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紙の本
日本探偵小説全集 6 小栗虫太郎集 (創元推理文庫)
著者 小栗 虫太郎 (著)
傑作中編「完全犯罪」で彗星の如きデビューを飾った鬼才・小栗虫太郎。本巻には小栗の創造した名探偵法水麟太郎ものの代表作、「後光殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」「オフェリ...
日本探偵小説全集 6 小栗虫太郎集 (創元推理文庫)
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商品説明
傑作中編「完全犯罪」で彗星の如きデビューを飾った鬼才・小栗虫太郎。本巻には小栗の創造した名探偵法水麟太郎ものの代表作、「後光殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」「オフェリア殺し」そして無論のこと、わが国探偵小説の歴史上、最大の奇書とも評される畢生の大長編『黒死館殺人事件』を収録した。中島河太郎編の著者略年譜を付す。解説=塔晶夫(中井英夫)/挿絵=松野一夫【本の内容】
収録作品一覧
完全犯罪 | 9-88 | |
---|---|---|
後光殺人事件 | 89-126 | |
聖アレキセイ寺院の惨劇 | 127-182 |
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謎解きの面白さを期待してはいけない
2003/12/23 12:04
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
アンチミステリとも、探偵小説の三大奇書(これは誰が言い出したんだろう?)とも言われるうちのひとつ「黒死館殺人事件」を収録した一冊。基本的に私は探偵小説、推理小説の類をそれほど読む人間ではないので、ジャンル的な約束事であるとか、そういったことには詳しくない。
であるが、「黒死館殺人事件」は傍目から見ても異様な「探偵小説」である。
通称「黒死館」と呼ばれている洋館で、ある日殺人事件が起こる。そこへ赴くのが小栗の創造した法水麟太郎という刑事弁護士である。「黒死館」では光る死体、鎧のなかで窒息死している人間などなどいかにも、な怪奇洋館にふさわしい奇抜な死体、犯罪が続発する。
そこで、法水は博覧強(狂?)記のペダンティズムによって、事件を推理し解決へ導こうとする、のだが、彼の推理はことごとく奇抜で、本当にまったくそんなことが起こりうるのか、という疑問を投げかけずにはいられないものである。
支倉、熊城といった彼の引き連れている人間が、しごく通俗的な推理をすると、即座にまったく違う角度からすさまじい推理を行うのであるが、これ、いったい本当に「妥当な推理」なのか、どこまでも不思議なのである。
作中序盤に出て来るくだりなのだが、車椅子に乗った男が、その車輪の回転を使って部屋の絨毯を波打たせ、遠くにいる人物をひっくり返す、という方法について言及するとき、法水はまず「太陽系の内惑星軌道半径が、どうしてあの老医学者を殺したのでしょう?」などと意味不明の言動から話をはじめる。内惑星軌道云々というのは基本的に推理には関係なく、説明のためのアナロジーなのだが、それにしても突飛である。しかも、この推理の下りは相手を脅かしてねらい通りの自白をさせるために用いられた嘘八百だったりする。
この滑稽と言うべきか、不可解というべきか、判断に苦しむ異様なる推理、法水の博覧強記の推理は、まったく読者に「解決」という安心感をもたらさない。彼の推理の特質は、ひとつには奇病が頻出することである。法水にしても実在の事例を数個挙げさせることができるのみというような、奇抜な病が推理の核として出現してしまうのである。彼の推理は奇書珍書のたぐいから引っ張ってきた珍しい事例を、数珠繋ぎにむりやりつなぎあわせたような綱渡りである。その推論は、事実と事実を自然な因果関係によって結びつけるものではない。理論をむやみに複雑にせず、簡潔な説明があればそれを選択するべきであるという、オッカムが提唱した思考の方法と真っ向から対立し、奇怪な事実の説明に対し、奇怪な書物によるアクロバティックな推理をぶつける。
そのことと関係するが、法水の推理のもっとも異様な点は、彼は往年の刑事のように「足で」捜査したりせず、まずは現実と似た事例を書物のなかから探し出す。事実を念入りに調べたりするのではなく、まず、似た事例を書物のなかから探し出すのである。
その点で、法水麟太郎は探偵小説におけるドン・キホーテであるといえるのではないか。行動の規範を騎士道物語に求めたドン・キホーテのように、法水は現実の事件の解決にあらゆる書物の知識を総動員して推論を構築する。黒死館の様式のごとく、法水の推理もまた人工の大伽藍の様相を呈してくる。
彼の推理はじっさい、事態をいっそう紛糾させ、複雑なものにし、一般の理解を超越してしまうのである。その仕草がもはや一般の推理なるものとは次元を異にしてしまっている。超人的なこの推理はしかし、探偵小説というジャンルが持つ一種の人工性を、極限まで突き抜けてしまっているのではないだろうか。
読んだ後でも、この「黒死館」で行われた奇怪な犯罪の数々が、館にまつわる噂などが、解決された気がまったくしない。犯人が明かされても、胸がすくような安堵はなく、霧か霞か、迷宮のなかに放り出されたままである。