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紙の本
辺境の子供たち
2022/12/26 18:54
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランス植民地のインドシナで暮らす母と二人の兄妹。母親は夫が早く死んだのちに政府の払い下げの農地に移ってきて子供二人を育てた。だがその払い下げ地は塩害で使い物にならないもので、生活は苦しい。払い下げの不正は現地当局の腐敗あるいは無責任の結果であって、救済策もなく、これまで多くの植民者が破綻してきた代物。そこで母親は自力で防波堤の建設に取り組むのだ。
現地フランス人のコミュニティも力が弱く、人々は孤立している。家族は結束しているが、子供たちは、兄は家から離れていく誘惑に勝てないし、主人公である妹の方も求婚者を物色するようになる。この地の白人コミュニティは、ヨーロッパ社会の劣化コピーであり、半ば現地民化していて、宗主国としての立場は一般人には縁が薄い。これが植民地経営の実態であり、現地人への搾取だけでなく、フランス人たちも植民政策の犠牲になっていたのが現実なのだろう。題名は文字通り太平洋という抗うことのできない巨大な自然の前に無力であることと同時に、この極東の最果ての地で生きるしかない無力感を示しているようにも思う。
植民地の厳しい生活は、イギリス人でもドリス・レッシングの一家が南ローデシアの農場経営で苦闘していたのにも通じるし、そこから這い上がって母国で成功するにいたる執念の源泉が、この子供時代にあったのだろう。一家でインドに移住したラドヤード・キップリングや、アフリカで育ったジェイムズ・ティプトリー・Jr.のような、親の社会的地位が高い子供たちととは違う、成り上がり的な要素も潜んでいるのかもしれない。ただし若者たちは、素朴で時に野卑な育ちをしながらも、植民地社会の矛盾や限界をよく観察して見極めてもいる。
主人公の親子三人は、今の生活から逃げ出したい欲求と、これまでの生き方へのプライドがせめぎ合っている。若者たちはいずれ家を離れていくことは、はた目からは予想できるものの、当人たちにはもちろん不確定な未来でしかない。なにより印象的なのは、妹と兄、娘と母親の結びつきの強さで、このしがらみから離れようとして離れられない。その葛藤が彼らの中では激しく渦巻いているが、決して表面化することはなく、静かに、静かに、まるで時間が解決するとでもいうように、事態は推移していく。生々しいけれどなにげない言動の中に、心情の揺れや、将来の見通しといったことが、少しずつ入り込んできて、変化の兆しが見え始めている。