な心の発露だけであるならば、
おそらくはここまでの芸術にならなかったであろう。
例えばラスコーの洞窟画には強いインパクトはあっても、
絵画がすべてそのバリエーションであるならば実にさびしいものである。
しかし、現実は違う道を歩んできた。
我々が単純に美しいもの、驚嘆するものと見てきた絵画に、
なんと画家は沢山の思想を織り込んできたのか!
思想というものも人間の心の表現である。
それを意識しながら美的感動をすることは決して邪道でなく、
むしろそうあるべきであるとこの本で初めて啓発された思いである。
美術を見る新しい楽しみを教えてくれたこの本に心から感謝したい。
紙の本
良質で知的な推理小説の味わい
2001/09/25 23:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みゆの父 - この投稿者のレビュー一覧を見る
見果てぬ夢だと思うけど、娘にはオペラ歌手になってほしいと僕は思ってる。それにしてもなぜオペラ歌手なのかといえば、答は簡単だ。親は自分にないものを子供に期待するっていうけど、全くその通り。要するに、音楽に限らず、芸術全体のセンスが僕本人にないからなのだ。だから「二歳だからまだまだこれから」って根拠なく思ったり、テレビの音楽で踊ってる姿を見たり音楽教室に通うのを楽しんでるって聞いたりして、心密かに期待してるわけだ。もちろん、ものごころ付いた娘が「いやだ」っていったら、すぐに諦めるだけの覚悟はあるけど。
そんな僕にとっては、音楽だけじゃなくて絵画も禁断の領域だ。国立西洋美術館とか大原美術館とかルーブル美術館とかオルセー美術館とか、一応それなりにツボは押さえてきたつもりだけど、「それじゃ絵を見て心から楽しんでますか」って聞かれたら一瞬くちごもるだろう。何度か絵を見て魂をゆさぶられるような経験をしたことはあるけど、あまり打率は良くない。やはりセンスの問題なのだろうか。
美術史家のの若桑さんは、イコノロジーっていう方法を紹介しながら、僕みたいな絵の素人が絵を(ここが大切だけど)楽しく鑑賞する方法を知らせるために、この本を書いた。彼女によると、日本では、絵は読み解くものじゃなくて感じ取るものだって考えられてきた。でも、画家は能力と技術と経済力の全てを使って絵を描いてるわけだから、見る側も知性と知識と洞察力を総動員しなきゃ失礼だろう。しかも、知性を使うと、そのうちに感受性も鋭くなる。何よりも、画家が(意識的か無意識にか)絵に隠したメッセージを読み取れるようになるから、絵を見るのが楽しくなる。この絵の読み解き方を研究するのがイコノロジー、日本語では図像解釈学だ。
若桑さんはこの方法を使って、ボッティチェッリからミケランジェロからレンブラントからブリューゲルまで、主に一六世紀に活躍した有名な(僕ですら知ってる)画家の絵を次から次へと読み解く。たとえば、この当時、静物や切り花は世俗的快楽のはかなさを表現してた。ボッティチェッリの有名な絵「春」は新プラトン主義哲学の主張する「対立するものの調和」っていう「弁証法」を表現してた。聖母子像(イエスとマリア)が減って聖家族像(イエスとマリアとヨゼフ)が増えたのは、北イタリアで父の権威が高まったことを反映してたた。初代ローマ教皇のペテロ像の表現する意味が「栄光」から「人間的な弱さ」に変わったのは、対抗宗教改革と関係してた。老人は「賢明」を意味したけど、老女は「滅び」を意味してた。若桑さんの鮮やかな手つきにみとれてるうちに、はっとするような発見が現れる。それはまるで良質の推理小説を読むような快感だ。でも、この本のハイライトはブリューゲルの絵「バベルの塔」を読み解いた最終章だ。岩を削って立ってる塔は(岩は初代ローマ教皇ペテロを表わすから)カトリック教会だ、ブリューゲルは歪んだ塔を描くことによって教会の没落を証言した、この主張は両方とも説得的だしエキサイティングだ。芸術を鑑賞する側にとって、知識や知性を持つことがどれほど大切か、どれほど視野を広げ、深くしてくれるかを、僕らはここから読み取ることができるはずだ。
ということは、感受性がないとしても、ちゃんと勉強して知性と知識を身に付ければ、少しはまともに芸術を鑑賞できるかもしれない。感受性だけじゃなくて知性も必要だっていう若桑さんのメッセージは、僕には心強い味方になりそうだ。でも、よく考えると、この二つをうまくつなげるためにはかなり芸術的なセンスが必要みたいだ。やっぱり僕には無理そうだから、娘に期待することにしよう。期待された方は迷惑だろうけど。
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いま、ダヴィンチコードなどで図像学・象徴学が話題になっていますが、もし図像学に興味があるのでしたら、この方の本から入ってみるのがおすすめです。ボッティチェリの『春』など、私たちも良く知っている絵画を題材として、図像学の基本的な作法を紹介しています。
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「ダヴィンチコード」に感化され「いざ!ルーブルへ!」と思いを馳せておられる方へ。旅立ちの前に是非一読されることをおすすめいたします。西洋絵画にはイコノグラフィー(図像学)という約束事があり、イコノロジーはそのイコノグラフィーの解釈学です。例えば、赤い服に青色の上着を着た女性は聖母マリアである、鏡は「人生のはかなさ」を映す、砂時計は「死」や「時間」を示す、など描かれているモチーフの意味を知ることで、絵画に込められたメッセージを読み解いていくのです。「きれいだな。」という感覚的な絵画鑑賞から、一歩踏み込んだなぞ解きのような論理的絵画鑑賞の楽しみ方を教えてくれます。何百年の時を経て、古典絵画の巨匠たちのメッセージを読み解くなんて夢があると思いませんか!
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音楽科必修科目『美学芸術論』で図像解析学(イコノロジー)ってのを習いまして、それで興味をもって買った本でございます。一応、ためになりました
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たしか教科書として買わされたんだよな…
その授業がすごくおもしろかった。絵画に描きこまれたメッセージを読み解くということ。正解があるんだかないんだか知らないが、そんな不確かな世界での手探りにどきどきした。この本の解説もわかりやすいし。
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「ルネサンスにおいては(中略)画家と人々のこころは一つだった。画家は、自分の個性や独自な思想、感情を披瀝するというよりは、彼が属している集団の心を、共通言語を用いて描いたのである」
「意図的に画家が、目に見えたものをありのままに写生することを絵画の目的であると主張したのは十九世紀のことであり、これはやはり歴史的には画期的なことであった」
というわけで、背後に哲学的理念を背負っていない絵画は19世紀以前にはない。
ただ見て感じればいいのだ、という美術鑑賞もあるだろうが、著者は「事実についての知識は、感受性を深めこそすれけっしてそれを抹殺しない」と記す。その通りだと思う。この書を読んでから、ヨーロッパ美術には感嘆させられることが多い。
ルネサンスからバロックにかけての文化や、人々の心のありようが、絵画を通して立体的に見えてくるように思う。
カラヴァッジオの「果物籠」からは、目に見えた通りの写生画という、現代的な見方とはまったく違う16世紀ヨーロッパにおける静物画の意味合いがわかる。
ボッティチェリの「春」と「ヴィーナスの誕生」は、星や花といったモチーフが、聖と俗をそれぞれ象徴し、どちらをも肯定したルネッサンスのいきいきした精神を表現しているのだと教えてくれる。
他にもヨーロッパ絵画の解釈に避けて通れないキリスト教画題や、神話、死、女性観などを、豊富な実例と共に示す。また絵画には商品という側面もあり、注文主によって作風が変化するのも興味深い。
それぞれのテーマをもっと深く掘り下げたいと思った読者のために、参考文献も多数紹介されている。
文章も平易で簡にして要を得ており、とても親切な本だ。
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友人に薦められて読んだ本です。
イコノロジー(図像解釈学)とはなんなのか、それが知りたくて手を出したのですが、読み進めていくうちに、絵画の見方、考え方が変わったように感じました。
難しく考えずに、まず読んでみるといいかもしれない。絵ってこんなに面白いものなのか!って思うから。
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イコノロジーの方法に基づく絵画の解釈を紹介した本。『イメージを読む』(筑摩書房)の続編にあたる。絵画はただその美しさを感性によって味わうことしかできず、合理的な分析によっては解明されないという通念が行き渡っているが、著者はこうした通念を取り払い、「絵画を読む」とはどのような営みなのかということを、前著と同じく実例に即して分かりやすく説明している。
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[ 内容 ]
ボッティチェッリの『春』、レンブラントの『ペテロの否認』など、ヨーロッパの名画を12枚取り上げ、そこに描かれたさまざまな図像から作品のメッセージを読み取る、ユニークな人間美術史。
[ 目次 ]
1 カラヴァッジョ『果物籠』―快楽のはかなさ
2 ティツィアーノ『聖なる愛と俗なる愛』―愛の二面性
3 ボッティチェッリ『春』―愛の弁証法
4 ニコラ・プサン『われアルカディアにもあり』―死を記憶せよ
5 ミケランジェロ『ドーニ家の聖家族』―父と母と子
6 フラ・アンジェリコ『受胎告知』―神と人の出会い
7 レンブラント『ペテロの否認』―人間の弱さ
8 ブロンズィーノ『愛のアレゴリー』― 愛の虚妄
9 ジョルジョーネ『テンペスタ(嵐)』―男性原理と女性原理
10 デューラー『メレンコリア1』―自然哲学と芸術の結合
11 バルドゥング・グリーン『女の三世代』―老いについて
12 ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』―文明への警告
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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イコノロジーに興味があったので、手ごろな入門書として手に取りました。
イコノロジーとは図像解釈学のことで、絵を読み解く、といったところでしょうか。
絵は感じるものだともいいますが、絵画に託された緻密な物語だったりメッセージだったりを感じ取るにはやはりバックグラウンドとしての知識を学ぶことは大事だと思います。
カラーの図版は美しく、また比較として出てくる絵もほとんどが載せられているので、一冊でたくさんの絵に触れることができます。
まったく絵に詳しくなくても読むことができるように配慮されていて、簡単に読むことができます。
この本をきっかけにして絵画の世界をもっと知っていきたいと思いました。
少しでも絵画に関心のあるかたは是非^^
とても楽しい一冊です。
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自分には、西洋絵画を鑑賞する素養がなかったんですね。好き嫌いで評価するだけでなく、作品を通して、作者やパトロン、時代の持つ価値観や世界観を解釈するという手法を知りました。随分と、幅広く奥深い世界ですね。
まずは、図像学が先ですね。基本と興味のあるテーマから始めます。イコノロジーまでいくと、解釈が分かれそうです。日記とかで書き込みが見つかるといいですね。
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イタリア旅行前に、宗教画を勉強せねば!と購入した本。読んで良かったです。絵画に描かれている対象物、描かれた時代背景などを、初心者に分かるように解説してくれている。図版がなくタイトルだけ載っているものも、画像検索で補えた。
ちょっと駆け足で読んだので、読みなおさくちゃ。
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中世の西洋絵画に込められた意図を図像から導く為の入門書。絵画は単に眺めてもいいけど、背後に何があるかを知っていると感性の幅も広がるよといった切り口で、難しくなく読める。
白黒の図版で本文で参照している箇所が全く見えないものもあったところは少し残念。
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著者の絵画入門の「イメージを読む」を以前読んで、すごく面白かった記憶がある。最近、「怖い絵」を読んで、ちょっとイコノロジー的なものへの興味がでてきて、読んでみる。
著者によると初級編の「イメージを読む」に対して、こちらは中級編との入門書。たしかに、いろいろな研究を紹介しながら論じる所が、ややかたい感じになっている。
12枚の絵画が取り上げられているのだが、その絵画自体の意味を解き明かすというより、その絵画に代表されるテーマについて、論じているという感じだ。なので、「イメージを読む」より、絵の謎解き的な楽しみは少ない。
絵画の主題ごとで、章立てしていれば、それなりにすっきりしたのではないかと思った。