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紙の本
ガラスの仮面+ポーの一族+ベルばら
2012/10/22 00:38
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画「サルトルとボーヴォワール」の中で、サルトルが、書け、とにかく書けとハッパをかけるシーンがあって、その真意は不明ながら、とにかく書いた! 批評も哲学も、そしてファンタスティックな物語も。
まずパリの舞台で美貌と実力で期待を集める女優、愛と嫉妬の炎の燃え狂う、スキャンダラスな芸能界ストーリー。
その彼女の前に姿を現す、不死を名乗る男。不死なる男の愛を得るのも、銀幕のスポットライトに劣らず得難い、むしろそれ以上に稀少かもしれない。だが彼には人を寄せ付けない無常感を漂わせている。永遠の若さは誰しもの夢であるはずなのだが。
男はイタリアの小さな都市国家で生まれた。戦乱と権力闘争に明け暮れるのに倦み疲れて、やがてシャルル5世の腹心として宮廷に入り込み、そこで帝国の統治に取り組む。しかし個人や国家という視点を離れ、新大陸の冒険に向かったのは、新しいものを求めるのと、文明の行き末の可能性を拡げたいという欲求だろうか。フランス革命を経て現代に逼塞しているところを、バカンス中の女優に見いだされた。
芸能界もので伝奇もので歴史ロマンという、乙女ちっく満載である。ボーヴォワールは決して鉄の女ではなっかたということか。それ故に重要なのかもしれない。
不死の男は長い長い生涯の中で、妻を亡くし、息子を亡くし、また愛した者を繰り返し失った。その果てに、愛するということに対して心を動かせなくなっていて、それと同時に世界に対する意欲も失っている。そこに、人が生きていく意味について問いかけられている。彼は繰り返される戦乱にも関わらず、人々の暮らしに平穏が訪れない現実にも諦めを感じている。弾圧して捕えた宗教改革派の僧の語った、ただ一つの善は「自分の良心に従って行動することだ」という言葉を否定することができないならば、世界から争いは永遠に無くならないからだ。
良心に従って行動する、そのこと自体に疑義が生じるのだとすれば、果たして人に何が出来るのだろうかということになる。そのジレンマに対する解もまた無いのだ。せめて彼の内面を燃え上がらせれば、その豊かな経験と知恵が活かされるかもしれないが、誰がそんな動機で人を愛するというのか。もっと直裁に情熱を燃やせればいいのに、理性や悟性というものが少しでも顔を出すと萎えてしまうものもある。
そしてそんな葛藤に迷う者はこの世で勝者にはなれない。勝者になることを望みすらしなくなるい。それでも生まれる焦り、敗北感、華やかな物語であるほどに、個人の無力さを思い知らされる、厳しく寂しい物語でもある。