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紙の本
スポーツを味わいつくす
2009/11/22 11:16
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1979年の日本シリーズ第7戦、広島が1点リードの9回裏、地元の近鉄はリリーフ・エース江夏豊を攻めて無死満塁とした。
『江夏の21球』は、この緊迫した場面を緻密に描く。21球の計算された球種とコース。その計算を実行できるだけのコントロールと速球をもつ球界屈指の投手の動作、その微妙な心理の襞。
たとえば、救援の切り札の江夏がマウンドに立っているのに、ダッグアウトの古葉監督は次の救援投手を手配する。
それは万一同点となった場合、つまり延長戦にはいる場合を想定した指揮官の、当然といえば当然の措置なのだが、マウンドに立つ江夏としては見限られた、との思いに駆られる。
その反撥を読みとって近寄る衣笠一塁手。衣笠は戦友として、守備する者同士として一言ささやく。
こうした力学が鮮やかに一筆書きされる。
その場で思いつくままを記録したかのようにさりげない文章だが、背後に綿密な取材があったはずだ。
じじつ、両チームの選手たち、最終打者となった石渡選手やほぼ手中にしていた日本シリーズ優勝を逃した西本監督の証言さえ盛り込まれている。
直線的に時間が流れる映像ではとらえきれない多角的、多層的なアプローチと構成が言葉で築かれている。
かくて、固唾をのんで見つめるファンたちの姿さえ見えてくるような散文の傑作が生まれた。感嘆するしかない。
たかが野球、されど野球・・・・いや、第8回日本ノンフィクション賞を受賞した短編集『スローカーブを、もう一球』は、分野を野球(『江夏の21球』)に限定しない。
シングル・スカル(『たった一人のオリンピック』)から、ボクシング(『ザ・シティ・ボクサー』)、スカッシュ(『ジムナジウムのスーパーマン』)に棒高跳び(『ポール・ヴォルター』)まで。
いずれもスポーツする人たちの、ひとたび去ってもはや帰ることのない煌めく一瞬を簡潔かつしなやか文章で見事に定着する。
山際淳司は1948年生。1980年に発表の『江夏の21球』で一躍ひろく知られるようになり、以後スポーツ分野で優れたノンフィクションを次々に発表した。
小説にも手を染めたが、惜しくも1995年病没。胃癌であった。享年46歳。長寿社会の今日、夭折といってよい。
紙の本
結言がまた粋
2010/08/31 07:08
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆきはじめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
8人の主人公がそれぞれのスポーツに青春を懸けた短編集です。
淡々と、或いは劇画的に表現された、緊迫、清涼、高揚、躍動という感情の起伏が臨場感を伴って伝わってきます。
結言がまた粋に味わい深く、そこはかと無い余韻を残します。
まさしく珠玉の短編集だと思います。
紙の本
等身大のスポーツ選手たちの、一瞬の、そして真実の輝き
2012/10/08 01:07
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
綿密な取材と冷静な分析、端正な文章で好評を博したスポーツライター山際淳司氏の代表的な短編を集めた、ノンフィクション文学の金字塔。
著者は、小説やTVドラマ、映画といったフィクションの世界に出てくるような「感涙必至の名場面」を決して描かない。単純な「友情・努力・勝利」を表現したりしない。熱血、スポ根を強調することもない。安っぽい感動を押し売りするなんてことは絶対にない。
建前やお体裁に惑わされることなく、スポーツ選手たちの実像に肉迫していく。
著者がインタビューによって引き出すアスリートたちの“ホンネ”は、一見すると、あまり格好良くない。勝利のためには全てを犠牲にするといった、求道者的でストイックなスポーツマンの姿は、そこにはない。そういうウソは徹底的に排除する。あくまで真実を浮き彫りにする。
にもかかわらず、著者が切り取った、その真実の瞬間、選手たちは確かに輝いているのだ。彼らが輝くのは、必ずしも「優勝の瞬間」のような分かりやすい栄光の場面ではない。普通の人なら気にも留めない一瞬に垣間見える、男たちの意地と矜持を、夢と執念を、本物の情念を、著者は見逃さない。彼らの本当の誇りに接した時、“ありがちな”感動とは全く違う、清冽な印象を受けるのである。
スポーツの現場で展開されるスリリングな瞬間に真摯に向き合わず、自分の浅薄な鋳型に嵌め込んで、紋切り型の美談を捏造してしまう凡百のスポーツライターたちは、本書から良く学んでほしい。
紙の本
スポーツジャーナリストという職業。
2002/07/21 22:11
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:優樹O - この投稿者のレビュー一覧を見る
海外ではスポーツジャーナリストに非常に優秀な人が多い。ウォーターゲート事件で名を馳せたあのデビットハルバースタムも政治研究と同じくらいスポーツノンフィクションの傑作が多い。この「スローカーブを、もう一球」はそんなスポーツジャーナリズムを日本に根付かせたと言ってもいい記念碑的作品だ。表題作「スローカーブを、もう一球」やあの有名な「江夏の21球」が収録されている。野球以外にも多種多様なスポーツが取り上げられている。読むとスポーツがしたくなる本だ。
紙の本
ある高校生の高校野球
2001/07/05 10:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:片桐真琴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は日本のスポーツノンフィクションの「古典」とさえ言えるもので、表題作をはじめ、あの有名な「江夏の21球」など全8編のノンフィクションを収めています。山際淳司さんは生前本当にたくさんの作品を残していますが、私が最も好きな作品が表題作の「スローカーブを、もう一球」です。
関東のある進学校の野球部が地区大会を勝ち上がっていく様を、エースの川端投手と素人の新米監督の視点を通して描いたものです。元ジャイアンツの江川が好きだという川端投手は甲子園で見るエースとはどこか違う。彼は1試合のうちスローカーブを何球か投げるが、その時に打者の見せる反応を見るのが好きだと言う。また、飯野監督は若いからというだけで「就任させられ」た、野球歴3ヶ月の先生だ。彼らは甲子園に行けるとは誰も考えていない。関東大会1回戦で勝ったとき野球部長は校長に「勝ってしまったんですよ。」と電話を入れ、校長もそれに答えてこう言う。「そうか、勝っちゃったか。」
そんな彼らの飄々とした姿と、勝つことに血眼になっている強豪校との違いがなんとも印象的だ。筆者は緻密なインタビューを敢行し、ある種、高校野球のアンチテーゼとして彼らを浮かび上がらせている。この作品は15年以上前のものだが、高校野球シーズンが始まる前に、彼らのような高校球児がいることも心に留めておきたい。
紙の本
スポーツ・ノンフィクションの面白さ
2001/09/02 11:20
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
かの有名な「江夏の21球」を含む、スポーツ・ノンフィクション短編集である。高校野球、プロ野球、ボート、ボクシング、スカッシュ、走り高跳び、と取り上げる題材は多彩だ。
ボートの津田真男やスカッシュの坂本聖二はストイックなまでに自分を律し、ボートやスカッシュに全身全霊で打ち込んでいる。そこまでやる必要があるのかと思う一方で、そこまで一つのことに打ち込めたらどんなにいいだろうと思わせるものがある。
かと思えば、ボクシングの春日井健や高崎高校のピッチャー川端俊介は、一生懸命にやるなんて格好悪いと思うタイプであり、ボクシングや野球にある程度距離を置き、醒めた目で見ているところがある。
どちらのタイプの主人公の話も面白いが、とくにお薦めは「たった一人のオリンピック」と題された短篇である。主人公は津田真男。大学生だった津田はある日突然、オリンピックに出よう、と思い立ってしまう。何でオリンピックに出るかはそこから考えるのである。団体競技はもってのほかで、ヨットやアーチェリーを考えるが、色々あって断念し、偶然ボートそれも一人乗りのボートを思いつく。そしてこんなマイナーな競技なら競技人口が少ないから何とかなるのではないかと思ってしまう。
そこからオリンピックへ向けたたった一人の挑戦が始まるわけだが、非常に楽天的でありながら、緻密な計算もできる津田真男の何と魅力的なことか。ラストには実に皮肉な結末が待っているのだが、それもまた人生なのかもしれない。
紙の本
スポーツはいいよね
2000/09/28 08:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コウちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
第八回の日本ノンフィクション賞を受賞した作品。
1979年のプロ野球日本シリーズ、広島カープ対近鉄バファローズ戦の、あの江夏豊投手の奇跡のような投球を克明に描いた「江夏の21球」を含めた8篇のノンフィクション。野球が4篇、ボート、ボクシング、スカッシュ、陸上の棒高跳びが各1篇ずつ、テーマとして扱われている。
1979年の高校野球、「箕島高校 対 星稜高校」の延長18回の死闘と、そのときの選手たちや監督の心情を描いた『八月のカクテル光線』。
あの、「ミスタープロ野球」長島監督から声をかけられ高校からプロ野球、巨人軍に入団しながらバッティングピッチャーとなった青年の心情を描く「背番号94」。
どの作品も、必ずしもスポーツでの勝利者だけを描いたものではない。また、全ての作品がいわゆるスポーツの名場面を扱ったものでもない。『スローカーブを、もう一球』は、平凡な地方の高校の野球部が、自分たちのペースで野球をやって、大会を勝ち進んでいく。ヒーローがいるわけでもない。ただ、ピッチャーの得意な「スローカーブ」で勝ち進んでいく、その時の選手の心情を描いている。
スポーツは、感動的なシーンをしばしば演出があるかのように人々に見せ、感動させる。おそらく当事者である選手たちが一番驚くような場面も度々ある。しかし、観客が思うような感動や高ぶりの中で、以外と冷静に「さめた」目で自分自身を見ている選手たちがいることもこの作品には描かれている。逆に観客がどう思おうと、選手のなかで納得し最高だと思う瞬間があるのだろう。やはりスポーツは、見るよりやるほうが楽しいのかもしれない。そんな気にさせる一冊だ。
因みにタイトルの『スローカーブを、もう一球』は、とても気に入っている。
紙の本
『江夏豊の21球』
2000/10/12 12:20
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:金子麻里 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本のスポーツノンフィクションを語るうえで、避けては通れない1編がある。『江夏豊の21球』。スポーツライター山際淳司のデビュー作であり、1980年、雑誌『ナンバー』の創刊号を飾った、このあまりに有名な短編を含む8編が、この本には収録されている。
79年プロ野球に本シリーズ第7戦で、広島の守護神・江夏豊が9回裏になげた21球。時間にして26分間の描写でしかない。だがここに描き出されたのは、息苦しくなるような心理戦と、恐ろしいほど凝縮された時間だ。外野席でメガホンを打ち鳴らし、ヤジを飛ばしながら野球を見るのも、確かに面白い。だがスポーツを「読む」(読書という意味だけではなく、目に見えない事象まで読むという意味でも)面白さを、この本を読み返すたびに、あらためて気づかされる。
このほか表題作は、 球速60kmの超スローカーブを持つエースと、素人監督の下で、思わぬ甲子園出場を決めてしまった進学校の野球部の物語。スポーツ経験が全くないにもかかわらず、ある日突然「オリンピック選手になろう」と思いついてしまった1人の青年の挑戦を追った、『たった一人のオリンピック』はユーモアがにじみ、また違った意味で面白い。