紙の本
翼は夜にそっと
2002/07/26 21:53
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投稿者:あさの - この投稿者のレビュー一覧を見る
少女の頃、長いことSFをよみあさっていた。
バローズやらローガンやら。
いつも、ヒーローは強く、そして科学は真実を知っていた。
この小説に出会ったのは、そんなものをあらかた読みあさってしまった後だった。
『夜の翼』
聞いた瞬間、なにを思うだろう。
夜にしかひらかない翼。
その翼を持つ翔人。
どれだけ儚い翼かわかりますか?夜にしか、開かないんですよ?
彼女はその翼ゆえに、昼間はよろよろと歩きながら、長い旅を続けます。
さまざまなキャラクターが、夜の翼を持つ彼女の周りでひたすらに旅を続けます。
でもその『儚さ』は、じつはどんなヒーローよりも、強く、優しかったのです。
もし心震わせるファンタジーに出会いたいなら、ぜひ一度この本を手にとってくださいますように。おそらく、ストーリーそのものが頭の中から消えてしまっても、おそらく何年たとうとも、『夜の翼』を持つ翔人のことは、永遠に頭に残るでしょう。それはすなわち、この作品の世界が、どこにも消えず、そこにあるということなのです。
紙の本
ファンタジーのようですが…
2003/10/12 20:59
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投稿者:kokusuda - この投稿者のレビュー一覧を見る
多作で知られるシルヴァーバーグ氏の作品で、
かなり以前の名作です。
題名からするとファンタジーのようですが、
叙情的でありながら異世界や登場人物たちの感情が
痛いほど感じられます。
胡蝶のように精妙な翼をはばたかせて〈翔人〉が空を飛び、
〈監視者〉は超感覚の増幅装置を手押車に載せて旅をする。
〈支配者〉には〈中性人間〉がかしずき、
〈記憶者〉はあらゆる事象を保存する…
このあまりにも異形な世界こそ、数万年の時の果に
みずからの犯した罪によって外敵の侵入におびえつづける、
滅びゆく地球の姿だった。
そして、一生を侵略者の見張りに捧げた老〈監視者〉が、
〈翔人〉の娘、〈変形人間〉らとともに
古都ロウムへさしかかったとき、
すべては破滅へと向けて猛然と回転を始めるのだった。
ヒューゴー賞、アポロ賞両賞受賞に輝く幻想SFの名作!
(初版カバー解説より)
1968年から69年に発表した短編3作を
まとめて長編にした作品です。
ちなみに「夜の翼」「〈記憶者〉とともに」
「ジョルスレムへの道」が題名です。
数万年の未来ですが地球です。
全ての地名や歴史に聞き覚えがあるのですが、
地形などとともに微妙に変化しています。
東西の宗教や政治理念、神話や民話なども
うまくアレンジして取り込んでいます。
この辺の異世界(異社会?)の作り方は
さすがにシルヴァーバーグ氏ですね。
秀逸です。
この作品を再読して「マトリックス」を
思い出しました。
いえ、内容ではなく3作セットで
それぞれにテーマがあるところなんかや
微妙な退廃感がです。
「マトリックス」はキアヌ・リーブスに言わせれば
「誕生」「人生」「死」だそうです。
この作品にあえてテーマをつけるなら
「崩壊」「贖罪」「浄化」でしょうか?
多作で知られるシルヴァーバーグ氏は
小説工場と言われていました。
なんと年間60冊近く本を出していたこともあります。
伝説も数多く聞かれますね。
作家がスランプになった話はたまに聞きますが、
彼がスランプは無いのか?と、聞かれて
「めったに無いが、15分だけ書けなくなったことがある」
と、答えたそうです。
彼の作品は傑作も多いんですが、
勢いで書いたような難のある作品も多いです(笑
しかし、この作品はお奨めです。
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『ガラスの塔』『いまひとたびの生』『時の仮面』『内死』など、ロバート・シルヴァーバーグは「破壊」「再生」をモチーフにしたものが多い。
その中で「再生」を一番美しく優しいストーリーとして現したのがこれではと思う。
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2011年9月鬼怒川に行く車中でなくしたようなので買いなおし。
行き過ぎた文明の発展。
地球に対する、人類に対する、異星人に対する傲慢が招いた崩壊と侵略。
遠い未来にして遠い過去に逆戻りした世界での老人の流転と再生の物語。
エイス、アフリーク、アイロプ、ストラリア、ユサ-アムリク、スド-アムリク、
ヒンド、ロウム、アグプト、ペリ、ジョルスレム、クリスタ教、ミスラム教
地名など名詞が微妙に変化
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SFは苦手なのですが、この本は幻想的な雰囲気がとても素晴らしく、ファンタジー小説のように読み進めることができました。
一番印象的だったのは、やはり第1部の「夜の翼」。
──舞い上がれ! アヴルエラ! 上がるのだ!
<翔人>アヴルエラに心の中で語りかける老いた<監視人>の思いがとても印象的で、それがまさか第3部の結末に繋がっていくとは予想もしておらず感動的です。
人生の目的や義務を失った老<監視人>の再生が、第2部、第3部と書かれていきます。
「地球」が征服された後も、次の目的を探しながら旅を続ける<監視人>の姿は寂しくあるものの、とても頼もしかったです。
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入院中に先生にいただいて
出会えた本です。
一人の老人の一生を主軸に
どんどんと展開していく物語。
描写が具体的で
主人公と共に旅をして
この目で見て、経験したような感じがあります。
こういうSFに出会ったことがなかったので
私としては新鮮でした。
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ヒューゴー賞とアポロ賞というアメリカ、フランス両国でもっとも権威のあるSFの賞をそれぞれとっているので、ジャンル的にはSFらしい。
でもまがいもなくファンタジーでもありました。
『緑のヴェール』も面白かったけど、
ちょっと文体の高貴さに胃もたれをおこした者としては
これくらいサクサクと読みやすい文体がちょうどいいです。
文体がたんたんとしていても、
中に描かれる世界はめくるめく想像世界だから、じゅうぶん楽しめるのです。
主人公の老人のキャラクターがいいです。
老いたぶんの苦みも出しつつ、誠実な主人公で応援したくなりました。
「支配者」「記録者」「監視者」「翔人」「夢遊心霊師」などなど、
生まれた時から職業ギルドに属し、中にはその容姿までギルドに添うことになる未来の人間たちの世界が描かれています。
中篇が3篇で、1つの叙事詩ができあがる方式。
ラストに主人公達が目指す世界の在り方には
なんだか感動すら覚えたよい本でした。
作者はおそるべき量産型の人らしいです。
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夏バテで、思うように本が読めません(泣)そんな中、やっと読了。ロウムとか少しひねった都市名が印象的。最後の救済のところは、自分も感じるところなのでとても惹きこまれた。世界の一部になり、一部(一人)が全体になるという感覚のところ。とても印象的な表紙とともに翔人アヴルエラの事の印象に残ります。秋に読めばもっと良かったと思う。
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SFというよりファンタジー・ロードノベル。目に浮かぶビジュアルがとても美しくて、どんどん読ませる。ラストは微妙に腑に落ちないが!
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権威ある海外SF賞のヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞した古典。
日本ファンタジー大賞の選考委員である
椎名誠氏が選評の中で推薦していたので読んでみた。
するすると物語に入り込めて、
主人公と一緒に未来の世界を旅しているような気分になれた。
廃退した世界で描かれているのは人類の贖罪と再生。
耽美な存在でタイトルともなった
翼を生やした人間である”翔人”が、
ほの暗い未来に光彩を放つ。
それこそ、一筋の希望のように。
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勢いがあるなぁ。
皇帝がいい感じ。
登場人物が人間臭い。
解説がすさまじい。
ジョブチェンジってドラクエ、FFのはしりか。
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シルヴァバーグの珍しく美しい作品
表紙 5点中原 脩
展開 6点1969年著作
文章 7点
内容 570点
合計 588点
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表題だけは強烈に覚えています。
山下達郎の曲名と同時に脳裏に焼きついています。
最近この作品の事を思い出します。
他所であいつとバッコンバッコンやで・・・
おっさん「知るか』
そうなんです。くだらん事言うなやと言うか
改めて読み直してみたいです。
人生の節目に必要だろうかと。
エロいことで頭満載の高校生でしたが、そんなケダモノレベルの人間が読むと
エロいことばかりに集中してしまいがちです。
老成された筆者の伝えたいことを誤解するだろうと。
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昨年、「小惑星ハイジャック」で久しぶりにシルヴァーバーグを読んだが、こんなのを読んでるくらいなら既訳作品を再読した方がよっぽどいいんじゃないの、と思い立ったのが『ロバート・シルヴァーバーグ(RS)再読計画』だ。
大仰なタイトルを付けてしまったが、妙に気に入ってしまったのでそのまま呼称している。(^_^;)
実際には、まだ読んでいないものも何冊かあったり、特に期限も定めていなかったりするので『計画』というのもおこがましいのだが、まあ、細かいことは気にせず、“もう一度じっくりと読んでみよう”というものだ。
一冊目を「いばらの旅路」としたが、二冊目を何にしようかと考えて、さほど迷うこともなく「夜の翼」に決めた。
シルヴァーバーグ作品において、日本で最も人気が高い作品ではないだろうか。
ヒュ-ゴー賞・星雲賞・アポロ賞を受賞しており、文字どおりRSの代表作に数えられている。
ロマンあふれるタイトルも含め、幻想的な物語はいかにも日本人好みなのだろうと思う。
――遥かな未来、かつては星々の大海にまで版図を拡げ栄華を誇った文明を、自らの罪と過ちにより失った人類は、異星からの侵略者に怯えながらギルド制のもとで前時代の遺産をたよりに細々と暮らしていた。天空からの侵略者を見張ることを生涯の役務としてきた〈監視者〉ギルドの老人が、蝶のような羽をもつ〈翔人〉の少女、怪物を思わせる容姿をした〈変形人間〉とともに古都ロウムにたどり着いたとき、世界は運命の時を迎える――
本作で最も心をとらえるのは、その豊かなイメージだ。
1968年に発表された本作は、サイエンスとファンタジーを融合し、科学により構築された幻想的世界を舞台としている。
栄華の時は彼方に過ぎ去り、落日の残照に巨大な骸を晒すかのようにたたずむ古都の建築群。昔日の繁栄を取り戻すこともかなわず、侵略者の影に怯え、ただ終焉の時を待つ人々。すべてが色褪せた風景の中に消え去ろうとしている。
静かに滅びゆく古代都市の薄暮の空に舞う〈翔人〉の少女――陽光の下では翔ぶこと能わず、肉付き薄い裸身となりて祈りを捧げ、翅脈のあわいに黒と緋と青緑の斑紋を散らす透明な羽をひらく――は、ただ儚く美しい。
一転、地球に残されたすべての人々が怖れていた復讐の誓いが果たされるとき、異星船団が天空を覆い尽くし、侵略者の前に人々はなすすべもなく逃げ惑う。阿鼻叫喚の一夜が、圧倒的な迫力をもって描き出される。
また、古都ロウムの遺跡にある“真実の口”をきっかけに、予感された真相が明らかとなるシーンは、いかにもRSらしいストーリーテリングだろう。
狂乱の一夜ののちに、〈翔人〉の少女が侵略者に抱きかかえられるようにして飛び去ってゆくのを見た老〈監視者〉の心をよぎったのは、悲哀か、さもなくば諦念であったのか。
RSの作品に、“サイエンス”の部分が弱かったり、ヘタをすると説明すら無かったりすることに苦言を呈する読者もあるが、RSの関心は科学的アイディアを背景に演じられる人間のドラマ――“フィクション”の部分にこそあるので、申し訳ないがこの苦情は無い���ねだりであり、見当違いというものだろう。
文学的な引用としては、盲目となった落魄の皇帝との旅がソポクレスの「コロノスのオイディプス」を想起させたり、第三部のタイトルが聖パウロのエピソードにちなむ慣用句 the road to Damascus (人生における突然の転機)になぞらえたものだったりするが、なによりも本作において記すべきは、ダンテの「神曲」との相似ではないだろうか。
本作は全三部で構成されているが、再読してみて、そのまま「神曲」の「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」に相対しているように思えたのだ。
1968年2月、ニューヨーク自宅の火災被害により意気消沈したRSだったが、生活を再建すべく仕事を再開するにあたって最初に書いた物語が、本書の第一部となった「夜の翼」であった。
火災から10日あまりのち、思い浮かんだタイトルからイメージを膨らませ、5日間ほどで一気に書き上げたものだ。
原稿を受取ったギャラクシー誌編集長フレデリック・ポールは即座に513ドルの小切手を送ったが、RSは稿料の確認もそこそこにポールに続編2編の執筆を打診している。
自分が書き上げた物語「夜の翼」が、主人公と異星人に征服された地球全体とが再生と救済を遂げるまでの三部作の序章であることに気付いたためだという。
間違いなく、第一部「夜の翼」は出色の出来だった。
その豊饒なイメージも、静かな導入に対して怒涛のごとく急転直下に至る結末も、背景に広がる世界の奥行きも、ラストの苦さすらも。
RSにとって初めてのヒューゴー賞受賞作品となったのは、誰しもが納得するところだろう。
ところが読者のなかには、第二部・第三部は冗長であり不要、とするものもある。
確かに、衝撃的で苦い結末をもつ第一部は、読者の心を強くとらえる。
一方、第二部の半分は第一部で省略し読者の想像に委ねた世界構築の裏付け説明であり、もう半分は世俗にまみれ手垢のついたゴシップストーリーにも思える。また第三部の結末は宗教色が強く、分りにくい部分もある。
しかしながら、意図せず書き上げた第一部にRS自身が「地獄篇」――“生前の罪により永遠に解放されることのない罰を受け続けている”――を読み取ったのであれば、続編が二つ必要となることは、もはや明白であったのかもしれない。
第二部では「7つの大罪」を思わせる欲にまみれた俗世の罪を描き、第三部では〈聖霊〉との交わりを経て罪を雪ぎすべてのものと一体となる。
この三篇をもって全体となすことが、RSにとって重要だったのではないだろうか。
本作と「神曲」とを関連付けた記事やインタビュー等を目にしたことはなかったが、「いばらの旅路」においてあれほど過剰なまでに文学的引用・隠喩を散りばめたRSが、本作で「神曲」を意識もしなかったとはとても思えないのだが……これもまた、ファンの欲目、牽強付会なのだろうか。
第三部に見ることのできる「贖罪と再生」のテーマをより深化させたRSは、十か月のちに再びギャラクシー誌上で「大地への下降」を連載することとなる。
これもまた、再読を楽しみにしたいと思う。
以下、蛇足となる。
今回���、電子テキスト化しながらの再読だった。
まず、最も気になったのが読点の多用だ。
必要とも思えない「、」が多すぎて煩雑に感じてしまった。そこに読点があることで、分りにくくなったり意味が違ってしまうような箇所もあり、よっぽど省いてしまおうかとも思ったのだが、ひとまずはそのままとした。
また、ぜんぜん誤訳ではないのだが、気になった箇所もいくつか。
P86(文庫版、以下同様)
中庭の、年を経た丸石に、私は根を下ろしたように突っ立って
Rooted to the ancient cobbles of the courtyard,
「cobblestone 〔道路舗装用の〕小さな丸石」や「cobbled street 石畳の道[道路]」などの例からすれば、シンプルに「中庭の古い石畳に、」としたほうがイメージしやすいのではないだろうか。
最初、丸い大岩の上に立ってるのかと勘違いしてしまったので。(自分だけ?)
P116
不可思議なからくり、とぐろ巻く腸を見たいと思ったのだ。
to see the coiling intestines of mysterious devices
かつて、暴威をふるい故国を海に沈めた悪魔の機械――天候制御装置のおどろおどろしい中身を見てみたいと思った、という意味合いであれば、このままだとちょっとピンとこなかったので、「腸」に「はらわた」とルビを振りたくなった。「内蔵」「臓物」に代えてもいいけど。
ほかにも校正もれと思われる箇所がいくつかあったが、適宜修正させてもらった。
細かいツッコみを並べてしまったが、全体的にはとても良い翻訳だと感じた。
Dawn came. Strands of pale light looped from tower to tower. I touched fingers to my eyes, realizing that I must have slept while standing.
などは、直訳すると
「夜明けが来た。青白い光が塔から塔へと連なっている。立ったまま眠っていたのだと気づいて、目に指をあてた。」
となるが、佐藤高子さんの翻訳では
「夜が白じらと明けそめた。淡い光の縒り糸が、塔と塔をつぎつぎにつないでゆく。さだめし立ったまま眠っていたのにちがいない。そう気づいて、私は目に手を当てた。」(P86)
となっている。
シルヴァーバーグの流麗な文章を、美しく日本語に置きかえていると思えた。
以上、再読を堪能させていただきました。
妄言多謝。