紙の本
性と繁殖の世界の不思議を通して生物の生の世界を垣間見せてくれる良書
2010/03/27 00:09
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
身の回りの生き物を見ていると、オスとメスがいて、性を介して繁殖していることが当たり前のように見える。犬や猫やネズミといった哺乳類、ニワトリやカラスといった鳥類、カブトムシやクワガタやカエルといった他の生物も然り。
見ても違いが分からないとしても、交尾のときにメスがオスを食べてしまうと言われるカマキリ(実際はほとんどのオスは逃げるらしいが)、中々見る機会は無いが、女王アリとオスアリといったことも知られている。
それなのに、本書はまず性と繁殖は本来無関係、と説く。では何のために、こうまで性は多くの種に採用されているのか。その答えは、バクテリアの接合から見えてくる。言ってしまえば、感染症対策である。
意外ではあるが興味深いつかみに始まり、気がついてみれば生物の繁殖戦略を広く眺めるという、知的好奇心をくすぐる旅に出ていることになる。孔雀に見られるようにオスが過度に華麗になる理由は何か。魚類では、小さいときはメス、大きくなるとオスというように性転換をする種があるが、それは何故か。オスが子育てをする種がいるのは何故か。
これらは全て性戦略の問題で説明できることを、本書は示している。だが、本書の面白さは、この性戦略を通して、様々な生物種がどのような生を過ごしているかが見えてくることではないだろうか。繁殖こそ生の目的であり理由であるのだから、性を見つめることは生を理解することなくして語れない。だからそこに面白さがあると思う。
本書のラストにおいて、では人間社会において性はどうあるべきか、という問いかけを行っている。性差は作られたものという生物学的な差を認めない態度も、他の動物種の行動を安易に人間に当てはめる態度も、共に間違っている、というのが著者の結論になっている。それは私も賛成したい。
性をどうするかは、社会的な合意の下で営まれるのだから、自分の浮気を正当化するのに生物学的な理由を述べるのは正当ではないと思う。遺伝的、生物的な理由による性差を理解しつつ、互いを認め合っていければこれに越したことはないのだろう。
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有性生殖
2022/02/17 14:24
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投稿者:ペンギン - この投稿者のレビュー一覧を見る
有性生殖とは、ランダム性を積極的に取り入れるためのシステムなんだなと思った。遺伝子的に同じ個体を量産するよりも、少しずつ違った個体をうみだす方が環境に対して適応的ということらしい。有性生殖のコストを上回るメリットがあるのが不思議な感じがする。個人的にはこの点にとても興味を惹かれる。
社会制度に対する考察は唯物論的な感じがあんまり好きになれないけど、人間を科学的に分析するというスタンスで、常識にとらわれない新しい見方を示そうとしているのかもしれない。未来に寄せる期待の高さは、失われた10年へ至る前の楽観的な雰囲気を感じる。あとがきのところで少しふれられていた科学とは楽しむものであるという考え方には賛同する。
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内容は難しいことを扱っているが分かりやすく平易な文で書かれていて非常に読みやすい。
内容も非常に面白いうえに、俗なところに堕ちていない。
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以前ちらと読んだときには、進化生物学論争に言及してたことに気づかなかった。おまけに一部のフェミニストに対する批判もあったりして(それについては批判の対象が特定できない、残念)。性と生殖について無性生殖から説き起こして、最後にヒトの婚姻制度まで、見事に説明されている。これは良書!深く考えることのために、学問の枠組みを使うことの強さを思う。学問はアタマを硬くするためにあるんじゃない、ホント。
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オスとメスがなぜ生じたのか、というところから、現代のオス・メス事情までを平易に記述されているので、とてもよい本であると思います。特に、スニーカー(ずるい)戦術のところは、自然のおもしろさを知ることができる、この本のハイライトだと思います。
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雌同士で戦うことはない。いつも雄同士。
鹿の角、孔雀の羽、ぞうあざらしの遠吠え、全て雌をひきつけるためにある。
人間界は至って平和だ。
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[ 内容 ]
誘惑するオス、選ぶメス。
華やかで激しい性行動のメカニズムは何か?
性が生まれ、男女へと進化した15億年の壮大な性の歴史を展望する。
[ 目次 ]
第1章 性の起源―現代生物学の大きな謎
第2章 生き物たちの奇妙な性
第3章 クジャクの羽とシカの角
第4章 雄と雌と子ども―永遠の三角関係
第5章 誰が子の世話をするべきか
第6章 雌をめぐる競争
第7章 雌はどんな雄を選ぶか
第8章 雌雄から男女へ
第9章 ヒトの婚姻システム
第10章 そしてわれわれはどう選ぶべきか
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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面白かったのは究極のヒモ・アンコウの雄、雌になりすますイモリの雄、いろいろな生物の雌雄の関係が面白く、人間にも共通するところがあるのかな、などと思ったりしましたが、著者が最後に書いているとおり、それをあまりに追求していくことは人間の罪を容認してしまうことになりますし、人間は違った存在だと強調しすぎることも、生物学的な観点を無視することになるという主張。生物学者の難しい立場がよく理解できました。
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1993年刊行。著者は専修大学法学部助教授。◆法学部助教授だけど、本書はまんま生物学の書。◇単純な意味での繁殖は性(性的2型)とは無関係。しかし、15億年の経過の後、ヒトはどのような繁殖・配偶行動を持つに至ったか。本書は、適者生存的進化論では説明困難な進化過程に関し、性選択仮説、精子間競争(男性間競争)仮説などを駆使し、具体的な動物に関する配偶者選択・繁殖方法を踏まえて、巨視的に解説していく。◇本書で少し斬新に感じるのは、例外的と断りつつも、雄による雌の選択過程が存在しうることを解説する点だ。
◇また、人間とは、①連綿と続く進化過程の中で生存してきた動物という側面と、②理性を持つ存在という側面がある。しかも、その動物という側面(①)からみるに、一般的に見て、環境に即した多様な繁殖・配偶形態がある上に、ヒトという特定種については、自産する文化的な所産そのものが、ヒトという種の環境を構成すると評しうる。この時代毎で変容する文化的所産に基づいて、繁殖・配偶形態にも変容がもたらされる点への言及があって、なかなか読ませる一書だ。
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生物の性差に関する新書。
「赤の女王」の仮説や、ジェンダーの問題など話題豊富で読んでいて飽きない。あずまやどりなんかの紹介もあって、性淘汰については一通り説明があって読みやすい。やや古い本ながら新鮮な内容。
性というキーワードで自分の過去を振り返ると、自由意志とか理性とか存在しない気がしてきて、自分自身が動物というより生物っぽく見えてくる不思議。
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1993年刊行なので結構古い本だが、まだまだ読める。
男女の性差や関係性、そもそもなぜ「性」という区分が生まれたのか、「性」という区分なしで生殖し、繁殖する生物も多々あることなども含め、系統だって解説し、事例を紹介している。異性を惹きつけるための身体的特徴(クジャクの羽やシカの角)の話や、メスを巡る闘争、メスがどのようにオスを選ぶか、などについては一般にもよく知られていると思われるが、オスとメスのどちらが子どもの世話をすべきか(どちらが世話をしたほうが生物として繁殖し、生き残れるか)などは他ではあまり読めないテーマであるかと思う。
終盤にはヒトの婚姻制度にも触れており、生物学の話というより社会学の領域になってくるが、ここも面白い。学問の目から見るとこういう分析になるのね、というのがよく分かる。